第3話

地球とは違う惑星、タイル王国のハンド男爵家に三男として産まれたジークは日本国からの転生者だった。

 

12歳の誕生日、ジークは転倒し後頭部を強打した。気絶して夢を見てる間に前世の記憶の一部を思い出したのだ。


スキルは【異世界転生降霊術師】


しかし、日本語なのでジーク以外には誰も読めない。


文字化けスキルでスキル無しの無能だと判断されたジークは、ハンド男爵家から廃嫡された。一切の相続権とかを取り消されたのだ。


使用人として残るか、出ていくか。どちらかを選べと言われたジークは家を出ていくことにした。


机の中にあった廃嫡証明書を、お金が入っていた革袋に入れて自室を出たジーク。


所持金は金貨や銀貨銅貨が合計20枚ほど。日本円にして11万円くらい。


ジークは最初にハンド男爵領にある役所へ行った。


ジークは男爵家から廃嫡されたので、新しい戸籍や身分証明証が必要となる。


役所の受け付けへ行き、廃嫡証明書を差し出す。


「おはようございます」

「おはようございます」

「ハンド男爵家から廃嫡されたので、新しい戸籍と身分証明証をお願いします」

「はい、受け付けます」


役所の人たちはジークが廃嫡になった理由とかも知っているから、驚かれたりすることもない。


そもそも、役所が廃嫡証明書を発行したのだし。

 

「ジークさん、新しい戸籍を作成しますが……今の氏名は使えません。考えてこられてますか?」

「はい。新しい氏名は、レイ・ワールドでお願いします」

「ではここに、その氏名の記入をお願いします」

「はい」


書類の新氏名欄に「レイ・ワールド」と書いたジーク。


「ありがとうございます、使用可能な氏名か調べますのでお待ちください」

「よろしくお願いします」


使用不可の氏名もあるのだ。王族や貴族、有力者や有名人とか、他人に使ってほしくない自らの氏名を役所に使用不可申請ができる。

王族と有力貴族以外の氏名は滅多に使用不可にはならないのだが。


「お待たせしました」

「いえ」 

「使用可能の氏名でした。新しい身分証明証が完成すれば、正式にレイ・ワールドとなります」

「ありがとうございます」

「これから身分証明証を作成します。1時間ほどでできますが、手数料は銀貨2枚となります」

「はい」


ジークは革袋から銀貨を2枚取り出してカウンターに置いた。日本円で1万円くらいか。


「はい、確かに。これは領収書と身分証明証の引換券です」

「ありがとうございます」


新しい身分証明証が完成するまで1時間。さて、どうするかとジーク。


まだ、今日は何も食べてないし飲んでないことに気がついた。


役所は街の中心部にあるし、役所で働く人が交代で食事にも行くので近くに食堂屋さんが何軒かある。


そのうちの一軒にジークは入ってみた。


時刻は10時前。食堂屋さんはがらがらだ。


「いらっしゃ~い」

「失礼いたします」

「ぷっ、 失礼いたしますって。ハハハッ、どこのお坊ちゃんだい」

「まあ、昨日まではハンド男爵家の三男でした」

「へあっ!? 」


ガクブルしだす食堂屋さんの女将さん。


「し、失礼いかしました!」

「いえ、今は平民の子供と同じ身分ですので遠慮なくいつも通りに接してください」

「そうなの?」

「はい」

「はー、貴族様も大変なんだね」

「まあ、そうかもですね。今はとてもお腹がすいてます」

「あー、定食とか食べたいのかい?」

「できれば」

「朝の定食時間は過ぎたんよね」

「あ、そうなんですか」

「この時間帯は小腹が空いた人用にパンとスープしかないんよ」

「では、それをお願いします」

「はいよ」


少しすると、女将さんがスープとパン1つを持ってきた。


「はい、お待たせね」

「ありがとうございます。いただきます」

「はいよ」


スープとパンは美味しくなかった。いや、昨日までの自分なら普通に美味しいスープとパンなのだろうけど、日本での食事を思いだしたジークには美味しく感じなかったのだ。


パンを少し、スープも少しだけ食べて飲んで、あとはまったく手をつけないジークに女将さんは


「あの~、美味しくないかい?」

「あ、すみません。やはり定食が食べたい気分なので……」

「そうかい……でも、料理人は休憩でちょっと用事をしに行ってるんだよね」

「……あの、できたら俺が料理を作っては駄目ですか?」

「はい? お坊っちゃんが?」

「お坊っちゃんはやめてください。俺の名前は……レイです」

「レイ君かい、良い名前だね……あれ? ハンド男爵家の息子さんたちはジーなんとかだったような」

「平民になったので改名したのです」

「あ、なるほどね~」


女将さんは少し考えた。


「いいよ、好きな料理を作ってみて。改名記念だよ、どーんと」

「ありがとうございます」


ジークは異世界転生降霊術のスキルを使ってみることにした。


ジークはこれまでこっちの世界で料理なんてしたことがない。


日本でもあまりしてなかった。


日本で子供の頃にテレビ番組の再放送とかで見た「料理の帝王」、味吉料吉(あじよしりょうきち)。すでに故人となっている。


超天才料理人と言われていた味吉料吉を、ジークは降霊術で自らに憑依させることにした。























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