第三話:ゆだちの入浴場 (ポロリもあるよ☆)

 はあ、疲れたぁ~。

 人間に召喚されてから数時間後。


 私は今、人間の、智明の母親に言われてお風呂場へとやって来ていた。


「早くお風呂に入っちゃいなさい」って言われたから来たけど。

 まあ、お風呂は嫌いじゃないけど。

 なんというかうーん、なんて言うかよねぇ。


 なんというかその普段通りに声かけてくるせいで、それに普通に返しちゃって言われたままに動いちゃってるんだけど、私。

 家にいるようというか、実家のような安心感というか。そんなノリで。、


 てか、普通に油断しすぎじゃないかしら? この人間共。

 私が本気を出せば男共以外の奴も落とせるくらいには強いんですけど。


 けど、……はぁー、まあいいわ。

 考えるだけ無駄に思えるし。


 それに、フフッ。

 とりあえずお風呂でも入ってこの様子を見に来てる皆にサービスシーンでも見せてあげますかっ☆


 私はシュルシュルと衣服を脱いで、いざお風呂場へ♥

 これは決して書く内容がなくてテコ入れを始めたわけじゃないのは理解して―――。


「きゃー! ちょっと、鈴鐘ちゃん! おじさんまだ入ってるんだけどぉ!?」


 智明の父親おぞましいものがお風呂場にいた。

 この人、胸部と股間を隠してめっちゃ赤面してる。

 ……どうしよ。


「あー、ごめんなさい」


 とりあえず、謝った。ただなんとなく。


「……あ、あのさ、鈴鐘ちゃん。冷静に謝られるのもアレなんだけど。と言うか色々言いたいんだけどさ、そのー、なんで、今、お風呂に来たの?」

「あ、はい。お宅のお母様に『どうぞ』って言われたので」

「ああ、そうなんだ」

「はい」

「……」

「……」

「てか、こういうのは君が先に入って、後から智明が来てちょっとエッチなハプニングー! とかやるものでしょ?」

「ええ、魔界の学校ではそんな感じに習ってます」

「だよね」

「まあ、色々パターンありますけど。今回のようなのは載ってなかったですね」

「そうなんだ」

「はい」


 …

 ……

 ………


「あ、お父さん。そろそろ上がるから。そこからちょっと退いて貰えると嬉しい、かな」

「あ、はい」

「どうも」


 父親はそう言って、お風呂場から出て行った。


 ……なんだったの? 今の時間。

 まっ、良いや。


 気を取り直して、お風呂でも頂きましょうかねぇ~。

 他人の家のお風呂に入る事あんまり無いけど、まあまあこの家のは広め。

 それに結構綺麗に掃除もされてるし。気持ちいいかも。


 あっ、このシャンプー良い香り。

 でも、私ならもうちょっと香り強めの方が好きかなぁ~。


「~♪」


 ん? この鼻歌。 智明ね。


 どうやら智明がこっちに来るみたい。

 というか、脱衣所に入ってきたのが見えたし、服を脱いでるのが磨りガラス越しに見えた。


「あれ? 親父、電気消すの忘れてるじゃん」 とか聞こえてくるし。


 ここはさっき父親がやってたように、入ってきた瞬間に隠しつつ恥ずかしさアピールよ。

 初心ウブな反応すれば、ドキリとしない男なんていないわけよ。

 それと、フフフッ。魅了の魔法チャームも付けてあげるわ。

 それでこの風呂場で堕として、ア・ゲ・ル♪


 さあ、来るなら来なさい、智明。

 来た時がお前の最後!


 さてさて、智明が来る前にやる順序の確認でもしておきますか。


 相手が開ける。

   ↓

 相手と視線を合わせる。

   ↓

 視線合わせ確認ができたら、部位を手で隠しつつ悲鳴。


 これで完璧。

 これで意識しない男はいない。

 フフフ、こんな心揺さぶりトラップがあるとも知らない智明が近付いてくるのが磨りガラス越しに見える見える。


 そうして見ていると、お風呂場の扉に手がかかるのが見えた。

 ついに来るのね。フフフ、フフフフフフフ。

 さあ、開けたが最後。アンタの心はもう私のものッ!


 そうして開け放たれるお風呂場の扉。

 入場しようとして開けた扉の前に立つのと視線が合い―――、


「ひぃややぁあああああああ!!!??」

「うわっ! ビックリした! 何々、急に。事件性のある悲鳴出して」

「そりゃこんな悲鳴も出るわよ! そんな事より、な、何よそれ!」


 智明が抱えてるモノ。

 それは明らかに軟骨系魚類サメであり、その口には血まみれの人間が力なく垂れ下がってる!


「それって、何の事だ?」

「その持ってるやつよ! な、なんなのよそれ!」


 あと、なにこれ持って平然としてんのコイツ! サイコパスなの!?


「ん? ああ、これか? 良いだろ。俺のお気に入りのボートだぜ!」

「ふぁああ!? グロいグロいグロいグロい!! 平然と、噛まれてる部分が見えるように突き出してくんなぁ!」


 って、え?


「ぼ、ボート?」

「ん? ああ、これビニール製のボートだぜ?」


 そう言われて再度見てみると、リアルに見えはするものの確かにビニール製のボートね。これ。

 ……。


「紛らわしいモノ持ってくんじゃないわよー!」


 思い切り、このグロテスクボートの人間の頭部分を引きちぎった。


「ああー! 俺のお気にのビニールボートちゃんがぁ!」


 空気が抜けるビニールボートと共に床にへたり込むコイツ。

 フンッ! 私をビビらせたんだから自業自得よ!


