第12話
ロットが無事にS級冒険者として登録され、テンとシャルは冒険者パーティーのメンバーとしてF級で登録された。
これで、ダンジョンに入れたり冒険者ギルドからの依頼を受ける事ができるのだ。
「書類上は私がパーティーリーダーですが、指揮権はテン様にあります。宜しくお願いします」
「い、いや、指揮権もロットで良いよ」
「ふあっ!?」
「え?」
「本当によろしいのですか?」
「え、あ、うん。僕もお母さんも一般常識に乏しいからね」
「……ありがとう御座います! このロット、必ずやテン様とシャル様のお役に立つ所存であります!」
「う、うん。頼んだよ」
「はい」
若干……いや、かなりの不安を抱えながらも、そう言うしかないテン。
「では、未熟者では御座いますが、このロットが仕事の采配を致します」
「うん、任せたよ。ロット」
「かしこまりました」
ロットはギルド長に向き直した。
「ギルド長、何かしら良い仕事はありますか?」
「そう、ですな。S級冒険者パーティーに頼む仕事ですか……」
考えるギルド長。
ここは、ギルド長の部屋なのだ。
S級冒険者となると、ギルド長の部屋でくつろげたりする。
とにかく、S級冒険者はとても少ないのだ。
この町に常駐するS級冒険者は、これまで居なかった。
「これまで、この町に常駐のS級冒険者は居ませんでしたからな。それに、この辺はわりと平穏でして、S級冒険者に頼むような仕事は……」
「じゃあ、ダンジョンに入るくらい?」
「そう、ですな。それが良いかもですな」
「分かったわ。それと、ギルド長」
「何でしょう?」
「将棋」
「は?」
「ちゃんとルールは覚えた?」
「……完璧、ではないですが、ルールブックをもらえましたので」
「そう。この町で……いえ、この国で将棋を広めて」
「私が、ですか?」
「ギルド長、部下がいるわよね」
「はい」
「どんどん私に金貨3枚で決闘するようにさせて。将棋でよ。1回の対局でこのギルドに金貨2枚を払うから」
「……将棋で決闘ですか。ロット様が負けたら、パーティーメンバーと共に全員が奴隷になる条件で本当によろしいのですね?」
「良いわよ」
「……了解しました」
テンとシャルは、ギルド長室の雰囲気にのまれて何も言えない。ただ、じっと座っているだけだ。
「テン様、シャル様、ダンジョンへ参ります」
「う、うん」
「分かったわ」
テンたちはリーダーのロットを先導にして町の近くにあるダンジョンへと向かうことにした。
ダンジョンがある近くには大きな町や都市ができるのだ。当たり前かもしれないが。
たまーに、ダンジョンからモンスターたちが出てくることがあり、ダンジョンを囲んでは町や都市は造らない。
ダンジョンから2キロくらいはセーフゾーンとして、離れて町や都市を造るのがセオリーなのだ。
町や都市の中にダンジョンがあって、そこに多くのモンスターが出てきたら大惨事となることもあるから。
モンスターがダンジョンから出てこないように、適度に倒すのも冒険者たちの仕事というか、存在意義でもある。
冒険者たちはモンスターを倒して、魔核やドロップ品をゲットできるし、危険ではあるがハイリスクハイリターンの仕事でもあるのだ。
もちろん、低ランク冒険者は低ランクのモンスターしか実力的に倒せないので、稼ぎは少ない。
S級冒険者ともなると、本気なら1日で金貨1000枚くらいは稼ぐことも可能となる。
「ねて、ロット」
「はい、マスター」
「S級冒険者だと、1日に金貨1000枚は稼げるって本当かな? ギルド長さんが言ってたけど」
「本当ですね。マスターが本気なら金貨1万枚はいけますけど」
「はい? い、いや、まさか」
「分かっております」
「え?」
「マスターが金稼ぎなど下賤なことに1ミリも興味ないと言うことは」
「え、えっと……う、うん」
「世界の覇者とは、それで宜しいかと」
「……うん」
世界のはしゃ? って何? と思うテン。
「でも、金貨1000枚って凄い価値だよね」
「はい。マスターから見れば無価値に等しいですが、普通だと日本円で1億円の価値がありますので」
「えっと……にほんえんで、いちおくえんの価値?」
「まあ、いろいろ買えると言うことですね」
「なるほど、いろいろか」
「はい、いろいろです」
そんな会話をしながら歩いていると、ダンジョン前の広場に到着した。
治安維持なのか、兵士みたいな人たちもちらほら。
「おい、お前ら見ない顔だな? 子供がダンジョンに何の用だ?」
みたいな事は言われなかった。
冒険者ギルドから、ギルド長から、テンたちの事が伝令されていたのだ。
「そのお方たちに、絶対に間違えても失礼な言動をするな。皆んな死ぬぞ」と。
「これはこれは、マスターテン様。第5ダンジョンへようこそ」
兵士たちの隊長らしき人が声をかけてきた。
「あ、へっ、あ、えっと……よ、よろしくお願いします!」
どこまでも挙動不審なテンである。
「隊長さん?」
「はっ、このダンジョン前広場の治安維持を担当する隊長のヘイムであります。ロット様」
「よろしくね、ヘイム隊長」
「はっ! ありがたき幸せ」
「ふーん、隊長だけあって言動がしっかりしてるわね」
「ははっ、ありがたき御言葉」
どこまでも高飛車なロットである。
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