第4話 仮面戦士ラスター

 登場シーンは完璧だった。爆発が無かったのが気になるが、でも仕方ないこともあると思う。

 爆発がないパターンもあることにはあるし。

 牛頭の怪人は、藤堂に、いや、ラスターに頭突きを喰らわせるため猛突進する。

 体感的に見て、牛頭の怪人は時速六十キロメートル以上のスピードで突進してくる。だがそれはラスターには関係なかった。

 その程度のスピードなぞ、恐るるに足りなかったのだ。

「ブモオオオオオオ!」

 激しい金属音、流石のラスターもミンチよりヒドイ状態になった。少なくともその確信が牛頭の怪人にはあった。

 だが、

「ブモ?」

 ラスターには毛先ほどの傷もついていなかった。

「その程度!」

 ラスターは拳を振り上げる。それを見て牛頭はマズイと思ったらしい。すぐさま、必死の形相で間合いをとる。そして、腰のブーメランパンティの中から、自身の身長と同じくらいの長さのハルバードを取りだした。

 牛頭の怪人は、ハルバードを小枝を振るように音を立てながら振り回す。

 ラスターは腰にぶら下がっていた剣を抜く。

「閃光剣グランスカリバーン……!」

 ラスターは剣をかまえる。それは藤堂が剣道の授業で習った「中段のかまえ」ではなかった。一見するとスキだらけ。だが、割とサマになって見えるかまえだった。

「来い! 怪人め!」

 牛頭の怪人は暴風を起こしながら、ハルバードを振りラスターにむけ突進していく。

「ブモオオオオオオ!!!」

「おおおおお!」

 瞬間、剣を振ったラスターは牛頭の怪人とすれ違う。すれ違ったところで、牛頭の怪人のハルバードは縦に真っ二つとなった。驚いた様子の牛頭の怪人は、ラスターに振り返る。

 ニヤリと笑った牛頭の怪人を見て、まだ何か策が、奥の手でも残っているのか?  しかしラスターは動かない。それどころか牛頭の怪人に背を向け剣をしまった。

「ブモオオオ!」

 逃げるんだよ! と言ったように、牛頭の怪人は猛ダッシュで逃げ出した。

 次の瞬間、牛頭の怪人はその体を十七分割のミンチにした。

 ラスターの剣技の前に牛頭の怪人は既に死んでいたらしい。

 それより心配なのは兎塚さんだった。

「う……うぅ……」

 うめき声が聞こえた。よし、まだ生きている! ラスターは、兎塚さんが落ちた植え込みを探す。

 探すまでもなく、傷ついた兎塚さんはすぐに見つかった。

 ラスターは兎塚さんを抱き抱え、中庭にそっと寝かせる。

 そして、不思議な呪文を唱えた。手を輝かせると、兎塚さんにやさしくタッチする。

「クッ……」

 思わずビクッと動いた兎塚さんだったが、すぐに息は穏やかになった。

「ハッ!」

 気づいた兎塚さんは起き上がり、ラスターの姿を見る。

「藤堂くん? 藤堂くんね?」

 ラスターは体を輝かせ、元の藤堂の姿へと戻った。

「そうだよ、兎塚さん」

「さっきまで全身キズだらけだったのに……」

「回復魔法で直したよ」

 藤堂はサラっと言っていた。兎塚さんも「そう」の一言だった。そのまま兎塚さんは後ろを向きボソリと何か言ったが、それは聞き取れなかった。

「何て?」兎塚さんはちょっと照れくさそうにしていたように藤堂は見えたが「なんでもない」と言ったのは聞き取れた。

「で? あなたが牛頭の怪人を倒してくれたのね?」

「そういうことになるねぇ」

 すると、兎塚さんは藤堂の目の前までやってきた。藤堂は考える。もしやこれは「チューするのではないか?」

 そう確信した藤堂は半白目で唇を突き出すという世にも気持ち悪い、後世に残すべき絶妙な顔をして若干待っている。

「うわっ……」

 小さく聞こえたその声の後、藤堂は胸ぐらを掴まれた。

「何考えているの? わたしが言いたいのはただ一つよ」

すると、藤堂にヘッドバットをくらわせ「調子こくな!」

そう言ってその場を後にした。

 藤堂に残されたのは、頭部の痛みと訳のわからないその言葉だけだった。

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