第8話

役所の床で土下座をしてロットに謝っている冒険者ガスン。


ロットには意味不明な言動だ。


「何をして、何を言ってるの?」


ロットからの問いにガスンは答えた。


「ま、まさか貴女様が御高名な魔法使い様とはつゆ知らず、大変に失礼な態度をしてしまい、本当に申し訳ございませんでした!」


そんなことを言われても、ロットには意味がわからない。


「ふーん、それで?」

「え?」

「え、じゃなくて」

「あの」

「……」

「どうすればお許し願えますか?」

「あら、許してほしいのね」

「はい」


ロットはテンにお伺いをした。


「マスター、どうされますか?」


そんなことを聞かれてもテンは困る。


「いや」

「お許しにならないのですね」

「ち、違うよ」

「え?」

「揉め事にどちらが悪いとかないと思うんだ」

「なるほど、さすがはマスター。思慮深いお言葉、心に染み入ります」

「う、うん、だからここはお互いが笑って許すのはどうかなと」

「かしこまりました」


冒険者ガスンに向き直ったロット。


「立ちなさい」

「は、はい」


恐る恐る立ち上がるガスン。


「行動が遅いですね」

「は?」

「マスターの時間を無駄にする気ですか? もっと機敏に動くように」

「はっ、はい」

「では、笑いなさい」

「え?」

「あん?」

「はい! ガスン、笑います! がっはっは!」


ロットもニヤリと笑った。


「これで終わりにしてよいそうです。偉大なるマスターに感謝するように」

「はい! 失礼いたします!」


冒険者ガスンとその仲間たちは、ロットにペコペコして立ち去ろうとした。


「待ちなさい」

「え?」

「どうしてマスターに御礼を言わないのかしら?」

「あ、あの」

「お前たちの命があるのは、マスターの御寛大な御心のおかげなのです!」

「はい!」


冒険者ガスンとその仲間たちは、テンの前で土下座をして謝った。


あわあわするテン。


「あ、も、もういいので、お帰りください」

「マスターのお許しが出ました。慌てず騒がず走らずにさっさと立ち去りなさい」


ロットがそう言うと、ガスンたちは慌てず騒がず整列して歩いて役所から去っていく。


「マスター、お騒がせして申しわけございませんでした」

「あ、いや、僕によりも役所の人たちに謝ろうね」

「さすがはマスター、その通りでございますね」


ロットは役所にいる人たちに動物のミニチュアの木彫りを配りながら謝った。


木彫りをもらった人は困惑している。


「マスター、謝罪して終わりました」

「う、うん、ちゃんと謝れるロットは偉いね」

「ありがとうございます」


ロットはロボットだが、テンに褒められると嬉しいようだ。


それからは、山の中に家を建てる許可を申請した。


手数料や土地の使用料とかでお金がそれなりに必要だったが、お金は黒板から取り出して払えることができた。


お金も出るとは、つくづく不思議な黒板だと思うテン。


お金が不要な異空間で育てられたテンだが、お金の知識くらいは人型ゴーレムから教えてもらって知っている。


せっかくなので、町で1番の宿屋に宿泊することにした。


テンの社会勉強になると思ってロットが提案したのだ。


マスターはとても凄い存在なのだが、ちょっと世間一般の常識を知らなすぎると、ロットはようやく気がついてきた。


マスターが「お母さん」と呼ぶ人型ゴーレムも知識がとても偏っているし。


私がしっかりとマスターを補佐しなければと誓うロットなのだ。


町で1番の宿屋の宿泊代は1人金貨1枚。3人なので金貨3枚。人型ゴーレムやロボットだからといっても宿泊代は払わないといけない。


見た目は人間にそっくりなわけだから、「人間じゃない、荷物なんです」と言っても聞いてもらえないだろう。


金貨3枚あれば普通の家族が余裕で1ヵ月は暮らせる。


金貨の価値を知らないテンは会計をロットに任せてしまった。


「これから、お金のことはロットに任せるよ」

「マスター!」

「え?」

「そんなに私の事を信頼してくれるのですね」

「まあ、うん」


他に任せる人がいないし、と思うテン。


「わかりました、このロット、マスターにふさわしい会計係になることを誓います」

「うん、頼もしいよ」


気分の良くなったロットは


「これ、マスターからの気持ちよ。取っておいて」


と、宿屋に金貨3枚を余分に払った。


合計で金貨6枚だ。


そこは流石の高級宿、「ありがとうございます」と頭を下げて受け取った。


仲居さんに部屋へ通される。


宿屋の中の事とかを説明しようとする仲居さんにロットは、「疑問があれば聞きに行くので説明は不要です」と。


「いえ、しかし」、と仲居さん。


「この世界のだいたいの事は分かります、マスターと私の貴重な時間を邪魔する気ですか?」

「いえ、そんなつもりは」

「あなた死にたいの?」

「えっ?」


テンは慌てた。


「お、おい、ロット、いいから説明を聞くよ」

「しかしマスター」

「説明をするのも、その人の仕事なんだ。尊重しないと」

「さすがはマスター、取るに足らない人間を尊重する。それが覇者の思考なのですね、勉強になります」


頭を下げるロット。


「う、うん、まあ、説明を聞こうか」

「はい」


最初から大人しく説明を聞いていれば、もう終わってるよね? と思うテンだった。




















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