第10話 北の魔神帝国『ダンデア』。双子の運命。

ここは北の帝国『ダンデア』。

魔族が支配する、魔力重視の王国。

その大きな城の地下室で水晶球を通して、ヴィクスたちをのぞいている者がいた。

まだヴィクスがレガート王国から出れなかった頃、『マーリン』と名乗り、手助けの魔法道具を預けた。黒猫の魔獣『ノワール』を通して。


ふふふ、と不気味な笑い声をひっそりとあげて、水晶にのめり込んでいた時、後ろから大層不満そうな声がかけられた。


銀の色の肩まで伸ばした髪。碧眼。美しい容姿。

彼はレガート王国から中央國に売られて、ここにきた。連れてこられた。まだ、物心がつく前どころか、赤ん坊の頃だ、、。親の顔なんて覚えていない。


名前は『フィーヨル』、、と、この自称『マーリン』と、ヴィクスに名乗った変人ーー本名『レイギス』に名付けられた。

フィーヨルは覚えておらず、その目の前のレイギスから聞いた。自分はいつだったか、まだ赤子の頃、中央國に売られて捨てられた、、命は、赤ん坊だったので、同情を引き、ついぶされることはなかったが、奴隷としても邪魔として、まだ赤子のうちに誰か、引き取るものはいないかと、中央國人たちが安値で売っていた頃、たまたま通りすがりのレイギスが10倍の値段で自分を買い取ったと。


今、鎖で繋がれているのは、レイギスと交わった後だからだ。

魔人となる準備だ。

彼、フィーヨルはこの北の魔族帝国、『ダンデア』の王族の端くれ、レイギスの公然の秘密の恋人だ。そうでもしないと、人間は奴隷扱いだ。

一般的に魔族と人間が交わると、『魔人』になるのだ。魔族並みの魔力(マナ)を人間でも得られる。ーー容貌も変わるらしい。


フィーヨルとしては特にその立場に不満はなかったのだが、最近、恋人がつれない。

水晶を見て、何かほくそ笑んでいる。

ーーー浮気だ。

そう、フィーヨルの立ち視点からすると、そういうものだった。しかし、恐ろしくて言えない。相手はこの帝国で恋人や愛人がさまざまなにいるのだ。命のためにも言えない。死ぬ覚悟はできていない。


こんな思考に耽ってる間にマナが静まったのか、鎖を解いてくれた。そして、フィーヨルを今晩も見てくれた!どきり!、として心臓が高鳴るフィーヨル。対価を得るための命の恋人もどきのつもりだろうが、フィーヨルは自覚なく、レイギスの恋人として愛されたかった。愛していた。

美しい緑のようにも見える深い漆黒の髪を腰まで伸ばして、赤い瞳孔がフィーヨルを優しく包み込む。


「ごめんごめん、、つい、面白い景色を見ていてね.。。君を蔑ろにして済まない。.。まあ、君がいつも毎晩、必要なこととは言え、私の性欲の刺激を与えてしまうから無茶させてしまうのだよ。かわいいフィーヨル.。」

バードキスをして、軽く舌を入れた後すっと口から離して、フィーヨルの頭を撫でる。


「水浴びをしておいで。」


フィーヨルは舌入りのキスで少し機嫌が良くなった。



ーーーーー浴場ーーー

水を浴びて、冷静さを取り戻して、身体を冷やした後、フィーヨルは考えた。

あの水晶を壊してしまおうか、、、いや、、それは危険すぎる。あの水晶の壊れた時のマナが放出されると、自分の身体が燃え尽きてしまう危険がある。


フィーヨルはここに来てからのことを思い出す。『ダンデア』では最初、赤子を拾ってきた、買ってきた、レイギスの所業に上流貴族が大いに大馬鹿にしたらしい。今思うと申し訳ない。だからこそ、いつか、彼の役に立てるのなら、今の生活を壊すべきじゃない。


水を浴びて、清めた身体は火照りと頭の暗雲とした思いを薙ぎとってくれた。



ーーーーーーーかれこれ、拾われてからフィーヨルが15の時を迎えた頃。


容姿はすっかり変わっていた。銀の髪が蒼白い光りをする美しい怪しい髪色に、碧眼は銀へと変わり、瞳孔が横に開いて、ヤギのようだ。牙もツノも、そして魔力も。上流魔族として申し分ない。


ここでは哀れなので書かないが、レイギスの一時的な嗜好で、上流魔族の大勢と交わった時もある。あの時の他の男たちに触られた屈辱は忘れられない記憶となった。その時感じた興奮も。上流魔族の大勢の相手を一度にたくさんしていた時をその場でワインを飲みながら拝見していたレイギスの異常な笑顔が怖かった。美しくて残酷な笑みだった。それこそがフィーヨルは大変に好きだった。



フィーヨルはいつしか魔族になっていった。性格も魔族の最悪の部類に属するレイギス、および、上流魔族たちをお手本として日に日に、性悪になっていた。もう、人間であることを忘れて、この城に迷い込んだ下級魔族を手足をもいで、餌として食べたり、下心で遊んだ後、惨殺している毎日だ。


レイギスはいつ、彼に双子のことを言おうか楽しみにしていた。

その前に、フィーヨルを次期魔王にしなくてはならない。そして、ヴィクスを立派な勇者様にしないとーー。。

双子で殺し合せたいのだ。

ただ、娯楽のためかと言うと、少し違う。


予言が天使一族から来たのだ、、、。ダンデアのもっと上空に、隠れた天使だけの住まう天界が存在することを知っているのはレイギスのみだ、、、、。


フィガロ姉妹は天使界の出身だった。だからこそ子供が産めなかった。妹は天使界の血を引いているだけではなくて、人間とのハーフだった。腹近いの姉妹だった。人間と混じった天使は記憶を消されて、人間として一生を過ごす。

フィガロとレイギスは遠い親戚だろうか。


双子のどちらかが死に絶えた時、魔族が滅びると。予言が下っていた。

しかし、もし、魔族の存亡が絶えないと言うなら、北の帝国は全世界を中心にできるだろうと、、人間の繁栄を止めれるだろうと。そういった内容だった。

予言を実現させる力がレイギスにはあったのだ。ただ見ているだけでは済まない、傍迷惑な性根だった。




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