第7話

町の中を役所へと向かう途中、テンは2人をとめて注意した。


「なるべく冷静になろうよ、僕が言うのも変かもだけど。特にロット、僕とお母さんはとても弱いんだから揉め事はやめよう」

「はい?」


驚くロットにテンは聞き返した。


「はい?」 

「あ、いえ、かしこまりました」


頭を下げるロット。


「それにしても、お母さんのあんなに怒ったところ初めて見たよ」

「ごめんなさい、マスターの身分証を盗んだとか言われたから、つい」

「まあ、あれは向こうが悪いね」

「そうよね」

「でも、お母さんもとても弱いんだし、へたに怒らせて殺されたら大変だよ」

「そうね、気をつける」

「うん」


この世界で1番に強いマスターと、2番目に強い人型ゴーレムがとても弱い?


いくら考えても意味がわからないロット。


「どうしたの、ロット。そんなに首をかしげて」

「いえ、マスター。わからなくて」

「役所は向こうらしいよ」

「いえ、あ」


テンとの会話に全ての意識が集中していたロットと、仲間たちと話しながら歩いていた男がぶつかり、男が倒れた。


ロットはびくともしていない。


ロットは特殊な合金で造られたロボットなので、見た目は体重50キロ以下に見えるが実際は体重が1000キロはある。  


「うおっ! 痛えなこの! どこ見て歩いてんだ!」


そんな男の怒声に首をかしげるロット。


「え? 私は立ち止まっていましたが」


立ち上がった男はさらに叫んだ。


身長が2メートルはある筋肉質の男だ。


「うるせえ! こんなところで立ち止まるな! 痛えな、どうしてくれる。俺は女子供でも許さねえぞ」


さらに首をかしげるロット。


「どうしてくれる?」

「誠意だよ! 慰謝料だ、金貨1枚で特別に勘弁してやる」


金貨1枚はかなりの価値だ。


「金貨、あいにくと所持してません」

「へっ、そうかよ。いくら持ってる」

「まったく」

「おい、ふざけるなよ」

「ふざけてるのはそっちの顔では」

「なんだと!」


そんな光景にあわあわしているテンにロットは「マスター、面倒なので決闘にしていいですか?」と聞いた。


あわあわしているテンは深く考えずに「う、うん、ロットに任せるよ」と答えた。


「マスターに許可をもらったので、決闘をお願いします」


ロットにそう言われてポカーンとする男。


「あ? 決闘と言ったのか?」

「そう言いました」

「俺と決闘をする? 誰が?」

「もちろん私です」


大笑いする男と仲間たち。


「おいおい、笑わせるなよ。お前、何歳だ?」

「15歳の設定です」

「あん?」

「誰が何と言おうと私は15歳なのです」

「そうか、なら成人だな」


この国では15歳から成人で決闘を受けることができる。


「役所に行って決闘宣誓書を作るぞ、逃げるなよ」

「逃げる? 誰が?」


首をかしげるロット。


「まあいい、おい、行くぞお前ら」


男の仲間たちがテンたちを取り囲んだ。


テンと人型ゴーレムはあわあわしている。


「マスター、私にお任せください。大船に乗ったつもりで」

「あ、うん」


おおぶねって? と思ったテンだが聞けなかった。


役所に到着したテンたちは決闘宣誓書を作ることに。


本当は家を建てる許可をもらいに来たんだけど、と思うテン。


テンたちが身分証を持ってないので役所の担当者は困った顔をしたが、人型ゴーレムが大賢者ライトールの身分証を提示したことで深く詮索されずに納得してくれた。


担当者がロットに質問した。


「では、ロットさんは本当に15歳なのですね」

「はい」

「そして、ガスンさんに決闘を申し込んだ」

「はい」

「勝った時の望みは何でしょう」

「相手の命と全財産を」

「なるほど」


たんたんと書類に書いていく担当者。


「誰かに脅されたり脅迫されて、ガスンさんと決闘をしろと言われてませんね?」

「私の意思です」

「わかりました、ガスンさんに確認します」

「はい」


ロットにぶつかって因縁をつけてきた男は冒険者でガスンというらしい。


担当者はガスンに聞いた。


「ガスンさん、ロットさんに負けた時は命と全財産を差し出しますか?」

「もちろんいいぞ、負けたらな」

「では、ガスンさんが勝った時の望みは」

「そりゃあ、相手の全財産をもらって奴隷にする、だな」


担当者はロットに言った。


「ロットさんが決闘に負けた場合、全財産を失って奴隷になりますが、よろしいですね?」

「はい」

「では、手数料として金貨1枚をお願いします」


手を差し出してくる担当者。


「はい?」

「金貨1枚をお願いします」

「それを私に払えと?」

「もちろんです。決闘を申し込んだので」


テンを振り返るロット。


いや、お金のことを僕に言われてもと困るテン。


「マスター、大変に申し訳ございませんが金貨1枚をお借りしたく」

「いや、僕はお金なんて持ってないよ」

「黒板から出せるはずですが」

「そうなの?」

「はい。私には黒板の中にある物がわかりますので」

「じゃあ、ロットが出してよ」

「よろしいのですか?」

「うん」

「それではお借りします」


ロットは自分の黒板から金貨1枚を取り出した。


周りにいる人からは、ロットが空中から金貨を取り出したように見えた。


その場は大騒ぎに。


「いっ、異空間魔法!?」

「まっ、まじか!?」

「おい、無詠唱だったぞ」

「……魔法陣も使ってない」


15歳でそのレベルの異空間魔法が使えるような魔法使いは滅多にいないのだから。


そして、異空間魔法が使える魔法使いは、だいたいが凄い攻撃魔法や防御魔法とかも使える。


「もっ、申しわけございませんでした!」


冒険者ガスンはロットの前に土下座した。

 

「え?」


何をしてるの? 何を言ってるの? と首をかしげるロットだった。













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