2 黒衣の黒ウサギ
第5話 言葉の真意
「お呼び出しかあ……何だろうね? 愛の告白かな?」
藤堂は自分の内側にいる、カエルの勇者であるグラムに話しかける。
『さあ? でもこの間の様子を見ていると、愛の告白はないと思うよ』
その言葉に藤堂は小首を傾げ、「そうかなあ?」なんて呟く。
『とりあえず行かないと、約束の時間に遅れちゃうよ?』
「それもそうか」
藤堂はグラムに言われるまま、兎塚さんに指定された高校近所にある公園に、早歩きで向かっていた。
藤堂はせかせかしたのが嫌いで、普段からゆっくり歩くのが基本だった。だが、今日ばかりは学年でもトップクラスに可愛らしい兎塚さんに誘われているのだ。急いで行かない手はなかった。
「さて、指定の公園についたけど……兎塚さんはまだかな?」
藤堂は周囲を見てみる。ベンチに中々のいい男が座っている。思わず「ウホッ!」と言いたくなりそうな、そうでも無いような? そんなツナギを着たイケメンの類が座っていた。
「この時間にベンチに座っているなんて、なんて人だ……」
『希望! アタックするのかい?』
「いやいやいや、ノーノーノー」
手で否定して、頭でも否定する。それが今藤堂にできる最善の策だった。
イケメンはその様子を見て、ニヒルに笑った。だがツナギのジッパーは下ろさなかったので、藤堂とグラムの考えすぎだったかもしれない。
「にしても……うーん……」
『その様子だとロクなこと考えてないね?』
「バカな。兎塚さんと行くなら下呂温泉か別府温泉か。という重要かつグローバルな問題を考えていたんだ」
『そういうのグローバルっていうの?』
グラムはゲロゲロ笑っている。
「これがグローバルスタンダードなんだよ。グラム知らないの?」
『知らない知らない』
「何が世界基準なの?」
後ろから現れたのはウワサの兎塚さんだった。ぱっちりした大きい目でこちらを見てくる。
「いやぁ……その、ね?」
「よくわからないけど、ロクでもないこと考えてたのね」
兎塚さんは「まあいいわ」と、さっきのいい男が座っていたベンチとは別のベンチにカバンを置き、自らも腰掛ける。
「で、今日は呼び出したのはあなたに聞きたいことがあるからなの」
尊大な態度で腕と足を組み座っている。一方で藤堂は当然立って兎塚さんの話を聞いている。
「確かに湯布院も捨て難いよね」
「なんの話? わたしがあなたに聞きたいことは、その……変身の仕方よ」
藤堂は思わず聞き返す。
「変身なんかしなくても、兎塚さんは結構強いんじゃ?」
「この間モンスターにやられて思い知ったのよ。ケンカに勝つくらいなら今のままでもいいけど、モンスター相手だと足りなすぎたわ」
モンスター、この間の牛頭の怪人のことだ。あのマッスルボディの前に、兎塚さんの攻撃は意味をなさなかったのは記憶に新しいところだった。
「えっとね……」
藤堂はつんつんと袖口を引っ張られる感じがした。
「え? グラム? 教えないほうがいい?」
「は? 何それ。どういうこと?」」
「……うん。えっとね、兎塚さん。グラムが言うにはね、『それはエキャモラから直接教わったほうがいい』だって」
「ハハッ。そうだねムダなことはしないほうが身のためだよ」
藤堂と兎塚さんはその声の方へ振り向いた。「やあ」と声をかけてきたのは、ネズミのモンスターだった。
「なんだてめえは」
戸塚さんは既に臨戦態勢の喧嘩腰だった。
「やあ、僕はミッピーマウスだよ」
短いズボンを履いた黒いネズミのモンスターからは危険な臭いしかしなかった。
「やばい、これは権利的にマズイ」
「大丈夫よ。最近になって一部とはいえ著作権切れたみたいだし」
「ハハッ、どちらにせよ、君たちはここで僕に倒される運命なのサ!」
飛びかかってくるネズミの怪人ミッピーを二人はかわす。ミッピーはベンチに激突。ベンチは粉々に破壊された。
「ハハッよく避けられたね。でも次はないよ?」
襲いくるミッピーから二人は間合いをとる。コイツは、明らかにこの間の牛頭の怪人より弱い!
「大丈夫、怖いのは権利だけよ!」
「よし、行くぞグラム!」
藤堂はポーズをキメ、あの呪文を唱える。
「メドア!」
藤堂の体は変身ベルトを中心に輝き、光が収まると藤堂はラスターへ変身し、光の鎧を身につけていた。
「仮面戦士! ラスター!」
ラスターはポーズをキメた後、飛びかかってきたミッピーを拳で殴り飛ばす。
「ハハッ、やったな? なら、僕も軽く本気を出すとするか」
ミッピーマウスは体を震わせる。筋肉はみるみる内に膨れ上がり、身長こそ足りないものの、あの牛頭の怪人を彷彿とさせるほどのナイスバディとなった。
「マックスパワーの六割ほどだが、キミたちを倒すには十分だよ」
ラスターは腰にぶら下がっている剣を抜き、かまえる。
「ハハッ! そんなハッタリ効かないよ?」
ミッピーマウスは一気に間合いを詰め、ラスターに向け拳を振り上げる。振り下ろされる拳はラスターを的確に狙い、ラスターの急所を何度も連打した。
「ハァアアアア!」
それに対応するように、ラスターは剣を一振り。相手の力を利用するカウンターの要領で、ミッピーマウスの腕を斬り落とす。
「ウワアアア!」
ミッピーマウスは傷口をかばい、数歩下がったところでうずくまる。
「よ、よくも僕の右腕を! 許さないぞ! 覚えてろ!」
捨てゼリフを吐くと、ミッピーマウスは全速力でその場から逃げ出した。その速さたるや流石にネズミ。とても追えるものではなかった。
「兎塚さん、大丈夫?」
ラスターへの変身を解きながら藤堂は兎塚さんにかけよる。
「……」
戸塚さんは明らかに不機嫌そうな顔で藤堂を見ると、そのまま後ろを向き立ち去った。
「な、なんだよぉ……」
藤堂はただただ「わけがわからないよ」という様子で不機嫌な兎塚さんを見送るだけだった。
「やれやれだな」
それを見ていたベンチに座ったいい男は、そう呟き、その場を後にした。
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