第4話
簡易ハウスの前に動物を誘き寄せる撒き餌をすることにした。
しかし、動物がいつ来るのやら。
【餌をドローンに吊るして動物をここまで誘導しますか?】
と、黒板がアドバイスしてくれた。
ドローンとは空を飛ぶ道具らしい。
しばらく待つと、ドローンから吊るした餌を食べようと、動物がドローンを追ってやってきた。
それを簡易ハウスの窓からオートライフルで撃ち殺す。
外へ出て死んでいる獲物を黒板に投入する。
血抜きや解体など黒板が自動でやってくれるらしい。
黒板より大きな動物は自分達で黒板に入る大きさに切らないといけないが、それは人型ゴーレムがやった。
「お母さん、ありがとう」
「いいのよ」
そんなことを繰り返し、夕方までには1年ぶんの食肉を確保できたのだ。
テン1人ぶんだけなので、そんなに多くは必要ない。
獲物はニワトリという鳥、ラビットという小さめの動物、イノシシという大きめの動物だ。
「タマゴもあるといいんだけど」と人型ゴーレム。
【麻酔銃でニワトリを10匹ほど確保すれば、タマゴには困らないかと】
黒板にアドバイスされたのでニワトリを生け捕りにすることにした。
ニワトリを麻酔銃で撃ち、眠っている間に黒板に製作してもらった鳥小屋へ入れる。
でも、誰が餌をあげてタマゴを回収するの?
【ニワトリの世話をするロボットを作製しましょうか?】
ロボット?
自動で動く人型の道具みたいなものらしい。
作製をお願いした。
1時間後、黒板からロボットが出てきた。
いきなり手が出てきたから、テンは驚いた。
ずるずると黒板から這い出してくるロボット。
ロボットの見た目は15歳くらいの少女だった。
「マスター、よろしくお願いいたします」
「マスター?」
「テン様のことでございます」
「あ、うん。こちらこそよろしく。でも、変わった服だね。可愛いけど」
テンも人型ゴーレムもシンプルな服装なのだ。
「ありがとうございます。メイド服というものでございます」
「へえー」
テンには意味が分からないが。
普通なら「メイド服でニワトリの世話をするの?」とか言いそうだが。
「あ、君は何か飲んだり食べたりするの?」
「いえ、定期的にバッテリーを交換すれば活動できます」
「バッテリー?」
ロボットはメイド服を脱いでお腹をパカッと開き、バッテリーを指差した。
「ここにあるのがバッテリーです」
「へえー」
そんな物で動けるのが不思議だが、テンはあまり深くは考えない。
「マスターに代わり私がニワトリを確保いたします」
「あ、うん、よろしく」
ロボットさんはちょっと呼びにくいので「ロットさん」と呼ぶことにした。
ロボットのロットさんは手際よくニワトリを生け捕りにして鳥小屋へ入れていく。
2日で生きたニワトリ10匹が確保できた。
「マスター、ニワトリ捕獲完了です」
「ありがとう、ロットさん」
「ロットでよろしいです」
「まあ、ロットさんって呼ばせてよ。なんとなく」
「了解いたしました」
ロットさんも専用の黒板を持っているらしく、黒板を使っていろいろしている。
性能はテンの黒板よりはるかに劣るが、ある程度のことはできるらしい。
タマゴが採れるようになり、人型ゴーレムはお菓子も作れるようになった。
黒板もお菓子を出せるのだが、暇なので料理やお菓子作りをしたいらしい。
「マスターのお母様、よろしければこれを」
ロットさんが黒板からお菓子のレシピ集を取り出した。
「あら、ありがとう」
「いえ」
人型ゴーレムはお菓子に関して最低限のレシピしか知らないのだ。マスターである賢者があまりお菓子を食べなかったから。
「……ミルクやバター、チーズ。どうやらウシという動物が必要なようね」
「はい、マスターのお母様。よろしければ私が捕まえてまいりますが」
「あら、頼めるかしら」
「喜んで」
ロットは立派なウシを3頭、捕まえてきた。
2頭は雌だ。
ウシは簡易ハウスの前に繋がれて、モッシャモッシャと草を食べている。
もちろんウシの世話をするのはロットだ。
「ロットさん、大変じゃない?」
「いえ、マスター。これくらい余裕でございます」
「ならいいけど無理はしないでね」
「ありがとうございます」
人型ゴーレムはケーキを作った。
「テン、ケーキができたわよ」
「ケーキ! お母さん、すごく美味しそうです」
「食べてみて」
「はい」
「お母さん!」
「はい」
「すごく美味しいです!」
「そう」
そんな生活をしていたある日、3人の男性がやってきた。
「おいおい、こんな山の中に家があるぜ」
「俺にも見えてるって」
「で、可愛いメイドもいる。なんでメイドがいるんだ?」
「知らねえよ」
ウシの世話をしているロットに声をかける男たち。
「お嬢ちゃん」
「私に用ですか?」
「そうそう、こんな山の中で何をしてるんだ?」
「主に家畜の世話ですね」
「他に誰か住んでるのか?」
「マスターとマスターのお母様が住んでおられます」
「マスター? お嬢ちゃんの雇い主か?」
「まあ、そのようなお方です」
「そのマスターは強い魔法使いか?」「いえ、違います」
「高ランクの冒険者か?」
「いえ」
「じゃあ、貴族様か貴族様の関係者とかなのか?」
「いえ、違います」
「単なる金持ちか?」
「さあ?」
「そうか。そのウシたちよ、俺たちのウシなんだよな」
「は?」
「連れて帰るからな」
「それは困ります」
「焼き印もねえし、お前のマスターの持ち物だって証拠はねえよな?」
「それはそうですが」
ウシたちを連れていこうとする男たち。
考えるロット。
「あなた方のウシだという証拠もないのでは?」
「残念。俺たちは3人、お嬢ちゃんは1人、多数決で俺たちの勝ちなんだよ」
「マスターとマスターのお母様もいるのでこちらも3人ですけど」
「なら、勝負で決めるしかないな」
ロットは首をかしげた。
「勝負?」
「決闘だ」
「決闘?」
「そうだ」
ロットは面倒そうにボソッと言った。
「そんな結果のわかっている勝負をする意味が」
「あ?」
「いえ、マスターに報告するのでお待ちください」
「おう、いいぞ」
黒板に報告内容を書き込むロット。
男たちには黒板が見えないので、ロットが何をしているのかわからないが。
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