12 小旅行なう


「リリィ?」


 夏休みの図書室開放の日をあらかじめ伝えてある。

 学校のインターホンを押して開けてもらう。

 今日は夏休み2日目だ。最初から人気のない学校、人気のない図書室。

 父さんと母さんには、本を借りた後リリィと遊んでくると伝えてある。今日一日、フリーである。


「まひと! おーよしよし」

 ふざけたリリィに犬の頭をなでるみたいにされる。俺は無言でリリィをにらんだ。


 ニコニコリリィは手をはなす。

 リリィも一日フリーである。一日中遊ぶ予定であった。


 ただしリリィの一日は一日ではない。


 完全に姉と弟みたいな見た目の俺たちは、学校を出てもう一度待ち合わせ、髪の色を魔法で変えてすっかり別人みたいになったリリィと歩き出した。

 今日は、俺が町を案内するのである。


 どこまわるかは地味に真面目に考えて来た。さりげなく、例えば博物館が舞台の小説を渡して反応を確かめたりして、なにがリリィに目新しいかはわかっているつもりである。

 博物館、図書館、商店街、電車。駄菓子屋、河川敷で昼寝。

 リリィが箱入り娘過ぎて知らないこと多すぎて選びきれない……。


 だが魔法で時間を操作できるリリィは割と好き勝手出来る。正直疲れるが、市の博物館を全部回るのもできるらしい。リリィは胸を張って言っていた。


「私、魔力の量はこの国一番なの」


 じゃあ時空間転移もできるの、と聞くと、


「練習中!」


 なんとまあ、大きな口を叩くものである。




 多分3日くらい、睡眠挟みながらリリィと旅したと思う。


 いろいろなものが見れた。


 博物館の恐竜の化石にぎょっとするリリィ。クラシックな芸術より前衛芸術が好きらしく、ねじれくねった形の柱を真面目くさった顔でじっくり干渉するリリィ。町のお土産屋で木刀を買おうとするリリィ。かさばるので、代わりに御揃いのストラップを買った。


 学校の図書室より数段大きな図書館。容赦なく人払いしようとしたリリィのせいで人が出入り口に殺到しそうになった。ここでは静かにッ!って言ったら、後ろからつんつんしたり、背骨をなぞって来たりでからかってくるリリィ、満面の笑み。リリィと、練習で実際に本を借りてみた。数十分で読んでしまって、すぐに返した。これでリリィも俺の図書館カードがあれば本が借りられる。できるようになって意味があるかはわからない。


 満員電車で思いっきり乗客の足を踏んずけて、謝り方を知らないリリィに俺が実践して見せたり、都会の人混みを魔法を使わずに歩く方法を実践して見せたら、リリィが「忍者みたい!」って言ったり、俺にぶつかってしまった人に「なんで謝らないの?」とリリィが静かに殺気を飛ばすので必死に止めたりも。


 体感で一日が経とうかというくらいで河川敷に行って、ゆるい人払いをかけてぐっすり寝てみたり、海まで歩きながらいろいろ話したりした。


 駄菓子屋にもちゃんと行った。(リリィはここで激しく散財するのであった)


 親にもらったお小遣いで足りるはずもなく、リリィに出させる羽目になってしまった。雑に何万もぺらって出すから、やっぱりどっかの大富豪か、財閥関係なんだろうなって思う。


 リリィは俺がへりくだって感謝するのを求めていないようだったから、「出世払いで必ず返す」という言葉を飲み込んだ。いずれ勝手に返させてもらおう。


 中々日が暮れなかったが、ようやく時計の針が五時くらいになった。


 リリィも俺もこの小旅行がとうとう終わることに感慨深い思いと、疲れを抱えていた。

 リリィも俺も、何も言わずに歩いた。


 リリィが色々見られて満たされているのは分かっていたし、俺も非日常で楽しかった。


 なんか、前世の友達のことを思い出す。

 言葉が無くてもいい、しゃべらなくてもいい。友達とそんな空気を共有していることが、何よりの幸せ。


 なんか、何というか。この時、多分、俺はリリィが「大事な友達」や「親友」であることを確信したのだと思う。

 リリィといるとたくさん本読めるし、リリィは頭がよくて話し相手として申し分ないので、一緒にいるだけで楽しいのだ。


 俺とリリィが並んで本を読んでいる、そんな日々がもっとずーっと続けばいいのに。言葉にしないでも、俺は多分そう思っていた。






 多分、これは後々に回収されるフラグだった。

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