10 二年目の学校は
俺の妹、すごいぞ……!
歌に宿題が分からないと言われて教えていて、調子に乗ってどんどん先のことを教えていて。日が暮れてきて。割り算までいって俺はあれっと思った。
歌の目の輝きが失われていない。
興味津々だ。
すごい。
呑み込みが、早い。
これは……逸材かもしれない。
俺先生による、休日の塾が、始まった。
三日坊主にならず、意外と続く。
毎週、朝から晩までよく飽きずに付き合ってくれる。
俺も本ばかり読むのを止めて、父さんにPC借りて中学受験の問題とか引っ張って来たりして。
元理系男子に追いつかんと目をらんらんと光らせて5教科の鬼となった妹は、俺が怖くなるくらいの速度で成長していった。
「おにーちゃん、これどーゆーこと?」
今は整数の問題をやっている。
漢字も毎週テスト(自作)をやっている。母さんと父さんもやるようになって、家族みんなで和気あいあいと勉強している。
歌が分からない問題をまず俺に聞くので、父さんはちょっと悲し気な目をした。
妹を、魔改造。
俺の幼馴染、すごいぞ……!
歌とまだ交流があったらしいOSANANAJIMIの千佳ちゃんが、俺の塾に、来た。
歌に散々自慢されたらしい。
俺は妹で慣れているので漫談でもするかのように勉強を教えた。
飽きて午前で帰るかと思いきや、歌に負けじと頑張っている。
歌と進度は合わないので個別指導みたいにして、俺が教えている。
「こぉんなのもわかんないのぉ~?」
他の子より賢くてちょっと調子乗った感じの歌(調子乗らないようにちょくちょく「自慢しないようにね」とは言っている)が千佳ちゃんをからかう。
「こーら、歌。そういうのは嫌われるからダメだぞ」
「そーそー。そんな歌ちゃん嫌いだぞー」
千佳ちゃんが相乗りするが、受験生かよという集中力で問題からは目を離さない。
「えへへー、ごめんなさい」
俺の叱り方がいけないのか。2対1で不利を悟るとあざとく謝るなんて技能を身に着けるようになってしまった。
まあ、歌にとっては、ただじゃれてるだけなんだろう。
俺は手元の宿題をさらさらと終わらせながら次に2人に出す問題を考えていた。
今度は理科のちょっとした実験もしたいな。
英才教育って、スバラシイ!
俺の友達、すごいぞ……!
俺の塾にとうとう参戦したのは、知る人ぞ知る野球少年にして俺の(もしかしたら)積年のライバル、本庄誠一君である。
野球がない日に、一度遊びに来たら、たまたま俺の塾の日で、勉強会みたいになった。図書室でたまにやっていた先取り学習を俺の家でやるようになっただけである。
俺は早速今の範囲で解ける難問を連続で叩きつけ、負けず嫌いの少年は戦い始めた。
初日、3問目が解けずに悔しさのあまり泣いた彼は、リベンジを誓った。ちなみに泣くのは俺の塾では珍しくない。解けないと悔しいよね。
その代わりあっさり解かれたら俺がちょっと泣きます。長い時間かけて考えた問題瞬殺されたら悔しいよね。
こうして。
俺の英才教育勉強会は、幼馴染たちを迎え入れたのであった。
俺の話友達、すごいぞ……!
もう飽きてきたと思う、このパターン。だが、こんな感じで似た問題が出されても集中力が切れないのが愛川歌である。
閃きでごり押してくるのが桃崎千佳ちゃんである。計算量を積まれても行けてしまうのが本庄誠一君である。
俺は、ただの元高校生だ。
図書室で、本を読まない俺にリリィが何してるのと聞いた。
「友達に出す、問題を作ってるんだ」
「見せて見せて」
俺の問題ノートを見せると、すらすらといていく。
何こいつ。最後の奴とか三平方の定理なんだけど。
「何で解けるの……?」
「リリィ、先生に先取り教育受けてるんだ」
「塾じゃないよね?」
「ううん、家庭教師。美人だよ」
んな情報要らんわ。
「ねえねえ、ここ、こうしたらいいんじゃない?」
鉛筆できれいな字を書き入れて、見せてくる。
「計算一つ増えるよ?」
こいつ、有能かよ。
「……いいね」
「あとここも!」
その日、図書室の時計は進んだり戻ったりで大忙しだった。
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