第2話
ものすごく期待して楽しみにしていた12歳の誕生日に執り行われるスキル授与の儀式。
ジークが目にした自らのスキルは、スキル無しの無能と呼ばれる【文字化けスキル】だったのだ。
読めないスキルは使う事ができない。
神殿から、とぼとぼと重たい足で何とかハンド男爵家へと帰っていくジーク。
「ニャー!」
「うわっ!」
いきなり脇道から黒猫が目の前に飛び出して来て、驚いたジークは後ろに転倒してしまった。
ドン
地面で後頭部を強打したジークは、そのまま気絶したのだった。
ジークは夢を見ていた。
地球という惑星にある日本という平和な民主主義国家。
西暦2025年、ジークは日本という国で暮らしている若者で大学生だ。
ジークは日本国で暮らしていた時のいろいろなシーンを夢で見た。
そして、信号無視の居眠り暴走トラックにひかれそうな黒猫を助けようとして、黒猫と一緒に暴走トラッ……その瞬間にジークは目覚めた。
「うわっ!……え? あれ? えっと……僕は夢を見ていた?」
目が覚めるとジークは自室のベッドの上で寝ていた。
部屋にはジークしかいない。
「地球……日本……大学生……日本語……日本語だ!」
ジークは神殿の水晶玉に浮かんだ文字化けスキルの文字が分かった。
日本語の漢字だったのだ。
この世界とは違う世界……違う惑星の国の言語、日本語。
水晶に浮かんだ文字。今ならはっきりと認識して読める。
【異世界転生降霊術師】だった。
(そうか、僕は別の世界から転生した人間だったのか)
「ステータスオープン」
◯◯師と、スキルに師がつくスキル持ちは自らのステータスを目の前に出すことが可能。
◯◯士より◯◯師は、はるかに上の存在なのだ。
【 異世界転生降霊術師
ジーク・ハンド 12歳 人間 男
亡くなっている日本人なら誰でも自らと配下の者に降霊させる事が可能。
(ただし、その人物の名前や顔、性格や実績等を認識していること。顔と性格はイメージでも可) 】
ジークのステータスボードには、そのようにスキルの説明が書いてある。
(降霊させれるの、日本人だけなのか。でも、過去の偉人を自らに降霊させれるのは凄いスキルかも)
どれくらいの時間、気絶していたのか。喉が渇いていることに気がついたジークは部屋の中を見たが飲み物は置いてない。
普通ならメイドのサリーさんとかが気を利かせて、水とか置いているようなものだけど。
気絶している僕を心配して部屋の中に誰か1人くらい居ても良いよね?
強打した後頭部は何ともないようだ。
なんだか身体が軽いし。
スキルも分かった事だし、お父様たちに……日本での家族や友人とかまったく思い出せないな。
……まあ、今の家族が僕の今の家族だもんな。
ジークは父親や家族に自分の判明したスキルを伝えに行くことにした。
きっとすごく喜んでくれるだろうな。
廊下に出ると、メイドのサリーさんが歩いていた。
「あ、サリーさん」
「……」
「え? サリーさん?」
「……」
メイドのサリーさんが僕を無視してる?
すたすたとジークを見ずに通りすぎていくメイドのサリー。
(え? まさか僕はすでに死んでて生きてる人から見えない存在なの?)
不安になったジークは家族の元へ。家族は朝食を食べているようだ。
「お父様、お母様、お兄様、みんな、
僕は目が覚めました」
「……あのまま死ぬまで目覚めなければ良かったものを」
「え? お父様?」
「あら? 誰かしら? 私はスキル無しの無能なんて産んだ記憶はないけど」
「お母様?」
「この家にスキル無しの無能なんて居ないよね」
「お兄様?」
他の兄や姉妹たちも、ジークは最初からこの男爵家に居なかったような発言をした。
「……」
「これから言うことは私の独り言だ。
道で倒れていたジークという子供を助け、この屋敷で保護して寝かせていた。この屋敷で暮らしたいなら使用人として雇うが、それが嫌なら寝ていた部屋の机、その引き出しにある金や品物だけを持って孤児院かどこへでも行けばよい」
「……お父様、僕のスキルが分かったんです」
「ん? 何か騒がしいぞ。誰かなんとかしてくれ」
「お……」
使用人たちがジークをその場から連れ出そうとした。
「いえ、自分で歩けますので」
すたすたと自室へ向かうジーク。
(……どうやら俺はこの男爵家に最初から存在しなかった者になったようだな)
12歳のジークの精神は、だんだんと日本で大学生だった二十歳の精神へと変わってきた。
(まあ、異世界転生降霊術師のスキルがある俺だ。なんとかなるだろ)
自室の机の引き出しを確認した。
小さな革袋にお金が入っている。
金貨1枚、銀貨10枚、銅貨20枚。
日本円に換算すると金貨1枚は5万円、銀貨1枚は5000円、銅貨1枚は500円くらいになるから、合計で11万円くらいだ。
他にも中金貨や大金貨、中銀貨や大銀貨、大銅貨や中銅貨に小銅貨などが存在するが、それらはなかった。
あとは、
部屋を見渡す。ジークの持ち物だったはずの物が何も無い。
机やベッド、寝具、カーテンはあるが。
「まあ、異世界転生降霊術師のスキルと、日本で大学生だった二十歳の俺の知識。何とかなるだろ、人生なんてケ・セラ・セラだ」
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