第5話
ロットからテンの黒板に報告がきた。
「お母さん、大変だ」
「どうしたの?」
「人間の男3人が僕たちに決闘を申し込んできたらしい」
「けっとうを?」
「うん。決闘ってなに?」
人型ゴーレムもわからない。
黒板に質問した。
【一般的には相手と自分の一部の財産、もしくは全財産、もしくは誇りをかけて殴り合いや武器を使用する殺し合いですね】
ガクブルするテン。
「お、お母さん、ど、どうしよう、相手は僕たちの財産が欲しくて僕たちを殺すらしいよ」
「降参するしかないわね」
「うん」
ロットからまた連絡がきた。
『よろしければ私だけで決闘を受けますが』
「お母さん、ロットが1人で決闘してくれるって」
「あら、そうね、駄目もとで任せてみましょう」
「うん、でも、ロットを壊されたら」
「黒板が直してくれるんじゃないの?」
「聞いてみる」
ロットが壊されたらテンの黒板が直すとの回答。
テンは安心して決闘をロットに任せることにした。
男たちにロットは言った。
「この決闘、マスターは私に一存していただけるそうです」
「お嬢ちゃんに一存?」
「はい。私がまとめてお相手いたします」
大笑いする男たち。
「いや、一存はいいけどよ、お嬢ちゃんだけで俺たちと決闘するのか?」
「はい」
大笑いする男たち。
「言っておくが、お嬢ちゃんが負けたらお嬢ちゃんのマスターの全財産を俺たちがもらうんだぞ?」
「負けたら、ですよね」
さらに大笑いする男たち。
「勝負は殺し合いでいいんですよね?」
「は?」
大笑いを止める男たち。
「おい、あんまり大人をなめたら本当に死ぬぞ」
「お金をもらってもなめたくありませんが。なめたら精神的に死にますから」
怒りでブルブルと震える男たち。
「おい、俺たちに人殺しは、女子供を殺すのは無理と思っているのか?」
「少なくとも、私のことは殺そうと思っても殺せませんよ」
ロボットなのでとは言わないロット。
相談する男たち。
「おい、あの自信満々の態度。すげえ魔法使いじゃないのか?」
「なんか、俺もそんな気がしてきた」
「こんな山の中に住んでるのもおかしいしな」
「どうする?」
「やめとくか」
「そうだな、今日はやめておこう」
「だな」
男たちは「覚えていろよ」と言って去っていった。
ロットが簡易ハウスに入ってきた。
「マスター、決闘は延期となりました」
「延期? いつに?」
「その約束をする前に走って行きましたので」
「そっか、また来るのか」
困った顔をするテン。
「面倒なので殺しておけばよかったですね」
「殺していいの? というか、殺せるの?」
「殺せるか殺せないかのご質問なら、私なら3秒で殺せます。マスターなら0.1秒かもですが」
「え? 僕なら0.1秒なの?」
「はい、瞬殺です」
「うわ〜」
ガクブルするテン。
「マスター、どうされました?」
「いや、怖くて」
「確かに。マスターの御力は私から見ても怖すぎでございます」
「う、うん、だよね」
そうか、僕は0.1秒で瞬殺されるのか。と思ったテン。
実際は0.1秒で3人の男くらい瞬殺できるのだが。
「どちらにせよ、決闘するには決闘宣誓書を作らないと駄目なのですが」
「あ、そうなんだ」
「はい。それがあれば相手を殺しても罪になりません」
「なるほど。まあでも、ロットなら負けないんだね」
「あのレベルが相手なら100人でも負けません」
「へー、それなら安心だ」
「ありがとうございます」
テンは安心して寝ることができた。
その3日後、人間の団体がやって来た。
10人はいるだろうか。
その中にはこの前の3人もいる。
出迎えるロット。
「決闘に来たのですね」
「違う」
「え?」
「お役人様たちを案内してきただけだ」
首をかしげるロット。
「お役人様?」
偉そうな男が言った。
「許可もなしに家を建ておってからに。罰金のうえに家財等は没収とする」
首をかしげるロット。
「あら、居住区以外に簡易的なテントを建て、一時的に雨風を避けるのは認められているはずですが」
「どこが簡易的なテントだ。ばりばりの立派な家ではないか」
「いえいえ、マスターにとってこんなもの、粗末なテントでございます」
ピクピクするお役人様。
「ならば、そのテントやらを10分以内に綺麗さっぱり撤去してみろ」
「はい」
「ふん、できるわけがあるまいに」
ロットは簡易ハウスに入っていった。
「マスター、この地を立ち退かなければなりません」
「え? そうなの?」
「はい。ここに建物を建てたのは無許可ですので」
「えっと、つまり、誰かの許可がいるってこと?」
「はい。この地を統治する権力者の許可が必要でございます」
「じゃあ、今から許可を」
「残念ながら、建てた後からでは遅いのです」
「なるほど。でも、ニワトリやウシは?」
「タマゴやミルク等のストックはあるので、この場は逃がします」
「うん、まあ、しかたないね」
簡易ハウスを黒板に収納して、この地から立ち去ることにした。
外に出て、玄関横の小さな扉を開く。テンにしか開けない扉だ。
その扉の向こうにはボタンがある。
テンはそのボタンを押した。
みるみるうちに簡易ハウスは黒板に入る大きさとなった。
驚くお役人様たち。
ニワトリやウシは逃がす。
テンは小さくなった簡易ハウスや鳥小屋を黒板に収納した。
さらに驚くお役人様たち。
お役人様たちには黒板は見えないし、テンが異空間魔法を使ったと思ったのだ。
テンはお役人様たちに頭を下げた。
「お騒がせしてすみません」
「あ、いや、貴殿は若く見えるが高位の魔法使いであるのか」
「え?」
異空間魔法を使えるのは、高位の魔法使いか高位の賢者だけなのだ。
高位の魔法使いなら、攻撃魔法も防御魔法も高位レベルで行使できると思っていい。
高位の賢者になるには長年の研鑽が必要なので、見た目が若いテンのことは超天才で早熟の魔法使いだとお役人様は考えた。
「いや、たしかにあれはテントだった。うん、テントだ」
「あの」
「我々はこれにて失礼いたします。こちらこそお騒がせして申し訳ありませんでした」
「はあ」
どうして謝られるのか理解不能のテン。
お役人様たちはペコペコと頭を下げて帰っていった。
「お母さん、なんだったのかな?」
「さあ?」
「ロットはどう思う?」
首をかしげるロット。
「さあ? しかし、マスターが今後もこの地に住まわれるなら許可を取ったほうが無難かと」
「なるほど。どこで?」
「先ほどの人間たちが住む村か町か、そのような居住区です」
「うん。なら、そこに行こう」
「かしこまりました。どうされます?」
首をかしげるテン。
「どうされます?」
「マスターも歩いて行くのか、私がマスターを背負って歩いて行くのか、空を飛んで行くのか、瞬間移動するのか、移動手段はそれくらいですね」
「えっと……瞬間移動って?」
「マスターの黒板に入れば目的地まで瞬間移動できます」
「黒板に入れるの?」
「もちろんでございます」
「お母さんも?」
「マスターのお母様は残念ながら」
「じゃあ駄目だよ」
「かしこまりました」
テンは目的地までみんなで歩いて行くことにした。
虫除けスプレーはあるし、動物やモンスターが襲ってきたらロットが倒してくれるそうだ。
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