第11話

黙々と将棋の対局をするテンとロット。


「……負けました」


テンは負けを認めて頭を下げた。


「ありがとうございました」


ロットもテンに頭を下げた。


「いやー、ロットは強いね」

「2050年、50歳の今でも全冠を保持する藤井戸聡明八冠でも絶対に勝てないAIに、私は絶対に負けませんので」

「……フジイド・ソウ……? 誰?」

「あの超有名な国民栄誉賞の藤井戸聡明八冠です」

「……へえー」


ロットは冒険者ギルドにいる者たちに宣言した。


「私は将棋で誰の挑戦でも受ける。負けたら私を含む3人全員が奴隷となる。対局料は金貨3枚」


ざわざわする冒険者ギルド。


あわあわする、テンとシャル。


冒険者ガスンが、そ~っと手を上げた。


「はい、ガスン」

「あの、もしも俺がロット様に将棋で勝ったら、ロット様たち3人様が俺の奴隷に?」

「当たり前です」

「……金貨3枚の挑戦料で?」

「そう言いました」

「よく、分かりました」

「よろしい」


ロットは黒板から将棋セットを10組、取り出した。


「皆のもの、これで練習して挑んで来なさい。ギルドへ来たら最低1局は指すように。……どうしたの? 練習対局をしないの?」


慌てて将棋セットを取りにくる冒険者たち。


「言っておきますが、対局中は私語厳禁。見学者も私語アドバイス厳禁、分かってますね?」


「はい!」と、全員が元気よく返事をした。


将棋の練習対局をする冒険者たち。


冒険者ガスンがロットに頭を下げた。


「あの、ロット様」

「ん?」

「その、皆んなダンジョンや依頼へ行く時間なので、そろそろ」

「将棋、練習対局を1回したら行っていいわよ」

「ありがとうございます!」


冒険者たちは、冒険者ギルドに今日の予定を伝えてから仕事とかへ行くのが暗黙の了解となっているのだ。


冒険者に依頼したい緊急の仕事もあったりするし。


続々と冒険者達が冒険者ギルドへ入ってくる。


その冒険者たちに、ギルド職員のガドルが将棋のルールを教えて、冒険者たちに練習将棋をさせるのだ。


テンとロットは、何回も将棋の対局をしている。


ロットの全勝だ。


「……負けました」

「ありがとうございました」

「ロットには勝てないよ」

「いえ、この私とほぼ互角に対局できるマスターは流石です」

「そう?」

「はい。相手が私でなければマスターは、ほぼ負けないと思われます」

「いやいや、そんな事はないよ」

「本当でございます」

「あ、うん。なんか、ありがとう」

「いえいえ、でございます」

「でも、本当に誰にも負けないでね。奴隷になるのは嫌だし」

「お任せください。このロット、命に代えましても負けませんので」

「う、うん、任せた」


冒険者ギルドの時計が午前9時になった。


ギルド職員のガドルが、すすっとテンたちの前でひざまずく。


「寛容なるマスター様、御登録のお時間になりました」

「うへっ? あ、え、ちょ、ちょっと」


慌てるテン。


「ギルド職員ガドル、真っ先に我がマスターにひざまずくとは、良い心構えね」


どこまでも上から目線のロット。

 

「ははっ、ありがとう御座います、ロット様」

「うんうん、早速、冒険者登録やらを

してくれるかしら」

「かしこまりました……あの……」

「どうしたの?」

「大変に申し訳が御座いません。冒険者ギルドのルールで筆記テストと実力テスト、面接が御座います」

「まあ、それは当たり前でしょうね」

「ありがとう御座います」


そうして、テンたちの冒険者登録テストが開始されることとなった。


筆記テストは一般常識を問うテストだった。


100点満点のテストで、ロットは98点、テンとシャルは10点。


65点以上で実力テストへ進めるらしい。


「流石はロット、凄いね〜」

「ありがとう御座います、マスター」

「僕とお母さんは10点だよ」

「いえいえ、マスターとシャル様は一般常識など遥かに超越した存在なれば、一般常識など意味がありません」

「……うん、ごめん。意味が分かんない」

「申し訳御座いません、一般常識にて答えてしまいました」

「えっと……なるほどね」


よく分からないが、話を合わせるテン。


「あの……ですね、テン様とシャル様は、その、不合格と……」おずおずと告げるギルド職員のガドル。


「再試験は受けれるのかしら?」とロット。


「再試験が可能なのは1年後で御座います」

「そう。私が冒険者登録試験に合格したら、マスターとシャル様は冒険者パーティーメンバーとして登録できるかしら?」

「ロット様がS級に合格なされば、どなたでもパーティーメンバーにできます。F級冒険者登録となりますが」


テンとシャルに尋ねるロット。


「よろしいでしょうか?」

「あ、うん」

「よろしいわよ。人が決めた等級など興味ありません」

「ありがとう御座います。このロット、S級冒険者に合格して参ります」

「う、うん。頼んだよ」

「ロット、頼みますよ」


実力テストにロットはさくっと合格した。


異空間から品物を取り出したり、異空間へ品物を入れることができたら、もうそれだけでS級冒険者の実力があると認められるのだ。


ギルドマスターとの面接もそつなくこなし、ロットはS級冒険者として登録された。


「おめでとう、ロット」

「ロット、さすがね」

「ありがとう御座います、マスター、シャル様」


テンとシャルもF級冒険者として登録された。


冒険者登録証をテンとロットは黒板へ入れる。


シャルは服のポケットがマジックポケットになっているので、そのポケットにしまった。















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