第一話:俺、悪魔召喚者になります! (定価十五円)

 魔方陣の光が消えて目を開くと、そこは学校で習ったようなまあ普通の人間のお家のお部屋って感じ。

 ただ、イメージしてたより広い。


 そこには清潔感のある白いテーブルがあって、それを囲うようにソファーがあり、キッチンも見えて。凄く気持ち良い日差しが部屋を照らしている。

 あれ? ちょっと待って。この間取りって確かリビングってやつよね?

 普通悪魔召喚は、個人の部屋や薄暗い場所で行われるって授業で言ってたはず。


 ……まあ、習ったことと違うことは多々あるって聞くから今回はそれだったのかもしれないけど。

 けど、私の事を呼んだ人間ご飯はどこに……?


 目の前にはそんな光景しかなくて、人間の姿が―――、


「おーっ。 来た来た!」

「―――っ!?」


 不意に声が聞こえて振り向くと、ソファーに座って私の事を見る人間の男が一人。

 この男が私を呼んだのね。全く気配がしなくてビックリしたけど。

 でも、フフッ。結構若い人間のオス。見た目的に同年代っぽいけど。

 まあ、初めての人間界で初めて搾り取る相手としては絶好の相手、ね♥


 まずは、この馬鹿なオスを騙すための演技をしてあげるわ。


「あのぉ、悪魔を呼んで、何か用ですか?」


 フフッ、決まった。

 この庇護欲を駆り立てる魅惑のヴォイスとおどおどした様子で見やる表情。

 これでこのご飯の心は揺らいで―――、


「ああ。一緒にマリカしようと思ってさ。早速やろうぜ!」


 目の前のこのオスはそう言ってテレビの方へと視線を。

 マリカは魔界でよく弟とやってたけど。

 ……いや、それよりも。

 コイツ、なんか素っ気ないというか、全く私に興味なくない?

 要らないと思ったけど、魅了チャーム付与した方が良かったかしら?


 って言っても普段の言動には多少なりとも夢淫魔である私の魅了の魔力は入ってるはずで、人間には普通に効くはずなんだけど。


 もしかしてこの人間、魔力抵抗力があるタイプかしら?

 でも、人間の抵抗力なんてたかが知れてるし……。


「おい、どうしたんだよ? 早くマリカしようぜ! その為に呼んだんだから、さっ」(コッ☆


 なんだこいつ。

 ああ、違う違う。


「ごめんなさぁい。私ぃ、ゲームって苦手でぇ。それによく分かんないしぃ」


 私はそう言いつつ、言葉に魅了の魔法を付与する。

 フフ、これで―――。


「え? そんなゲームによく出て来そうな格好してるのに?」


 ゲームによく出てくるの!?

 どんなゲームよ!


「ほら、これにそっくりだぞ」


 言われて指された先。

 そこに映し出されていたのは、


 DKコーング!


「誰が裸ネクタイゴリラDKコングだ!!!!!!」

「うわ! 危ね!!」


 私の振るった拳が空を切る。

 コイツ、できる!!?


「はあ。全く、悪魔って言っても甘いな。……ゲームを知らない奴がDKコングこいつを見て名前を言えるわけないよな?」

「―――ッ!」


 拳を避けて瞬時にソファーの上に避難し立つコイツが私を見下ろして核心を突いてくる。

 その言葉に背中に冷や汗をかいた。

 ヤバい。マズった!


 いや、まだ挽回する方法はいくらでも―――っ。


「それに、お前。さっきから言ってる言葉。全部演技だろ?」

「なっ!?」


 何故見抜かれた!?

 コイツ、ただのバカかと思ったらとんでもない食わせ物だわ。

 けど、そうね。


「フフッ、演技だって分かってたのね。それじゃあ、遠慮は要らないって事ね」


 私の本質に気付いたなら遠慮はもう要らないわよね。

 魔力を全身にまとい、人間へ向き直る。


 この纏った魔力は魔神でさえも堕ちてしまいそうになるほど強力な魅了効果を有している。

 こんなの人間がくらえば、興奮を通り越してイチコロよ。


「さあ、覚悟なさ―――」


 ゴッ!!

 ッ―――!!!!!!


 気合いを込めて足を動かした時だった。

 足の小指。テーブルの脚にぶつけた。


 っ痛いぃ……。


「ハッハッハ! 笑止! 一瞬、自分の軽率けいそつさで発言したことに命の危機を感じ後悔をしたが、テーブルの脚に足の小指をぶつけてしまえばこっちのもんよッ!」


 ソファーの上で笑うコイツ。

 くそっ!

 むかつくぅ!!!!


「さあ、悪魔よ。選べ、俺とマリカをするかスマブラをするか」

「誰が、アンタなんかとっ!」

「怖いか?」

「は?」


 何を言って―――、


「怖いのか? 人間風情に負けてしまうかもしれないって事が!」


 コイツッ―――!!!!


「やってやろうじゃない! 魔界で鍛えた技術でギッタンギッタンにしてやるわ!!」

「フッ、面白い。じゃあ、こちらも見せてやろう! 普通の男子高校生のカジュアルバトルをよぉ!!」


 そうして互いにコントローラーを手に、いざっ!

