弥勒仏

南無三

弥勒仏

 昔々、紀伊の国の北部にある真言寺院・弘法山遍照寺に松本弥右ヱ門という侍がいました。彼の両親は弥勒仏への信仰が篤く、そのため幼名を弥勒丸と名付けられた松本は、高野山で修行を積み松本家の菩提寺である遍照寺の寺侍となりました。



 ある日、寅の刻(午後4時頃)に松本は日課である弥勒経を、遍照寺の本尊である木造弥勒仏坐像の前で読経していました。すると、目の前の仏像が光り輝き、仏が姿を現しました。



 驚いた松本は目を瞑りましたが、再び目を開けると仏の姿は消えており、目の前には「除暴安良」と書かれた掛け軸と一振りの刀が置かれていました。



 その日の辰の刻(午後8時頃)、松本は仏から授かった刀を観察していました。外装には無駄な装飾が無く、刀身には「南無弥勒仏」と彫られていました。



「これは弥勒仏のご加護だろうか」と松本は思いました。



そうとき、住職に「3つ山を越えたところにある村に物を届けてほしい」と頼まれました。



「最近、ここらへんの山賊によって2、3の村が襲われ滅ぼされたそうだ。普段は刀を持たないあなただが念のために持っていくといいだろう」



 そう住職に言われ松本は今朝、仏から授かった刀を持ち、歩き始めました。すでに長月の頃なのですが日差しが肌に刺さるようでした。歩き始めて2刻(4時間)ほど立った頃に、お堂が見えてきました。お堂に祀られていたのは薬師瑠璃光如来で松本は村人の安全を祈りました。すると松本の目の前に光を放つ御仏が現れ薬箱を置いていきました。



 「薬師仏までもが私にご加護を・・・」と松本は感謝しました。



 さらに歩き始めて1刻(2時間)ほどで目的の村が見えてきました。しかし、村からは黒い煙が上がっているのが見えました。松本が村に到着し物陰に隠れ様子を見ると、山賊が村人を拘束しているのが見えました。



「村人を開放しなさい。解放しないなら成敗してあげましょう」



 物陰から出ていき、そう言いながら刀を抜き盗賊に対して峰打ちで仕留めました。



「弥勒仏が全ての未来を照らしてくれる・・・」



 そう感嘆しながら盗賊の頭領までも打ち倒しました。拘束された村人には少し掠りり傷や打撲傷がありましたが、薬師仏から授かった薬を使うと全て癒すことが出来ました。


 その後、村人たちは襲撃されることなく平穏に暮らし、松本は荷物を届けた後、寺に戻り、幸せに暮らしました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

弥勒仏 南無三 @hawking1582

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画