第二話:お母親様は娘が欲しい! (たまんねぇ!このサイズ感!)

「いやー、似合うわぁ! 良いわ良いわぁ! 良いわよぉ~!!!」

「は、はあ……」

「次は右の太腿ハムストリングスをちょっと上にあげて~」

「こ、こうですか?」

「あー! そうそう! ああー、良いわよぉ~!!」


 あれから数時間後。

 私は、私の事を呼び出したアイツの母親に写真を撮られていた。

 色んな服を着せられて。


 正直、人間に好きな様にされてることに腹が立つけど、真名を知られた以上逆らったら何をされるか分からない。

 あと、時折垣間見えるこの母親から感じる気迫に押されてる自分がいる。

 早く終わんないかしら……。


 てか、着せてくる服。普通に私の体にサイズぴったりなんだけど。


 人間からしたら凄く良いプロポーションの私だし、飾られてる写真からこの一家にこんな採寸の人間がいるとは思えないし。

 なんであるの?


「母ちゃん。この悪魔に着せてる服、見たことないけど、どこにあったんだ?」

「こらっ! 名前を言ってくれたのにこの悪魔だなんて言わないの!」

「はいはい」

「『はい』は千五十回!」

「いや、適当に返事した俺も悪いけど千五百回は流石に多すぎるわ!」

「じゃあ、私に言う事は分かるわね?」

「はあ、分かったよ。適当に返事してごめんなさい」

「ハイ。よろしい」

「それで、なんで鈴鐘・リンリン・ゴォーンに合うような服があるんだよ?」


 くだらないやり取りをする二人。

 全く、こんな人間に―――……。


「ちょっと! 私の名前は『鈴鐘・ゴンゴン・リィーン』よ! 間違えんな!」

「あれ? そうだっけか? ごめんごめん☆」(コッ☆


 なんだコイツ。


「それで、私がなぜ鈴鐘ちゃんが着てる服を持ってるのか、よね?」

「ああ、そうだ。何故持ってるんだ? 母さん」

「―――この話題を話すという事は、智明。あなたにも話す時が来たという事。心して聞きなさい。鈴鐘ちゃん、貴女もね」

「いや、え? あ、はい」


 急に凄く真剣で真面目な表情でそう言ってくるこの母親。

 もしかしてこの服には凄い魔力や呪術の類いが―――?


「実は―――」


 っ―――……。


「お母さん、娘が欲しかったのよね~! それで、いつ娘が出来ても良いように妄そ―――いえ、想像しながら手作りしてたの!」

「……は?」


 いや、え?

 色々言いたいことあるけど、何言ってんの? この人間。

 てか、そんな理由でサイズぴったりの服になるもんなの?


「―――そんな、そんな理由で?」

「智明、あなたにとってはそんな事かも知れない。でもね、お母さんは本気なのよ?」

「母さん、なんで、なんで相談してくれなかったんだよ! それを知ってたら俺―――っ!」

「馬鹿なことを言わないで! 貴方には貴方の人生があるでしょ? それをお母さんが邪魔する権利なんて!」

「母さん……」


 いや、なんか急に始まったんだけど。

 なにこれ?

 てか、服について聞いただけでこうなる?


「そうだぞ霧子きりこ。なんで話してくれなかったんだ?」


 うわっ!?

 ビックリした! 誰、急に。

 てか、いつの間に部屋のドアの前そこに?


「あ、アナタ? 聞いていたの?」

「ああ、聞かせてもらった。話してくれなかった事実には少しショックを受けそうになったが、よく話そうと決心してくれたな。霧子」

「っアナタ……」

「昔から霧子は秘密が多かったしな」

「そ、そんな事……」

「目を逸らさずに、こっちを見て話すんだ」(クイッ

「あっ」


「あのさー、父ちゃんも母ちゃんも、いちゃつくのは良いんだけど。実の親のいちゃつきって息子からしたらキツいからな? せめて目の届かないところでやってくれないか?」

「ごめんね」

「すまん」


 コイツに謝る両親。

 でも、……うん。赤の他人の私だけども絵面的にアレはキツかったわ。


「ところで、そこにいる悪魔はどうした? 霧子はいつもゴブリンとサタンくらいしか呼び出さないだろ?」


 話的には母親も悪魔召喚に関して知ってるみたいとは思ったけど、ゴブリンとサタン様を呼び出すのね。


 ……は?


「フフ、アナタ。聞いて驚きなさい。ついに智明が悪魔召喚成功させたの!」

「へえ! 智明が」

「そう! しかも、傾国レベルの強さの夢淫魔よ」

「凄いな智明! 教えてくれたらケーキの一つでも買って帰ったのに」

「いやー、うーん。褒めてくれるのは嬉しいけどさ、本当はゴブリンとかの低級悪魔で良いやって思って十五円と生卵を生贄に召喚したんだよなぁ」

「十五円と生卵で召喚してって、凄いじゃない! 普通なら低級悪魔も召喚できずに高確率で四肢が爆発四散して死亡するのに、高位とまではいかないけどそれなりに強い悪魔召喚するなんて! うちの子、天才っ!」


 そう言って嬉しさからか泣き崩れるコイツの母親。

 いやいや、待て待て。

 また色々言いたいけど、え? 私、卵と十五円で召喚されたの?

 この、私が!?


「そんな事で喜ぶなよ母ちゃん……」

「そ、そんな事!? は!? ちょっとアンタ! 私を召喚したことがそんな事って言った!?」

「いや、だって消費期限間近のMサイズと十五円で来たし」


 そう言われて少し言い返せなかった。

 くそぅ、軽率に魔方陣に入った私のバカっ!

