第9話 スパイ

翌朝、コーヒーを飲みながら僕は先生のことを考えていた。あの時はとっさの判断であの提案に乗ったが、今は真剣に考えてみたい。


提案の内容は、「本土に逃げて、本部をつぶす」というものだった。


いや、普通に考えてやばくないか?

まず、本土に逃げること自体が難しい。噂によれば、この島には食べ物や商品を運ぶ船以外、どの船もヘリコプターも来ないと言う。その船ですら、厳重に調査され、取り締まるのはBランクかAランクの能力者たちだという。


仮にその調査を突破できたとしても、僕たちは現在の本土の情報を知らない。もちろん、本部の位置もわからない。ネットワークが制限されているため、本土の人と連絡を取ることもできない。先生がどんなに強くても、これらを完遂するのは至難の業だろう。


でも、先生がそこまでして本部をつぶしたい理由はなんだろう?

能力者に対する差別?それとも政府への不満?

まずは、そこから先生の本当の意図を探るか。そう思い、僕は先生と会うために施設に向かうことにした。


施設に向かう道を歩いていると、いつもはガラガラの道で何度も軍服を着た人とすれ違った。不審に思い、会った一人に話しかけてみた。


「指名手配者を探しているんだ。ユキノという名前の人だが、知っているか?」


ユキノが指名手配犯?!


でも、ここは知らないふりをして、情報を聞き出さなければならない。


「いえ、知らないです。なんで指名手配されているんですか?」


「本部にこちらの島の情報を流していたそうだ。詳しくは俺たちも知らないが、スパイ罪がかけられている。」


「わかりました。ありがとうございました。」


本土への情報提供...か。

確かに、本土との連絡は禁止されている。それはユキノが以前、家の近くの店で説明してくれたことだ。しかし、彼女がそれをわかっていながらそんなことをするとは思えない。何かが狂ったのか?

とにかく、今は先生のところに行くよりもユキノを探さなければ。


僕はいくつか思い当たる場所に行ったが、どこにもいない。家にも行ってみたが、そこにはすでに軍の人がいた。思いつく場所はすべて行った。あとはどこだ?


考えろ。早く彼女を見つけなければ。


そして、あ!と僕はある場所を思い出した。まだ行っていなくて、彼女が行く可能性がある場所が一か所だけあった。


僕は全力で走り出した。頼む、まだ生きていてくれ!


しかし、目的地まであと少しというところで、僕はそいつと遭遇してしまった。まるで、このタイミングを狙っていたかのように。


「よう。急いでいるようだな、ろん。」


そこには軍服姿の先生が立っていた。

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