第14話 ドリップの憂鬱
暦を見れば、本日は土曜日。
食卓の上に置かれたメモ用紙には、買い物品目が溜まってきている。そろそろお買い物に行かねばならないタイミングと思うときは、大抵が休日であります。
普段、勤めに出ていないあたしにとって買い物は平日の業務であり、休日は避けるべき対象です。だって、人混み嫌いだし……。
とはいえ、行かないわけにはいきません。うちの母親は珈琲中毒と言えるほどに珈琲が無いとだめな人なのです。
うちでは、インスタントコーヒーが欠かせません。
もともと、豆を使って水出しするような洒落た家でもありませんし、手軽なのが一番という考えから、珈琲はインスタント一択でした。まあ、世間一般には水(お湯)で抽出する豆を挽いて煎れる珈琲のほうが「普通」と云う扱いなのでしょうが。
しかしながら面白いもので、普段コーヒーメーカーでのドリップコーヒーを常用している人でも、「インスタントが飲みたい」という事をおっしゃいます。
『カップ焼きそば現象』とでもいいましょうか、もはやどちらが上とかいう優劣ではなく、それぞれに個性と魅力を創出しているのがわかる一幕です。
さて、うちではメインがインスタントなのですが、一回分ずつ小分けのパックになったドリップコーヒーも常備されています。これは別に好んで用意しているわけではありません。うちの家業の取引先がお中元などで毎年コーヒーギフトをくれるのですが、その中味が毎回ドリップコーヒーなのです。
これ、うちの家族には大不評なんですw
こんな洒落たのじゃなくていいから、普通にインスタントの詰め合わせでも買ってくれればいいのに! と遺憾の嵐でございます。
煎れるのが面倒な上に毎回ゴミが出るこの小分けパックは、うちの家族にとっては忌避すべき対象でいつまでも手つかずのまま戸棚の奥にしまわれていることが常なのです。年末が来ると、「ずいぶん溜まっちゃってるなぁ」と言いながら取り出して、大掃除の休憩時間にみんなでしぶしぶ消費するのが、もはや恒例行事となっています。
そもそも、幼少期からインスタントコーヒーしか飲んだことのなかった私にとって、珈琲とは「お湯をかければきれいに溶けるもの」であり、お湯をかけても豆が残っているレギュラー系珈琲というのは謎の存在で、抽出した後の豆を捨てる行為は出し殻とはいえとても気分の悪いものでした。
たぶん、多かれ少なかれうちの家族はみんなそういう感覚なのでしょう。
因みに、珈琲の出し殻を灰皿に入れて消臭に使うのはとてもいいことだと思います。仄かに珈琲の香りがお部屋に漂って、なんとも言えず優雅な気持ちにもなります。
残念なことに、うちには喫煙者もおりません。
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