第3話 ホンモノ

 兎塚さんは牛頭の怪人の攻撃をかわし、時たまカウンターを入れていた。だがそこにいつもの華麗さは無かった。簡単に言えば、兎塚さんには余裕がなかったのだ。牛頭の怪人が振るう拳は、練習用モンスターの比ではないほど素早く、そして力強かった。

 繰り出される拳に触れる。それは大怪我では済まされないことを意味していた。

 頭によぎるのは「死」の一文字。そんなもの、少し強いとはいえ普通の女子高生である兎塚さんが慣れているハズもなかった。

「エキャモラ! ど、どうしたら……」

 兎塚さんの動揺は藤堂にも見て取れた。身の丈二メートルもありそうな巨人が突然現れ、自らの命を脅かそうとしているのだ。そんなもの動揺するなと言う方が無理の一言だった。

「えっと……な、何か、ぶ……武器を」

 藤堂はロッカーに立てかけてあった、掃除用のデッキブラシを拾い上げる。

「何も無いよりマシか」

 そして藤堂はデッキブラシを握りしめ、中庭へと出ていく。

 牛頭の怪人は兎塚さんにかかりっきりでこちらには向いていない! チャンスだ! 藤堂はデッキブラシで牛頭の怪人を背後から殴りつける。

 バギャッという音を立てて壊れたのはデッキブラシだけで、怯んだのは藤堂の方だった。マッスルアーマーで覆われた、美の男神というに相応しい、頼もしい肉体美にはキズ一つつけられなかった。赤い痕すら残らなかった。

「!」

 だが、痛いは痛かった牛頭の怪人は動きを止め、じっと藤堂を見る。

 目には「やりやがったな」と書いてある。

 そして……。

「ブンモー!!!!!!」

 町中に響き渡るような声で吠えたのだった。藤堂は驚き足をすくませる。目の前でそれだけ叫ばれたのだ。ムリもない。鼓膜が破れなかっただけ上等だ。

「あ……あわわ……」

 牛頭の怪人は、兎塚さんの方へ向く。それは「藤堂なぞいつでも殺せる」という意思の表れだったのかもしれない。

 藤堂はマーキングしているネコのお尻のように震える足をつかってなんとか逃げようとした。しかし腰が抜けて立てない。戦うことはおろか、逃げることも叶わない。座して死を待つのみだった。

 こんな、こんなところで死ぬのか? どう転んでも「死」から逃げられそうにない藤堂の中で、グラムも叫んでいる。

『エキャモラたちを助けないと!』

 わかっている。わかっていはいる。だがどうしようもなく足は動かない。動かないのだ。

 そんな中、兎塚さんは徐々に追い詰められていた。バック転でかわし、側転で避け、練習用モンスターを一撃で倒したあの威力の拳を連打する。しかし、牛頭の怪人は、ただ痒そうにしているだけだった。

「クッ、なんて硬さなの!」

 この牛頭の怪人がボディビル大会に出たら、間違いなくワールドクラスでいい成績を取るだろう。だがそんなことはどうでも良く、戸塚さんは牛頭の怪人の攻撃をなんとかかわしていた。

 兎塚さんは、バック転で間合いを取りそれを追いかけてきた牛頭の怪人へ、背後の壁を発射台としてとびかかった!

 ズドンという衝撃が辺りに響く。

「やった!」

 藤堂は思わず声を上げた。牛頭の怪人を兎塚さんは倒したのだ。

 少なくとも藤堂はそう見た。

「え? グラム?」

 その異変に気づいたのは三秒後だった。

 牛頭の怪人が笑っているのだ。

 悲鳴を上げたのは兎塚さんの方だった。

 そう、兎塚さんは牛頭の怪人を倒すどころか逆にピンチを迎えていて、その拳を掴むあまりの握力、握りつぶされそうな腕に走る痛みのせいで思わず声を上げたのだった。

「うう……て、テメエ!」

 もう片方の拳で牛頭の怪人を殴る、殴る! 殴る! しかし腰の入っていない拳なぞ、この怪人には効かなかった。キチンと正拳突きを放てたとしても、牛頭の怪人にダメージは通っていたか怪しいところだった。

 牛頭の怪人は兎塚さんのボディを殴りつけたあと、気絶した彼女を放り投げる。

 受け身の取れない兎塚さんはそのまま植え込みに叩きつけられた。牛頭の怪人は兎塚さんへ向かっていく。このままだと兎塚さんが! コレは大怪我で済まないかもしれない。

「このままでいいのかって? 黙って見ているのかって? で、でも……」

 牛頭の怪人は藤堂に背を向けている。逃げることも今ならできるかもしれない。だが。

「うおおおおおお!!!!!」

 藤堂はついに先の折れたデッキブラシを持って立ち上がり、牛頭の怪人へ向け走った。

 藤堂は牛頭の怪人へ突きを放った! しかし怪人は筋肉に力を込め、藤堂の攻撃を文字通り弾き返した。

 藤堂必殺の突きも、牛頭の怪人前にはなんの効果もなかったのだ。

 だが、今度の藤堂は諦めなかった! 殴られ、蹴られ、吹っ飛ばされても牛頭の怪人に食らいついて行った。

「そうだ、兎塚さんを助けないと!」

 その一心だった。ただ、力の差は歴然だった。所詮はただの高校生。しかも運動不足。邪悪なほどの肉体美の前に、努力不足は叶わない。

「それでも!」

 そう、それでも藤堂は戦い続けた。

「うおおおお!」

 何度も何度も折れたデッキブラシの柄で殴る。流石に牛頭の怪人もめんどくさくなってきたらしい。「まだ懲りないのですか!」とでもいいたげに拳に渾身の力を込め、藤堂を殴った!

「ブモオオオオオオ!」

 牛頭の怪人の攻撃をモロに食い、藤堂は吹っ飛ばされる。

 ゴロゴロと転がる。だが、藤堂は立ち上がった。牛頭の怪人は流石にぷちイラっときた。怪人はイキリたって藤堂に襲い掛かろうと、走ってくる。

 その時、不思議なことが起こった。

 藤堂のベルトのバックルが変形したのだ。

 四角い形だったものが、丸く変形し、中には不死鳥の装飾が施されている。

「なんだこれ、え? グラム、何て? ……わかった」

 そして、藤堂は立ち上がった。

「メドア!」

 その呪文を唱えた瞬間、藤堂の体がベルトのバックルを中心に輝き始めた。

 輝きが収まるとそこに立っていたのは藤堂ではなかった。

「ブモオオオオオオ!」

 牛頭の怪人はそこにいたヤツに殴りかかる。

「ハッ!」

 ソイツはカウンターで牛頭の怪人を殴る。その一撃で牛頭の怪人は五メートルは吹っ飛ばされた。

 初めてマトモに食らったダメージに困惑しながらも、牛頭の怪人はすぐに立ちあがった。

「ブ、ブモオオオオオオ!」

「何者かって? 悪党に我が名誉ある名前を名乗る必要なし! だが、あえて言おう…… 」

 光輝く鎧を身につけているソイツは、ポーズをキメて名前を名乗る。

「仮面戦士ラスター!」

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