 魔界に帰ったら今度は慎重に魔方陣に入る事にするわ。


「いやいや智明。お前は凄いぞ。普通こんな可愛いくてスタイルの良い子と遊ぶなんて有料なら五万とか平気で飛ぶしな。それで俺の今月のお小遣いはほぼ無いぞ。ハッハッハ!」

「あら、アナタ。そのお話、―――詳しく聞かせて貰えるかしら?」

「あっ」


 完全に口を滑らした父親を母親が冷めた目線で見てる。

 笑ってるのに明らかに怖い表情で。


「智明、鈴鐘ちゃん。ちょっと待っててね? ほら、アナタ。こっちに来なさい?」

「嫌だぁ! 死にたくない! 助けてくれ! 智明! 鈴鐘ちゃん! あ、ああ! うわぁああああああーーーーー!」


 断末魔を上げてこちらに助けを求める父親は急に現れたゴブリン達に運ばれて、母親と共にこの部屋から出て行った。


 ……。


「あ、そうそう。鈴鐘」

「何?」

夢淫魔サキュバスって何か精以外に食うの? 普通に精エネルギーだけか?」

「いや、別に。そっちの方が魔力が得られて強くなれるし、魔力があれば満たされてその間は何も食べなくて良いってだけで普通にお腹満たすだけなら食事で良いし」

「ふーん、そうか。じゃあ今、軽くなんか作るから。それ食ったらまたゲームしようぜ!」

「はっ! 望む所よ! 次こそぎったんぎったんにしてやるわ!」


 そうして私は再度コイツとゲームで勝負をする。


「はいっ。また俺の勝ちぃ!」

「ぐぬぬー! アンタ! 少しは手加減したらどうなのよ!」

「あれあれぇ? 手加減しても良いんですかぁ? エリートな悪魔は手加減されないと勝てないんでちゅかぁ??」

「キーッ! 絶対負かす!」


 しかし、その後もギリギリの所でコイツには勝てなかった。

 くしょ~……、コイツが学校に行ってる間にゲームを極めて、コイツに吠え面かかせてやるっ!


「それは出来ないわよ。 鈴鐘ちゃん」

「っ!?」


 急にそんな声が聞こえて見ると、そこにはいつの間に戻ってきたのかドアに寄りかかっているコイツの母親の姿が。

 心なしかすっきりしてるような?

 いや、それより―――、


「それは出来ないって、どういう―――」

「智明が学校でいない間にゲームで鍛えようと考えたみたいだけどねそれは無理よ」


 私が思ってた事について的確に話してきた。

 私、口に出した覚えは無いんだけど?


「まあまあ、そんな心を読んでるなんて些細な事どうでも良いじゃない」

「いや、良くないわよ!」


 てか、心を読んでるって一体どうやって!?


「鈴鐘ちゃん。そんなところに突っかかってたら話進まなくなるから諦めなさい。どうせ理由なんて無いわよ」

「え? あ、はい」

「それで、なんで鈴鐘が家で特訓できなくなるんだ? なんかあるのか?」

「こらっ! 智明! そこは鈴鐘ちゃんが気を取り直して聞いてくる場面でしょ! なんでアンタが代わりに言うのよ!」

「ごめんなーい」(テペペロ

「はあ、まあ良いわ。それで、何故特訓が出来ないかというと。鈴鐘ちゃん、あなたには明日から智明と一緒に学校に行ってもらいます」


 ……は?


「なんで私がコイツと一緒に学校に?」

「そうだよ母ちゃん。なんでコイツと一緒に学校行かなきゃいけないんだよ。それに学校に行くなんて学費も必要だろ? コイツ、悪魔だぞ?」

「黙れ小僧! 私の息子のくせに、私の素晴らしい私利私欲のための計画だと何故気づかない! 脳みそ腐ってんのか!?」

「母ちゃん、あまり強い言葉を使うなよ? ……泣くぞ?」

「流石に言い過ぎたわ。ごめんね?」

「大丈夫。僕、強いもん」

「フフ、高校生にもなった息子の幼児退行がこんなにキツイものだとは思わなかったわ」

「ハハ、いてこますぞ。クソばばあ」

「あら、未だにケツの青いガキが悪魔使いデーモンサモナーの私に勝てるとでも?」

「フッ、俺にも悪魔がいる事を忘れているようだな? いけ! 鈴鐘!」

「は? なんで私が行かなきゃいけないのよ。 嫌よ」

「くそっ! ジムバッチが足りなかったか!?」

「誰がポケモンよ!」

「んー、どちらかというと足りないのは信頼かしらね?」


いやいや、どちらかって……。


「信頼かぁ。……ほら、鈴鐘ちゃん、俺を信頼して。俺は、君の味方だよ☆」(コッ☆


 なんだコイツ。


「まあ、それよりも。しっかり理由と話すとね」

「「あ、はい」」

「他の日常ファンタジー作品がそうだからよ。ほら、よくあるじゃない。どうやって編入してんのこの悪魔達みたいなやつ。それがやりたいのよ」


 ……何言ってんの?


「あー、成る程」


 え? 何を理解した?


「あ、でもさ。コイツを学校に通わせるって事は学費払わなきゃいけないだろ? どうすんだそれ? 俺のお小遣い減らされるのは嫌だぞ?」

「大丈夫よ。他の作品だって学費に関してごちゃごちゃ言及してるものなんて無いんだから。気にしないで」

「ん、了解」

「そういう訳で、学校にはもう報告してるから明日から鈴鐘ちゃんも智明と一緒に学校に行ってね? そして、はい。鈴鐘ちゃんこれ」

「はい?」


 渡された物。

 それは、これから通うのであろう学校の制服だった。


 ……また、サイズぴったり。こわっ。

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