第3話

生後3ヶ月で別の宇宙から転移してきたテン・イシャ。


テンは転移した惑星で賢者が構築した異空間の中で人型ゴーレムによって育てられた。


人型ゴーレムの見た目は人間そっくりなので、テンは人型ゴーレムのことを自分の母親だと思っている。


「お母さん、本当に何も飲まなくて食べなくていいの?」

「そうよ、お母さんはそういう体質なの。必要なのは賢者の石だけ」

「特異体質って大変だね」

「そうね」


黒い板から飲み物や食料を取り出して飲食するテン。


テンが「黒板」と呼ぶ黒い板はテンにしか見えないのだ。


その黒板が使えるのがテンのユニークスキルでもある。


黒板の大きさは縦30センチ、横40センチくらい。


筆記具が付いていて、その筆記具で黒板に文字を書くことにより黒板に質問ができることがわかった。


『とりあえず、今夜、安心して眠れる環境にしたい。トイレやシャワーもあると助かるけど』

【破壊不可能、関係者以外入室不可能、完全防音、冷暖房完備の簡易ハウスなら、現在備蓄の材料で作製できますが】

『それはすごい。それを黒板さんが建ててくれるの?』

【10分で完成します】

『早いね』

【ありがとうございます】


数分すぎても家が建ちはじめる兆候はない。


どういうこと? と思っていると、10分後に小さな家が黒板から出てきた。テンの身体より小さい。


『あの、この家では入れないけど』

【地面に置くと少しずつ大きくなります。危険なので10メートルは離れてください】

『なるほど』


テンは小さな家を地面に置いた。


少しずつ大きくなる家。大きくなるのが止まった。


「お母さん、入ってみよう」

「そうね」


さすがはマスター、このようなことができる物をテンに与えてくれていたなんて。と、賢者に感謝をする人型ゴーレムだ。


簡易ハウスとはいえ、水洗トイレやシャワー室もある。


テーブルの上には簡易ハウスの設備等に関する説明書が置いてあった。


遠くに移動する時は簡易ハウスを小さくして黒板に収納できるようだ。


現在備蓄の材料とか書いてたな、と思ったテン。


『飲食物や資材とか、その一覧を出せる?』

【可能です】


ずらーと書き出される文字。どんどん上にストロークして消えていく。


目が追いつかない。


『あの、簡単に表示できない?』

【了解しました】


どうやら、黒板が備蓄している飲食物や資材とかは、消滅した異空間にあった物を取り込んだらしい。


在庫は飲食物は1週間分、資材は簡易ハウスをもう1つ作製できるくらいはあるようだ。


資材は余裕があるとして、問題は飲食物だなと思うテン。


どうにかして調達しないと死んでしまう。


しかし、この世界で最弱である自分がどうやって食料を調達すればよいのやら。


「お母さん、どうやったら食料を調達できると思う?」

「そうね、植物や木の実とかなら採取できると思うけど、でも」

「でも?」

「モンスターや動物はもちろん、他の人間や小さな昆虫でも私たちにとっては脅威なのよ」

「植物や木の実採取を邪魔されるってこと?」

「そうね、植物や木の実を食べて生きている生き物も多いだろうし、それらの生き物にとって私たちは新たな敵だもの」 

「そっか、でも、なんとかお願いして採取させてもらうしかないよね」

「そうね、話がわかる相手ならね」

「僕、頑張るよ」

「そうね、頑張らないとね」


きっとマスターは私たちに頑張って生きてみろと、この試練を与えてくれたのね。と、人型ゴーレムは思った。


テンは思った。植物や木の実採取をするとして、毒だったら困るよね。


お母さんに聞いたけど、そのような知識はないと言うし。


黒板に質問した。


『食べれる植物や木の実とか、どうやって識別すればいいかな?』

【図鑑を出せます……が】

『……が?』

【採取した物を黒板に投入してもらえば自動で選別もできます】

『うん、どう考えてもそっちの方が簡単でいいね』

【了解しました】


どうやら採取した物を黒板に投入すると、自動で食用(とても美味しい)、食用(美味しい)、食用(普通)、食用(美味しくない)、毒、薬草とかに選別してくれるようだ。


食事をしてシャワーをして寝ることにした。


「お母さん、明日からは食料調達を頑張ろうね」

「そうね」

「おやすみなさい」

「おやすみ」


人型ゴーレムは眠らないのだが。


翌朝、簡易ハウスの周辺で植物を採取することに。


飲料水は植物や木の実の水分からも作ることも可能らしい。


水洗トイレやシャワーで使用する水はろ過して再利用するから補充は不要だとか。


排泄物は分解して水や肥料とかにするそうだ。


植物や木の実を採取しようとしたが、木の実はないようだ。しかし、植物の近くにはたくさんの虫がいる。


「テン、不用意に接近すると殺されるわよ」

「うん、わかった」


数ミリの虫より自分は弱いと思っているテンと人型ゴーレム。


困った時は黒板に相談だ。


【虫除けスプレーが出せます】

『それを使うと虫がどこかへ行くの?』

【10分間は近づいてきません】

『それはいいね』


テンは虫たちに虫除けスプレーを噴射した。


逃げていく虫たち。


「今のうちね」 

「うん」

 

テンと人型ゴーレムは大急ぎで植物を採取して黒板に投入した。


そして簡易ハウスに戻る。


「たくさん採れたわね」

「うん。でも、肉や魚とかどうしよう。植物ばかりって」

「黒板に相談してみたら?」

「うん」


テンは黒板に相談した。


『この世界で最弱な僕とお母さんが肉や魚を手に入れる方法ってあるかな』

【最弱? それは理解不能ですが、殴ったり手づかみで簡単なのでは】

『いや、無理だから』

【なるほど、なるべく手を汚したくないと。ならば、罠や武器等の道具を使う方法を推奨します】

『なるほど』


黒板はオートライフルとオート釣り竿を出してくれた。


オートライフルを獲物に向けると自動で照準を合わせてくれて、引き金を引くと百発百中で獲物の急所に命中するらしい。


オート釣り竿は魚が泳いでいる環境なら百発百中で釣り上げることができる。もちろん餌は必要だが。


「お母さん、明日は食肉になる動物を手に入れよう」

「そうね」


でも、たくさんの動物に囲まれたらどうしよう? 黒板に相談だ。


『なるべく安全に動物をオートライフルで撃つ方法はあるかな?』

【簡易ハウスの近くに動物が好きな食べ物を置いて、食べに来た動物を簡易ハウスの窓から撃つとか】

『それはいいね。でも、動物が好きな食べ物?』

【この近くに生息する動物の好きな食べ物を出せます】

『それは助かる。じゃあ、明日、外でお願い』

【了解しました】


テンは安心して寝ることにした。

















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