「てか、なんでお風呂にビニールボート持って来てんのよ。邪魔でしょうが!」

「はあ? まさかお前、お風呂素人トーシローちゃんか?」

「素人じゃないけど、普通持ってこないわよ」

「これだから魔界育ちは。ここは日本。ジャパニーズピーポー、OK?」

「何? 日本だとお風呂に入る時のルールが違うの?」

「当たり前だろ? よく考えて見ろ。少子高齢化なこの日本。お風呂の子供の事故件数知ってるか?」


 いや、知らないけど。


「それがどう関係してくるのよ?」

「ふぅ、『傾国くにくずし』の二つ名を持ってるにしては察しが悪いな? 鈴鐘」


 何コイツ、むかつくぅ!!

 いや、最初からむかつく奴だけど!

 けど、負けっぱなしも嫌だから私の脳内で編み出した答え言ってあげるわよ!


「はっ! 良いわ答えてあげる。 溺れないように浮き輪やボートの使用が推奨されてる。 これでしょ?」

「いや、俺がバクバク鮫さんボート持って来たのと、お風呂の事故は特に関係ないぞ」

「関係ないなら言うな!」

「でも、小さなお子さんがいるご家庭は入浴の時は目を離さないようにな☆ 智明お兄さんとの約束だ!」


 なんだコイツ。


「まっ☆ バクバク鮫さんボートを持って来た理由は、抱き枕がないと寝れない感じの、可愛い男子高校生である俺様の趣味ってだけさ☆」

「はっ」

「おい、鼻で笑うな。せめて爆笑しろ鈴鐘」

「そんな程度の事で爆笑できるわけ無いでしょ?」

「そんな程度? おい、ふざけんな! それでも夢淫魔と呼ばれる悪魔か!」

「ふざけるなはこっちの話よ! なんでアンタに私の魅了効かないのよ! おかしいでしょ!?」

「知らねぇよ! 召喚者特権なんじゃねーの!?」

「召喚者特権なんてそんなのあるわけ無いでしょ!」

「無いの!?」

「無いわよ! あんなの召喚された悪魔が召喚者を気持ちよくさせて依存させるための騙し文句よ!」

「それめっちゃ悪魔じゃねーか!」

「悪魔だっつってんでしょ!」


「ちょっと、二人とも~。うるさいわよ静かに入りなさい! 今何時だと思ってるのっ!!」


「「 ごめんなさい! 」」


 普通に怒られた。


 「「 はあ。ったく、コイツのせいで 」」

「あ゛?」

「お゛?」


 互いにメンチを切り合う。

 けど、少しして智明が視線を逸らして手を振った。


「あー、やめやめ。また騒いだら母ちゃんに怒られる」

「……そうね」


 そうして静かに私達は湯船に浸かる。

 はあ、丁度良い湯加減で気持ちいいわね~。


 …

 ……

 ………


「ねえ」

「ん? どうした?」

「なんでナチュラルにアンタも一緒に入ってんの?」

「え? そりゃあ静かに入りなさいって母ちゃんに言われたからだけど?」

「あ、そ」


 そんな事言ってたわねぇ~……。


「って、おかしいでしょ!? 悪魔といえど私、女の子なんだけど!」

「なんだよ、いちいちうるさいなぁ。お前、そういう事慣れてるってか逆に仕掛ける悪魔だろー? 逆にピンチなのはこっちのはずだろー?」


 うっ、いや、まあ……。


「そうだけどさぁ。仕事仕掛ける事以外のプライベートはゆっくりしたいの!」

「じゃあゆっくりすれば良いじゃん。アゼルバイジャン」

「アンタがいるとゆっくり出来ないのよ! それに私のこの体魅惑のボディを見てもなんとも感じない奴なんかと一緒にいてもつまんないでしょーが! 枯れてんのか!」

「枯れてるは言い過ぎだろ! 普通なら興奮してる見た目だけど、なんか鈴鐘のは違うんだよなぁってなってるだけなんだよ!」

「何が違うのよ!」

「さぁ? 何が違うんでしょうか? 我々はその原因を探るべく性的心理学の権威。雨森あまもり名誉教授に意見を求めた」

「アンタ、急に何言って―――」


「はい。雨森です」(ガラッ

「うわっ!?」


 び、びっくりしたぁ……。

 急にお風呂場の小窓開いて知らない人立ってるんだけど。


「教授。この本来は好みドストレートで魅力的なのにも関わらず何も感じない現象について教えて頂けないでしょうか?」

「はい、分かりました。しかし、こちらも遊びじゃないので講義分の代金は頂きますよ?」

「そうなんですね。―――以上、雨森教授。ありがとうございました」

「あ、ちょ」(ピシャッ


 何か言いたげな教授を無視して智明は小窓を閉めた。

 なんだったの、今の?


「なあ、鈴鐘」

「なに?」

「大人って汚いよな。無料な顔して金取るんだもの」

「普通じゃない?」


 そんなやり取りをして思う。

 ゆっくりできねぇ!


「私、そろそろ上がるわ」

「おう、そうか。じゃあの」


 片手を上げる智明を尻目に私は脱衣所へ移動した。

 はあ、全く。せっかくゆっくりできる。もしくは精気を吸収しようと思ったのに、アイツが来ると調子狂うわね。


 はあ、早く魔界に帰りたい。

 弟に会いたいよぉ。

 あの子だけが私の癒やしだと痛感した夜だった。

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