文字化けスキルはスキル無しの無能だと? 異世界転生降霊術師がゆく

ノーネム

第1話

僕は明日、とうとう12歳になる。12歳の誕生日、それは人生のうちで1番に重要な日かもしれない。


どうしてか? その日は神様や女神様からスキルを授かる日だから。


僕は男爵家の三男でジーク・ハンド


ハンド男爵家の三男だ。貴族の地位は下から「騎士爵」「準男爵」「男爵」と続く。


下から数えるほうが早い地位の男爵家だけど、それでも貴族家なのだ。三男でも普通の平民の長男より格は上のはず。


王都学園にも通わせてもらえるし、普通に卒業さえすれば、それなりの地位の仕事にもつけるはず。


そう、思っていた。スキル授与の儀式が始まって僕のスキルが判明するまでは……


・・・・・


ハンド男爵が朝の挨拶をした。


「みんな、おはよう。今日はジークにスキルが授与される日だ」

「おはようございます、お父様」

「うむ」


それぞれが朝の挨拶を終えた。


「それにしても楽しみだな」

「はい、お父様」

「楽しみね」

「はい、お母様」

「俺は魔法剣士だったけど、ジークは何だろうな」

「ジーザお兄様の魔法剣士、羨ましいです」


ジーザは17歳でハンド男爵家の長男だ。王都学園の5回生なのだが、ジークがスキル授与されるので休暇を取り王都からハンド男爵領に帰っている。


「俺は魔法盾士だったからな〜。俺もジーザ兄さんのスキルが羨ましいよ」

「ジーガ、お前の魔法盾士も素晴らしいスキルだぞ」

「ありがとうございます、お父様」


ジーガはハンド男爵家の次男だ。15歳で王都学園の3回生。


王都学園は13歳から入学なのだ。


「私は魔法陣士だから戦場では後方支援が主な仕事だ。最前線で国を護れるお前たちは私の誇りだぞ」

「お父様」

「お父様」


「僕も戦場の最前線で役に立つスキルなら良いけど、お父様の魔法陣士も格好いいと思ってます」

「そうかそうか、ジーク」

「はい、お父様」


魔法行使には基本的に魔法陣を描いた特殊な紙が必要なのだ。


稀に魔法陣不要で魔法行使できる超天才魔法使いもいるが、世界で10人もいないらしい。


朝食後、ハンド男爵家の家族総出で神殿へと向かう。


スキル授与の儀式は神殿で執り行われる。


ハンド男爵領にも神殿がある。


「神殿長、本日は宜しく頼みます」

「これはこれはハンド男爵様、こちらこそ宜しくお願いします」


「神殿長様、宜しくお願いします」


ジークは神殿長に深々とお辞儀をした。


「これはこれはジーク様、礼儀正しいことで。私のほうこそ宜しくお願いします」


スキル授与の儀式を執り行う用意は済んでいるので、さっそく執り行うことになった。


もう、頭も胸もドキドキのジークだ。


神殿長が神様と女神様に祈りの踊りや祈祷を始める。


「ウンダラダラカッパッパ〜トンダラレンレンダラダララ〜」


ジークにはまったく意味が分からないが、神様や女神様の使う言葉なのだろうか、とか思うジーク。


「ホイダラ〜ポチッ」


踊りの最後に神殿長は人間としてできるギリギリの体勢で水晶玉を触った。


ボワーっと透明な水晶玉に浮き上がってくる赤い文字。


「むっ? むむむっ!?」

「神殿長様、これは?」

「……ジーク様……貴殿のスキルは……」

「僕のスキルは?」

「……文字化けスキル、です!」

「へっ?」


思わず変な言葉が出たジーク。


(え? えっ? 神殿長、今、僕のスキルは文字化けスキルって言った?)


驚きの声がハンド男爵家の面々から出る。


「文字化けスキルだ!?」

「神殿長は文字化けスキルって言ったの?」

「文字化けスキル……」

「マジで文字化けスキルなのか?」

「私のジークが……」


ジークやジークの家族達が驚き騒ぐのも無理はない。  


【文字化けスキル】それは、誰も読む事ができない言葉なのだ。


スキル授与の儀式用の水晶玉に浮かんだ文字を見て、初めて人間は自分のスキルを認識して使えるようになる。


目が見えなくても文字が読めなくても、スキル授与用の水晶玉に浮かび上がったスキルは見えて理解することが可能なのだ。


まさに神様と女神様が人間に与えてくれる奇跡。

 

しかし、文字化けスキルは本人も読む事ができない。読めないと自らのスキルだと認識して使えないのだ。


「神殿長様、僕のスキルが文字化けなんて……そんなの、そんなの嘘か間違いですよね? 水晶玉が古くなってるとかですよね?」

「……」


静かに首を左右にふる神殿長。


「水晶玉が正常な事は事前に何回も試しております。水晶玉が正常な証拠を見せましょう。イランデ〜ルカマンタ〜ル〜ポチッ」    


神殿長は水晶玉をタッチした。    


ボワーっと浮き上がってくる赤い文字。


【神に仕えし者】の文字が見える。


「ジーク様、水晶玉には何と出てます?」

「神に仕えし者、です」

「はい。私のスキルは【神に仕えし者】なのです。なので、この水晶玉は正常なのです」

「……しかし!」


「もうよい」

「お父様?」

「ジーク、これ以上の見苦しい姿を私や家族に見せるな」

「お父様!」

「ええい! いい加減にしろ!」

「……」


「神殿長、神聖なる神殿で見苦しいところを。申し訳ありません」

「いえ、ハンド男爵様。お気持ちは……しかし、私にもどうする事も」

「分かっております。これも神様や女神様の御心なのでしょう。神様や女神様は時として人間に試練をお与えになさる」

「神様女神様の御心のままに」

「御心のままに」


振り返るハンド男爵。


「みな、帰るぞ」


ハンド男爵はスキル授与の儀式を執り行っていた部屋から出ていった。


その後に続く男爵家の面々。


「……お父様、みんな……」

「ジーク様」

「神殿長様……」

「この先、大変な人生になることでしょう……しかし、全ては神様女神様の御心なのです。お強く生きてください」

「……はい」


ジークはなんとか返事をして、スキル授与の部屋から出た。


家族は誰もジークを待っていてくれなかった。


とぼとぼと家路につくジーク。


ついさっきまで、きっと素晴らしいスキルを授与され前途洋々の人生が送れると思っていたジーク。


その足はとてつもなく重かった。











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