第9話

テンが異世界から転移して来たこの世界には、大気中に魔素と呼ばれている成分が多く含まれている。


その魔素を利用して人間や魔族、モンスターたちは魔法を行使するのだ。


土地も魔素を取り込んで、どういう仕組みかは解明されていないが、ダンジョンと呼ばれる不思議な現象が起こる洞窟ができる。


金属や宝石といった物もダンジョンの中でしか採れない。


ダンジョンにはモンスターがいて、魔石と呼ばれる不思議な石も採れる。モンスターは魔核と呼ばれる石みたいな物が体内にあり、魔核もいろいろ使い道があるのだ。


ダンジョン(洞窟)に入り金属や宝石、魔石を採ったりモンスターを倒して魔核を持ち帰るのは、冒険者と呼ばれる者たち。


ロットに因縁をつけてきて返り討ちみたいになった冒険者ガスンも、そんな者たちの中の1人。


テンたちが宿泊することにした高級宿も、そんな魔石や魔核をいろいろ使っているのだ。


魔石や魔核には、明かり、浄水、汚物処理、冷暖房、冷蔵冷凍、さまざまな用途がある。


それらの事を仲居さんやロットに説明されて知ったテンは感心した。


「僕は怖くて入れないけど、ダンジョンって不思議だね」


首をかしげるロット。


「マスター、何が怖いのですか?」

「何がって、モンスターに決まってるよ」


想像しただけで身震いするテン。


「マスター、面白い御冗談です。本当に怖くて震えているように見えますね、勉強になります」

「あ、えっと、うん」


冗談じゃないけど、と思うテン。


「それとマスター」

「ん?」

「黒板内にある金貨は残り3枚ですので」

「は? えっ? さっき6枚使ったよね?」

「はい」

「……」


そんなに残りが少ないなら、3枚も多く払わないでよと思うテン。


「それと」

「え?」


何かまだあるの? ドキドキするテン。


「マスターのお召し物や身の回り品などを作る資材なのですが、黒板内の在庫が少なくなってます」

「そうなの?」

「はい。いろいろな物を補充する必要があるかと」

「いろいろな物って?」


少し考えるロット。


「とにかく、いろいろ必要なのです」

「そうなのか」

「はい」

「どうすればいい?」

「……マスターが心配することはありません」

「……」


それなら僕に言う必要ある? と思うテン


「ロットが何とかしてくれるの?」

「はい」

「どうするの?」

「適当な奴らに決闘を申し込みます」

「……それで勝って金品をもらう、と?」

「はい。とても、とても良いアイデアだと思います」


マスターに褒めてもらえると思っているロット。


「それ、駄目だよ」

「はふっ!?」

「ちゃんと働こうよ、僕も働くから」

「ええっ!? マスターが働くのですか?」

「うん」

「どうして、あ、申し訳ございません」

「いいよ。どうしてか、僕の本能? 奥の奥のほうの心がそう言ってる気がする」

「マスターの奥の奥の心……それはとても奥深いように感じます」

「まあ、奥の奥だから」

「私が思いまするに、マスターの能力から見て冒険者をやるのが適正かと存じます」

「冒険者? そうなの?」

「はい。私はそう思います」


他の仕事は、冒険者よりもっと大変なのかな?


そう思ったテンは、ロットの言うことを聞くことに。


「分かったよ、ロット。君の言うことを聞いておく」

「なんと! これはそれは、ありがたき御言葉にて」

「お母さんも、それで良いよね?」


テンは人型ゴーレムに尋ねた。


「私もお金稼ぎの事は何も知らないし、ロットに任せるしかないわ」

「ありがとうございます、シャル様」

「……シャル様?」

「マスターのお母様のことでございます」

「私が、シャル?」

「正確にはシャルロッテ様ですが、シャル様で」

「……まあ、良いでしょう」

「ありがとうございます」


いつの間にか、人型ゴーレムの、名前はシャルロッテ・イシャになった。


「それでは、早速、明日の早朝から冒険者ギルドにて冒険者登録を行います」

「うん」

「分かったわ」


テンたちが来訪した町は、その国では大きめの町で冒険者登録ができる大きめな冒険者ギルドがあるのだ。


小さい町や村などには冒険者ギルドはない。そもそも、冒険者が活動するダンジョンの近くに大きめの町ができるのだから。


翌朝、テンたちは冒険者ギルドへと。


早朝だからなのか、冒険者ギルドの建物の中は人も少なく静かだった。


受付の人がカウンターの向こうに1人いる。どうやら寝ているようだ。


ロットは声をかけた。


「おはようございます」


びくっとして、顔をあげる受付の人。


年配の男性だ。


「お、おう、早いな。何かあったか?  ん? 知らない顔だな」

「冒険者登録をしたいのですが」

「……登録のできる時間は朝の9時からな」


時計を指差す年配の男性。


時刻は朝の6時だ。


「なるほど。ここで待ってもいいかしら?」

「おう、いいぞ」

「飲食しても?」

「酒は駄目、匂いの強い物は駄目、それ以外ならな」

「了解しました」


テンたちは、冒険者ギルドの建物内で朝食にする事になった。


(宿泊した宿で朝食を食べて、ゆっくり来たら良かったのでは?)


と思うテンだった。












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