11 そろそろ夏休み
土曜日。俺の家では、恒例の勉強会。できるだけ知的好奇心をそそるような内容にしております。塾生はたったの2人。教師はたったの1人。難問に取り組めば、時間が一瞬で過ぎていく……。
今日は特別で、夏休み直前だから、みんなで宿題をやるのである。エアコンを利かせた快適な室内で、俺はゴロゴロ「こくごのワーク」を解いていた。どうせ合っているので、ただ面倒なだけだ。だが、ここまですらすら宿題が終わる感覚は俺の前世にはなかったので、なんか楽しい。
いや、楽しいって言うのは錯覚かも知れない。「楽しい」って無理にでも思わないと手が動かなくなるからかも。
リアル2年生である千佳ちゃんと誠一には長時間の作業は厳しい……かと思いきや、お前本当に小学生かと思わせるようなペースで解いている。ゲーム世界の人間はスペックが高いのだろうか? 俺の半分以上の速度である。見、即、答の俺の半分以上って、普通に考えて、怪物である。
おかげで、俺もおちおち休憩もできずに、一日でワーク類は終わってしまったのである。ちなみに読書感想文はリリィと一緒に片づけてある。
しかし、何が恐ろしいって、歌が生前の俺の進度に追いつきそうなことである。普通に、ヤバい。大学数学もちょっとたしなんだりはしたけど、歌はもうじき俺を追い越してしまうだろう。足し算引き算の暗算俺より早いし。
兄としての威厳と、中身ほぼ大人のプライドが「どうしよう! どうしよう!」と慌てているが、あんな感じの天才は俺たちの理解を超えているので仕方ないのである。いや、勝てん。マジ無理。これで、一年生……。
俺だけならまだいい。が、歌は自分の才覚を隠すこともしないので、親がどん引きしてんだよ!!
学校でひそかに有名人になっている子がいる。
その名も、愛川真人。
家に帰りたくない理由があるんじゃないかってくらい図書室にこもって、読み干す勢いで本を読んでいる。
その噂は教師の間で広まって、やがてPTAへと、広まっていく。
愛川家の親二人、愛川渉と愛川英子にもその噂は伝わった。
子供たちが寝静まった土曜日の夜。二人で仲良く洗濯物をたたみながら、渉は妻に語りかけた。
「英子君、ウチの子は天才らしいぞ……!」
「あら! やっぱり! 他の子とは違うって思ってたのよ~」
「真人はいつも本を読んでるけど、実は学校でも読んでて……」
今年借りた冊数を教えてもらった渉は自慢げに英子の耳に手を当ててささやいた。
「今年、400冊超えてるって!」
英子は一瞬ぽかんとした。
「400、冊……想像がつかないわね。でもあの子、勉強会で出す問題も自分で考えているんでしょ? そんな時間ないわよね」
「だから、天才なんだよ!」
「あの子、ちっとも学校のこと話してくれないから、5時まで学校で何してるかもわからないのよね」
「しかも、PTA会でリリィちゃんのご両親を探したんだけど、リリィちゃんって子は、学校にいないらしい」
「えッ!?」
真人があまりにしっかりしていたので、信頼して、話さないのを追及したりしなかった。あまり深く学校のことを聞いていなかった二人は頭をひねった。
「あの子、いつも『図書室か校庭にいる』って言ってたわよね。あらやだ、あの子、もしかしてお友達の名前を間違えて覚えてるんじゃないの?」
後日、真人に、リリィちゃんの名前をもう一回聞いてきてほしい、というと、真人は内心何かのフラグかと思ってたいそう怯えたそうな。
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