第7話 新生活は慌ただしく
目が覚めたらちゃんと天井があった、頭もスッキリしている。う~ん、ぐっすりと寝れたらしい。ララのにゃ~んアラームも鳴らなかったし。……その筈だ隣でスースーと寝息を立てている。
ずっと気を張っていたのかもしれないね。それにしても今何時だろう?この世界に時計は有るのかな?ちゃんとした部屋にいると気にならなかった物が気になって来るな。
暫くして「お客さん朝めしどうします?」と声がかかった。たぶん昨日会ったここの女将さんだろう。
「はい、食べます」
「それじゃ下に降りて来ておくれ」
可哀相だがララを起こして下に降りて行くと朝食を食べる冒険者で賑わっていた。
おお、猫耳だ。猫好きの俺としては感動ものだ。獣人だけでなく蜥蜴族やエルフ、ドワーフと思われる者もいた。
こんなに色んな種族がいるのが普通なのか?というほど国際色豊かだ。
パンとスープにオーク焼肉のセットをララと一緒に食べ、直ぐに教えてもらった初心者冒険者御用達の店に行って靴だけを買う。
お金に余裕は無い。宿で銀貨5枚、靴が銀貨8枚だったので宿にはあと2泊しかできないので、手持ちの素材を出しても違和感がないように早くクラスアップしたい。
いざとなったら亜空間が有るので、気は楽だけど。
ギルドに行ったら、この街に色んな種族がいる理由が解った。
この街の北に行くとCクラスまでの魔物が出るカランツの森が在り、南に行くとCクラス以上の魔物が出るバカラルのダンジョンが在るので各地から冒険者が集まって来るそうだ。
森は初心者から中級、ダンジョンは実力のある冒険者が行く所となっているわけだ。
俺達は森の方で定番の薬草取りだ。とは言っても襲われた体でゴブリンを狩るつもりだ
森に行く前に衛兵の詰め所に寄る。ええと、居た。ハリィさんだ。
「ハリィさん」
「ああ、君か。どうしてここに?」
「昨日の入街税を払いに来ました」
「ふふ、義理堅いね君は。そうだな……テリーさんの遺品を持ってきたお礼という事で俺に奢らせてくれないか?」
「そういう事でしたら、お言葉甘えさせてもらいます」
「うん、これから森かい?」
「はい」
「最近、ゴブリンが増えて来ているらしいので、気をつけてな」
「分かりました」
「ララ、聞いた。ゴブリンが増えているらしいぞ」
「にゃう」
森へは定期馬車が出ているので利用する。片道、銅貨20枚なので、薬草採取だけではたいして儲けにならないから今の俺にはもったいないが仕方ない。
歩いて行けない事はないが2時間はかかるので、時間と体力がもったいない。
ゴブリンが増えているのであれば好都合だ。取り合えず薬草採取を片付けておくか。
「ララ、お願いしてもいいかい?」
「にゃう」
ララには予め全ての種類の薬草の匂いを覚えてもらっているので楽勝だろう。
ララは森の中へ消えて行った。さて、俺はゴブリン捜しだ。
人気のいない方へ進んで行く。
「この辺で良いか」
俺はサッキングバッドのスキル[ソナーストラクチャー]を使う。
このスキルは半径1Kmが限界なのが残念な所だ。
線画による3D映像が頭の中に入り込んでくる。……かなりの数の魔物がこっちに移動してくる。かなり速い。
ん?その後からひと回り大きい魔物がいるな。もしかして小さい方は追われているのか?
「そろそろここに来るな」
現れたのはゴブリンの集団だった。何から逃げている?
「なんだオーク達に追われていたのか」
後方のゴブリンがオーク達に追いつかれ剣で斬られていく。
さて、ギルドに怪しまれないように倒さないと。
俺は無属性という事になっている。この世界で無属性とは火・水・風・土・光・闇・雷、意外の物を言うそうだ。
現在この世界で無属性と認識されているのは冷気の魔法1つだけだ。
でもなぁ、Fクラスの俺が使えばそれもヤバいか。数が多すぎるんだよな。何もこんなに来なくたっていいのにツイてない。
あっ、亜空間に入れといて少しずつ出せば良いのか。そうと決まれば。
ウインドカッターで全て首をハネる。オークは肉が売れるので鼻を切って亜空間へ。ゴブリンは耳を切って全てキマイラの炎のブレスで消滅。
しめてオークが22頭、ゴブリンが35頭だ。
オークが1頭とゴブリン5頭が争っていて相打ち、そこに偶然俺が通り瀕死のオークとゴブリンを倒したという筋書きだ。ふっ、ふっ、ふっ。
「にゃ~」
「帰って来たか」
首にかけた袋がパンパンだ、依頼は達成だな。
「ん、誰か来るな。ララ、行くぞ」
「にゃ」
ギルドに帰ると中は騒がしかった。依頼が終わり冒険者が一斉に帰ってきたせいかと思ったが、どうやら違うらしい。
ギルドの食堂で軽く食べている冒険者にそれとなく訊いてみる。
「森の西側の奥でオークの集落が見つかったんだよ。それで討伐依頼が出されてこの騒ぎさ」
「そうですか、ありがとう御座います」
なるほど、オークが勢力を伸ばしてゴブリンを襲っていたのか。
「お帰りなさい、シンさん。オークに遭遇しませんでしたか?」
「え、ええ。オークとゴブリンが戦って……」
なんとか受付嬢のリマさんに説明は上手くできた筈。
「これがオークの鼻で、こっちがゴブリンの耳、あと薬草です」
「そうですか、良かったです。心配したんですよ」
「ええ、運が良かったです」
「オークは銀貨3枚、ゴブリンは銅貨500枚。頭数分の合計で銀貨5枚と銅貨500枚に薬草依頼分銅貨500枚で銀貨6枚ね」
「ありがとう御座います。後、オークの肉はどうしたらいいですか?」
「解体が必要なら裏の解体場へ、でも手数料はかかりますよ。解体済みなら素材買い取りは解体場の隣です」
「解りました」
これで俺の思い通りになったわけで、後はオークを解体してもらうのだが亜空間から出すのをなんて説明しよう?これからも持って行くのだからスキルという事で納得してもらおう。
解体場の責任者ドウアさんは最初驚いたが深く詮索はして来なかった。スキルについては詮索しないのが暗黙のルールなのだろう。
俺達が解体場を出るとオーク集落の討伐隊が出発するところだった。
Aクラスのパーティが2組、Bクラスが3組、Cクラスが5組でパーティは皆4人なので40人だ。オークの集落の規模が判らないので何とも言えないが、いささか少ないとギルド長は心配しているらしい。
他の主力はバカラルのダンジョンに潜っているので連絡が取れなかったらしいのだ。
今日の夜、詳しく調査をして早朝に仕掛ける作戦だと言う。
Aクラスのバンタムさんを長とした討伐隊は街の人達の歓声を浴びながら出発して行った。
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