32 天地創造
王子の天地創造は7日ぴったり続いた。聖書かよ。
歌のゲーム世界そのままな世界が、出来上がっていた。
なんとモンスターもいる。
「彼らは城の騎士だったものよ」
それで、鏡の中にいるはずの人間たちは、村や町にいる。あまり動いてはいないけど。
その広い世界が創造されるにしたがって、俺たちはそこを旅した。
モンスターが背中に乗せてくれる。
驚くほど緻密なイメージに作られて。銀色の世界は素敵なファンタジー。
いろんな地方を旅した。歌のゲームの聖地探訪みたいになってる。
「すご」
鏡の滝とか、鏡の激流とか。
マップをほぼ完全に再現している。
しかも、絵を見せていない歌の別のゲームマップも、王子が想像から創り上げていた。
「王子の創造が終われば、次代の王子がどこかに生まれるはずよ。多分、この世界の真ん中」
つまり、元の天空都市であった。
広い広い世界を一周し終わって、都市に戻る。俺たちの真下から浮かんだ島の、お城の中。玉座の間に、不釣り合いなベッドが一つ置かれて、そこに赤子が眠っていた。
これが、次代の王子。
この子は、せめて長生きできますように、と俺は願った。
アイと、今は現実世界にいる俺の鏡像は、この世界で、次の王子を育てるらしい。
いつでも来ていいよ、と言ってくれた。
俺と歌には、王子からの最後のプレゼントがあった。
歌には、鏡でできたきれいな一対の耳飾り。
俺には、鏡でできたブレスレット。
これがあれば、誰でも、魔法がなくてもここに入れるらしい。
実質鏡の世界の鍵みたいなものである。
でも、できれば俺たち以外の人間は招かないでほしいとアイに言われた。にぎやかすぎても困るって。
城の鏡の一つが、俺たちの家につながっていた。
そして、3週間くらいの滞在は終わりをつげる。
「ただいまー!」
二人、家の敷居をまたいだ。
久しぶりに帰って来た。
父さんと母さん、誠一や千佳たちにたいそう心配をかけたことを謝ってまわった。
鏡像の俺は本当にうまくやってくれて、そこまで大事にもなっていなかったし、父さんと母さんも何事もなかったかのように装ってくれた。家に帰ったら鏡像は「ではこれで」、とクールに帰り、父さんと母さんは、
「よくやったな」
「お帰り」
と、俺と歌の頭を撫でた。
学校の宿題が貯まってしまったので、その次の休日を返上してやることになった(半日で終わった)。学校には風邪と伝えていたらしく(3週間ちょっとの風邪……?)、それにしては元気な俺たちを見て、クラスメートはさぼったでしょ! とからかった。
俺と歌はごまかした。
しばらくできていなかった勉強会も再会し、中学受験の勉強へとかじをきることになる。
歌は、前よりもよく感情を表に出すようになったかもしれない。
あと、俺の前でぶりっ子をするのを止めた。素で過ごせるようになったのだ。
歌のもらった鏡の耳飾りは、耳を挟む方式で穴を開ける必要がないタイプだったので、家の中でよくつけている。俺もブレスレットを大切に持っている。あんまりつけることはないけど。
歌は、ゲームの制作で詰まると、鏡の世界に行くようになった。あの世界は俺たちの想像を超えたファンタジーだし、ゲームの絵を描くときも、あそこに行けば模写で済む。
イメージがよりリアルに近づけば、作品もよくなるさ。
「……」
歌が、王子の最期の願いを聞いてくれて、よかったと心から思う。
歌の成長につながったのはもちろん。でもそれより、"友達"が幸せに逝けたから……。
王子、君の初恋は、今日も元気にいきているよ。
鏡に向かってそう言った。
『哲学の本を読んだ方がいい』
おにいちゃんの勧めで、本の題名を紹介されたことがある。
『ま、別に読まなくてもいいけどね』と、そう言っていた。
忙しかった私は、ゲームを仕上げる方を優先させた。
『哲学の本を読むとね、自分のことを、どうやって考えればいいかが分かるんだ。自分を振り回してる、自分の奥底にいる、この、感情ってものも、見えてくる。気付かなかったら動かされるだけだけど、気付けば、感情に従わない、ってのを選ぶことができるようになる。自分が、本当は何をしたくてこんなことをしたのか』
その時、おにいちゃんに負けるわけにはいかないって思ってた私はそれがどういうことかわかっているふりをした。あの時は、ちょっと引っかかったけどそのままにして、で、今、やっとわかった気がする。
あの時、一回全部暴露されて、何が私の執着を生み出していたのかがわかった気がする。
今度読んでみよっかな、『嫌われること』。
二章 完。
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恋愛(?)モノがたり! 木結 @kiwomusubeyo
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