 尋常にスマブラで勝負っ!!


「はっ!? アンタ、アイテムありなんて聞いてないわよ!? それに普通は終点バトルでしょ!?」

「言ったはずだ! これはカジュアルバトルだとな!!」


 ぐっ! 確かに言ってた!

 あ! あのアイテムは!!

 壊さないと!!

 って! 先にコイツに壊されたぁ!!!


「さあ、俺の美技に酔いしれな!」

「させるk、ああー!!!!!!!!」


 間に合わなかったぁ……。

 それから私は、コイツとカジュアルバトルで戦い、


 ボコボコに負けましたぁ。

 くそぅ!くそぅぅうううう!!!!!


 私にこんな思いさせるなんて!!

 絶対許さない!


「フンッ、いきがってた割には大したことないな。悪魔よ」

「ふぐっ、貴様。貴様ァ!」

「カジュアル最強ッ!!!!!」


 煽ってくるコイツに凄く腹が立つ!

 しかも、変なポーズまでして!

 キィー!!


「ただいま~」


 ん? 誰かが帰ってきた?

 声的に女性の声。


 声の年齢的にコイツの母親かしら?


「ちょっとー、智明のりあきー。いるなら、『お母たま、お帰りぴっぴ』くらい言いなさいよー」


 ……母親みたいね。

 でも、お母たまって。

 それに、お帰りぴっぴってキツくない?


「お母たま、お帰りぴっぴんぐ♪」

「うわ、キモ」

「おいなんだ! やるのかクソばばあ!!」

「誰がクソばばあですってぇ!? お小遣い25%オフにするわよ!」

「すいません許して下さいお母様。それだけは、それだけはどうか」


 壁に向かって深々と土下座をするコイツ。

 てか、なんで壁越しに口喧嘩してるのよこの親子こいつら


「分かれば良いわ。それじゃあ、お夕飯の準備を―――」


 そう言ってリビングを開けたコイツの母親と目が合った。

 その表情は入った瞬間とは違って、信じられないような表情に変わり―――、


「コラ智明! 悪魔召喚をやる時はリビングでやるなって言ったでしょ。ちゃんと薄暗くして雰囲気を出さなきゃ、召喚した悪魔に失礼でしょ?」

「いや、だって友達いつメンが皆今日来れないみたいだから遊び相手欲しくて簡易的にやっただけだし。それに初めてだから許してよ、母ちゃん」


 え? 色々言いたいことあるけど、そんな理由で悪魔召喚したのコイツ?

 頭おかしいんじゃないの!?


「はあ、それは仕方無いわね」


 いや、仕方無くないだろ!


「それより、床に書いた魔方陣、夕飯までに消しておいてね」

「りょ!」


 そう言って智明コイツは魔方陣を雑巾で消していく。

 って―――、


「ちょっと待ちなさいよ!」

「ん? どうした悪魔。リベンジなら後で受けるけど、今は魔方陣消すので忙しんだけど」

「いや、それ消されると私が帰る方法が―――ッ!」


 そこまで言ったら、不意に肩に手を置かれた。

 ビックリして見れば、コイツの母親だ。


「あら? 大丈夫よ夢淫魔サキュバスちゃん。安心して」


 優しく微笑むコイツの母親。

 見れば普通に安心できそうな感じがしたけど。


「智明が呼び出した初めての悪魔だもの。もう家族のようなものよ。こんな上物悪魔、好きにくつろいでね♪逃がすものですか

「え?」


 あ、あれ?

 今、なんか凄い、なんというか温かい言葉の裏で副音声的な物が聞こえてきたような?

 それと背筋が寒い。これが、恐怖……!?

 魔界でも感じたことがない感覚に第六感が警鐘けいしょうを鳴らすけど、う、動けない……。


「え? 普通に遊んだら返すつもりだったんだけど?」

「何言ってるの! すぐ帰すなんてそれは失礼でしょ! この子、凄い上物悪魔だし。一昔前なら傾国も可能なほどに強い子よ?」

「え? マジ?」

「マジよ」


 そんな二人の会話に若干、ついて行けなかったけどこの母親は私がどれくらいの悪魔か分かってるみたいね。


「ごめんなさいねー。コイツ、鈍感で。ほら、アンタも謝りなさい!」

「ごめんない」

「ね、この子もこう言ってることだし許してくれると助かるわ」


 いや、色々言いたいことあるけど、コイツ今、ごめんないって言ったわよ?

『さ』が抜けてたわよ?

 謝る気全然なかったわよ!?


「ところでお名前はなんて言うのかしら?」

「あ、え? えーと、鈴鐘・ゴンゴン・リィーン、ですけど―――」


 しまった!

 怒濤の会話の流れで、自分の真名まなを―――ッ!


「真名の名乗りありがとうね。鈴鐘・ゴンゴン・リィーン、ちゃん♪」


 私の目にニヤリと笑みを浮かべ、こちらを見やる智明の母親の顔が焼き付いた。

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