第8話 【聖女】と聖水
声をかけてきた女に、マヤは見覚えがあった。
服装は、神聖教会の神官服。
柔らかそうな金色の髪。
クリクリとした青い瞳。
しかしその顔には、いやらしい笑みが浮かんでいる。
キアラ・ブリスコー。
男爵令嬢にして、【
そして乙女ゲーム、「セイント☆貴族学園」の主人公でもある。
ゲームをプレイした
転生してくる直前にも、破滅ルートのマヤ・ニアポリートが処刑される夢の中で見ている。
しかし――
「
マヤはすっとぼけてみせた。
この世界線におけるマヤ・ニアポリートとキアラ・ブリスコーは、初対面のはずだからだ。
「うふふふ……。初対面だけど、キアラはあなたのことをよ~く知っているのですぅ。悪役令嬢、マヤ・ニアポリートさぁん? よくもゲーム内では、徹底的な嫌がらせをしてくれましたねぇ」
マヤはすぐに理解した。
キアラ・ブリスコーも、日本からの転生者だと。
だが、すっとぼけは継続だ。
「人違いでは?」
「人違いなわけが……あらぁ? あなたゲーム内とは、ずいぶん印象が違いますねぇ。眼鏡はかけていなかったし、もっと
「ゲーム? 何のことでございましょう?」
「あなたはぁ、危険なのですぅ。なぜかギルバート様の婚約者じゃなくなっててぇ、学園にも来てなかったみたいですけどぉ。ゲームの強制力みたいなのが働いてぇ、私の邪魔をするかもしれないじゃないですかぁ」
「
「そうよぉ。ギルバート様はもう好感度MAXでぇ、キアラの言いなりなのですぅ。悪役令嬢であるあなたが王都に居たら、気が休まらないんですものぉ。田舎で化け物辺境伯の、
「甘いな」と、マヤは思った。
そんなにマヤを危険視するなら、辺境への追放などではなく暗殺しにくるべきだろう。
こうやって、マヤの前に現れるのも軽率だ。
殺されるかもしれないとは、考えないのだろうか。
「そうそう。急いだ
勝ち誇ったように笑うキアラ。
そんな様子を見て、レイチェルはマヤに耳打ちした。
「……殺しますか?」
「……いえ。せっかく出向いてきてくれたのだから、ちょっと遊んであげましょう」
マヤは魔力を高めていった。
その影響を受け、周囲の空気が
魔法仕掛けの街灯も、チカチカと明滅を始めた。
大地が不気味な鳴動を始め、通行人達が戸惑い足を止める。
「な……なによぉ。魔力で威圧しようとしても、無駄よぉ。死霊術なんて、【
セリフから察するに、この世界線でもキアラ・ブリスコーは【
【
キアラはそう考えているはずだ。
マヤは唇の端を吊り上げ、
「ショータイムよ。みんな、出てきなさい」
マヤの周囲に、空間の穴が開く。
そこからぞろぞろと、
「ひいいいっ! 何なのですぅ!? この
腐食した体を引きずり、のそのそと歩き回るゾンビ。
完全に白骨化した、
さらに実体を持たない
合わせてその数は、千を超える。
突然現れた
「ゲームでは、ゾンビを1匹操るくらいしかできなかったくせにぃ……。来るなぁ! 来るなぁ! 【ターンアンデッド】ぉ!」
キアラは必死の形相で、
しかしキラキラとした光が舞い散るばかりで、
ゾンビがポリポリと
【
キアラの力を、疑っているようだ。
「ど……どうして神聖魔法が、効かないのですかぁ!?」
「術者の力量差ですね」
マヤは平然と言い放った。
しかし弱点属性を突けても、レベル差が数百倍もあれば話は別である。
マヤから絶えず供給される強大な闇属性魔力が、キアラの貧弱な神聖魔法を圧倒してしまうのだ。
「こ……こんなの、あり得ないのですぅ! ……へ?」
肩に何かが乗っかる感触を受け、キアラは背後を振り返った。
すると目の前には、どアップになった
キアラの肩に手をかけ、もう
ついでに失禁もして、股間から聖水を垂れ流した。
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