第8話 火事場の馬鹿力ですってば

 オーク討伐隊を見送った翌日、俺達は集落が見つかった反対側の東側で薬草採取やボーンラビットなどを狩る事にした。


ララはボルテックスタイガーにならなくても魔法が使えるようになったらしく小さいままで大活躍していた。


森の中で、まだまだたくさん有るミノタウロスの肉のステーキとパンで腹ごしらえをした後、ギルドに戻って来た。



受付に行こうとした時、息も絶え絶えの冒険者が入って来て叫んだ。


「た……た、ハァ、大変だ。キ、ギルド長を……呼んでくれ~」



どうやらギルド長の心配が当たってしまったようだ。



伝令として戻って来たのはCクラスのレイザさんだった。






★★★★★★



「バンタムさん、斥候のレイザが戻って来ました」

「そうか直ぐに話が聞きたい」


レイザは説明する。


「オーク達の小屋は全部で40。ハイオークは4,5頭いたが、それ以上の上位種の気配は無かったぜ」


「小屋が40か、4頭ずついるとして160頭でハイオークがチラホラという事か」


「この面子なら160頭くらいなら楽勝だろ」

「そうだな。良し、予定通り明朝に奇襲をかける」


「「「「おおっ!」」」」



ーー


奇襲は成功したと言える。オーク達は討伐隊によって呆気なく屠られて行く。


「この調子なら後20~30分でかたづくなバンタム」

「うむ」


「ブモモモ~オオオオオ!」


「なんだこの叫び声は?」

「裏の山の方からだ」


「この威圧感、不味いぞ」


「あれを見ろ」

「オークジェネラル……3頭も」

「違う!その左後ろだ」

「……キングなのか?」


「ああ、間違いない」

「バンタム、どうする?」

「キリヤ、お前は?」

「撤退が一番だが、もう間に合わない」


「そうだな。仕方ない、レイザはいるか?」

「ここに」


「俺達で隙を作る。お前は街へ戻って応援を呼んで来てくれ」


「しかし……」


「心配するな。いざとなったらあの洞窟に入って持ち堪えてみせる」


「……分かりました。必ず応援を連れて来ます」


「頼むぞレイザ。キリヤ、皆に伝令だ」

「おう」



無事に脱出したレイザは死に物狂いで街を目指した。



☆☆☆☆☆☆




話を聞いたギルド長は直ぐに立ち上がる。


「今から俺が出る。手の空いている者はついて来てくれ」


「ギルド長が出るなら100人力だ。俺は行くぜ」

「俺等もだ」

「俺も」


「俺も」



「助かる。準備が出来次第出る。広場へ集合」

「「「「「おう!」」」」」



元Sクラスの冒険者で男気溢れる性格。ギルド長になるべくしてなった人だ。


「ララ、俺達も行くか?」

「にゃう」




ーーーー


集まったのはダンジョンから帰って来てたBクラス2パーティ、Cクラスの10パーティと俺達2人でで50人。



「ん、坊主も行くのか?」

「はい」

「正直Fクラスではキツい止めておけ」


「俺にはヒールのスキルが有ります。けが人の手当でお役に立てるかと」


「ヒールのスキルだと……また、珍しいな。バンタム達は苦戦を強い要られて筈だ、頼む。だが無理はするなよ」


「はい」



ーー


ギルドが用意してくれた馬車で森の入口へ向かう。


「間に合ってくれれば良いが。レイザ、案内しろ」

「はい、こっちです」



暫く走ると遠くから岩を削る様な音がする。それを聞いた皆の走りが更に速くなる。


見えて来た。オークジェネラル3頭とオークキングが斧や剣で岩壁を砕いている。どうやら皆は洞窟に立て籠もっているらしい。


入口は土壁で塞がれている。土属性の魔法で防いでいるのだが既にその周りから崩れかけているので時間の問題だ。


後、少し、距離で言えば50m程度のところまで俺達が迫った時、周りの岩壁と共に防いでいた土壁もガラガラと崩れ去った。


剣を構えている冒険者達の姿が露わになる。バンタムさん達がCクラスの冒険者を庇うように前に出たが、ジェネラルはAクラスが3パーティ、キングならAクラス6パーティが相当とされているので、弾き飛ばされ惨事になるのは必然だろう。


ジェネラル達とキングが斧と剣を振りかぶる。ギルド長のマッカラムさんが遠距離広域魔法を使おうとするが皆を巻き込むので思いとどまる。


「くぅっ!間に合わん」


ゴブリンに変更はできるが既に剣と斧は振り下ろされている。その威力までは変更出来ない。


ええい、仕方ない。


「マジックハンマー!」


俺が放った魔法はリッチのスキル"コンバージョン"をつかって魔力を変換して物理的な力とパワーエネルギーにする物だ。一応、この世界には無いので、無属性として俺のオリジナルになる。


魔法属性が有る人達は意識せずに各属性に変換できるのだと俺は思う。


とすれば"コンバージョン"スキルがあれば俺は全ての魔法が使える筈だが、ストック帳のお陰で既に使えるので考える必要は無い。


俺が魔力コントロールした通りジェネラルとキングを左右に弾き飛ばした。現代人が見れば超能力に見えるだろう。


理由も解らず弾き飛ばされたジェネラルとキングはフラフラと立ち上がった。


「ニャッッ!」


気合が入ったララの尻尾の上の3重に構築された魔法陣から、超強力なダークバレットが放たれジェネラルとキングの後頭部を撃ち抜き4頭は仰向けに崩れ落ちた。



「坊主、今のはなんだ?」


「え、えっと、それはですね……無属性魔法と俺の従魔のダークバレットです。それより皆さんの様子を」


「……確かにそうだな。お~い、バンタム無事か?」

「はい!何とか。ギルド長、ありがとう御座います」


「ちょっと複雑な心境だがな」




A,Bクラスの人達は急に上位種が産まれた事についてギルド長と話合っている。


俺は当初の目的通りケガした冒険者達にヒールをかけていた。このスキルはウンディーネさんから得たスキルだ。


状態異常もほとんど治せるスキルも有るのでララに何か合っても安心出来る。



皆が落ち着いたところで街に戻る事となった。そして今、俺は2階にあるギルド長室に座らされている。



「ふ~ん、するってぇと昨日読んだ魔法書の通りやったら、魔力を練って物理的力とパワーにするマジックハンマーとやらの無属性魔法がたまたま撃てたと。そういう事かな?」


「そ、そうです。無属性はイメージが大事と書いて有りましたし、皆が危ないと思ったらもう必死で、火事場の馬鹿力と申しましようか」


半分は本当の事だ。ギルドの資料室の魔法書にイメージが大事とちゃんと書いてある。



「ふ~ん、ふ~ん。で、そのフォレストキャットは何処で?」


「西の森でケガをしてたので、治してあげたら懐かれまして」


「……解った。根掘り葉掘り訊いて済まなかったな。許してくれ」



あっさり引いてくれた。さすがは男気溢れるギルド長。


翌日、依頼を受けにギルドに行くとDクラスの登録証と金貨が50枚入った革袋をもらった。



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