第18話 さようなら。

『天使が!!』『テンシがキタぞ?!』『たすけて!!』『コロセ!』

ざわめく下級魔族。


それらの喧騒を無視して、ヴィクスは与えらた、レイギスの隠れ布を使って、バーバリーとともに城へと向かった。ノワールが案内してくれた。彼がレイギスの下僕だった頃から変わりないらしい。


ヴィクスは一度でも失敗すれば、死ぬのは自分だ。それだけではない、今では大事な仲間ができた。走っている最中に駆け巡る、簡単な旅路。ただ単に生きててほしいとして、東のレガートから追い出してくれたヘテプレススおじさん。まともに口を聞かなかった叔母様。彼女は女王としてまだ君臨しているのだろうか。だとしたら母は。。

頭を少し振りかぶる。

そうしたら、バーバリーが少し、頭を撫でてくれた。

{大丈夫だ、落ち着け。。}{大丈夫ですよ、ご主人様。}

私は少し背伸びしてバーバリーに軽く口付けをした。そんな意図はなかったのに深いキスになった。

さようならの合図だとしたら悲しい。


城の最上階にやってきた。

どういうわけか、魔族に出くわさずここまで来れた。隠れ布が効いたとしても最上級の魔族には効かないはずでは?

3人は扉を開けた。


待っていたのは、刀をのんびり構えた、姿勢のいい少しばかり歳の老いたように見える狼魔族。もう一人、梟と鷹を沢山構えている目隠し布をした美しい形の鼻の男。

そして、おそらく、この人が私の双子の兄、フィーヨル。美しい青い流れる髪とヤギの瞳が銀を放っている。銀はレイギスの印だ。


梟を押さえつけながら言う目隠し布の男魔族。

「ようこそ、魔王の場へ。『勇者』さん。ここまで君たちがくるのは目に見えていたよ。」

ーーー「初めまして、、あなたたち、全員、魔王なのかしら。。。失礼な質問だったら許して。」

ヴィクスの質問に答えるのが狼老人。笑いながら顔を綻ばせる。

「別にわしらが魔王だと不思議がるのは失礼じゃないが、ここに土足で天使どもとつるんでこぞってやってきたのは、、まあ怒り浸透ではあるなあ。。はっはっは。」


「それについては申し訳ありません。天使たちが言うこと聞けと。。私たちの力ではここまで来れなかったのです。」

「すまねーな、魔王さん、ありがたいことに足払いしてくれたみてーだな。。どうしてまた?余裕の表れか?俺たちの真の狙いを知ってか?」


「その若造への答えは両方じゃ。」

「そうです。フィーヨル殿に何か伝えたいためにここまで命知らずにきたんでしょう?それぐらいの礼儀は心持ちしてます。」


双子は今やっと対峙した。


遠かった2人が目を合わせた瞬間、やってきたのはフィーヨルの怒りの炎だった。それを宝剣でつゆ払いするヴィクス。

目と目で会話しているかのように見えて、いまいち、2人とも、今更自分たちの容姿が色違いなだけで同じ顔だと、、驚き、面食らっていた。


もし、国から追い出されたのがヴィクスだったら?

もし、レイギスの愛情を受け取ったのが、ヴィクスだったら?

そんな疑問符が頭からどんどん出てくるフィーヨルには、もういつもの(いつもだってないが)冷静さを失わせた。

標的はバーバリーに変わった。彼はただの弓と剣しか使えないのにここまできたのだ!愛しいものの為に!!

俺の双子も愛するものを失う悲しみをしるがいい!!


ヴィクスは狙いを察したのか、バーバリーを庇おうとするが、レイギスの美しい時の宝剣は

フィーヨルの意思にすまう嫉妬の炎という、レイギスの魔力を吸い取って、ほころびた。

その瞬間を狙って、また、マナで練り上げた、魔力衝撃でバーバリーを狙うフィーヨル。

しかし、マナを浴びたのは一緒にいたノワールだった。

死に晒す呪文だ。

彼は悪魔の噂で伝わる九つの猫の身をやっして何度目かの生を受けていたが、これで最期だった。

『聞いてください、ゲホ。ん、、フィーヨル様、、ワタクシは猫でありながら人間でもあった身の上で、あなたの愛しい方に拾っていただき育ててもらいました。。。っ。あなたの気持ちは少しだけわかります。でも。。でも。。ワタクシにとって、ヴィクス様も大事な方なのです。どうか、わたしだけで心を休めてください。。お、、願い。し、、』

瞳孔を見開いたまま、倒れて動かず、とうとう九つ目の命を捨てて、黒猫はこの世を去った。


ヴィクスのほおに知らずに涙がスーーーっと流れていった。

愛しいノワール!

私はどうすればいい?


フィーヨルはたちまち、動向が鈍った。

自分と同じ顔から涙が出ている。まるで自分が泣いているのを鏡でみているようだ!!

自分は涙を泣かすことをいつから忘れていただろう?

たちまち、レイギスにされた非道な数々の行為を思い出す。


「やめろ!!俺は!!俺は可哀想なオンナじゃない!!!!立派な魔王になるためだ!!!」

頭を抱えて、ひどく落ち込むフィーヨル。

逆手だとしても、ヴィクスはとうとう素手で彼の身体を抱えて暖かく包み込んだ。

忘れていた。

思い出した。

母親というものを。


とうとうフィーヨルのほおにも涙が通った。


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