第13話 田舎のPerfume
できあがったお豆腐を、近くに住む親戚のうちへと配っていたときのこと。
ありがとね、そういって洗ったボウルを返却したおばちゃんの肩越しに、つけっぱなしのテレビで『Perfume』が踊っていた。当たり前だが、田舎のテレビにだってPerfumeは出てくるのだ。因みに、彼女たちは広島の出身らしい。
牧歌的な景色の中で日々暮らしていると忘れそうになるが、私の住んでいるのと同じ世界にPerfumeが存在しているのだ。考えてみると不思議なことだ。
一度もライブに行ったことは無いし、そこまで熱心だったかというと他のファンから怒られそうな程度ではある。
だが、あまり聞かなくなってしまった今でも彼女たちを応援する気持ちは残っている。テレビで見かけるとそのまま流し見てしまうくらいには好きなままでいる。
しかし、今ではメディアを購入して聞くほどではなくなってしまった。たまに聞きたくなって動画サイトを開くときも、選ぶ曲は『繰り返すこのポリリズム♪』とか『チョコレイト・ディスコ♪』とか歌ってた頃のもののほうが圧倒的に多い。
別に嫌いになったわけではないのだが、今では彼女たちはあたしなんかの応援無くたって立派にやっていけてるんだ、というオールドファンの僻みと云うか寂しさと云うか、そんなものが気持ちに横たわっている気がする。
あたしの好きになる歌い手やグループというのは、大抵が誰も知らないようなマイナーなグループか無名の新人か、そんなものが多い。だから、他人から「まーた変なもの聞きやがって」と言われることが殆どだった。
その非難にも似た蔑みと云うか嘲笑が、むしろあたしの歪んだ愛を燃え滾らせて、更にのめり込んでいく結果になっていたのだろう。
だが、その反動だろうか。好きだった人たちが上手いこと売れ始めて露出が多くなってくると、途端に冷めてしまう自分がいるのだ。あんなに好きだったのに、自分でも驚いてしまうほど気持ちが離れていってしまうことがある。
Perfumeも、そんな気持ちが離れていってしまったユニットのうちの一つなのだろう。彼女たちの場合は、助走期間が思いの外長かったため充分楽しませてもらえたし、冷めるというよりは徐々に卒業に似た気持ちというか、だんだん聞かなくなっていってしまった、というほうがより正しいだろうか。あるいは、買って聞かなくてもテレビや街中で流れていることが増えてしまったというのも一因かもしれない。
そして、よくある一過性の流行りで終わらずアーティストとしての立ち位置を確立してくれたことも安心材料になっていた。これが、流行りで終わりそうだったなら、また歪んだファン魂が刺激されていたかもしれない。
………噺の着地点を見失ってしまったので、強引にPerfumeに引っ掛けて匂いの話をしようと思うw
とある読書感想文にも書いたが、私はとある授産施設に技術指導員として半年弱ほど勤めていたことがあった。
生まれてこの方、地元を離れたことが無くずっと同じ土地で生きてきた。赴任先となった場所は、自宅から直線距離で100kmほど離れている隣の県だった。太平洋側と日本海側という差もあったが、なにより地形と気候の違いに驚かされた。似たような田舎なのにこうも違うものかと思わされることが多かったのだ。
その、地元を離れて初めての一人暮らしをすることになった土地。仕事での赴任地ということもあり、あっという間に時は過ぎ一ヶ月以上も実家に帰っていないということに、あるとき気づいた。
車で走れば三時間少々。わざわざ帰る必要も無いのだが、慣れない土地での休日の過ごし方もいまいち要領を得ず、試しに帰ってみることにした。元々、車の運転は好きだったので、途中一度も停車することもなく一気に地元の近くまで帰ってきた。
そして、家に辿り着く前の最後のコンビニのある場所(笑)で、車を停め休憩を兼ねて外に出た。
その瞬間………なんとも言えない斬新な感動を味わった。
空気の匂いが、
出かける前まで居た土地とは、明らかに違う空気の匂い────
恐らく、はじめてそれと意識して知覚したであろう匂い。でも、間違いなく『懐かしい』匂いなのだ。これが故郷、これが生まれ育ち慣れ親しんだ空気、それが理屈ではなく本能で理解できる匂い。
思わず、鼻を鳴らしてその空気を一杯に吸い込み、何度も何度もその匂いを味わった。自然と笑いがこみ上げてくるような、そんな感動。
あれから、何度も似たような場面を再現してみたのだが、結局あの時のように空気の匂いを知覚できたことは無い。あれは、生涯たった一度きりの体感と感動だったのだろうか。あるいは、今度は海外にでも長期間行ってくればその匂いが感じられるのかもしれない。
死ぬまでに、もう一度くらいは味わってみたい、田舎の香り………。
あぁ、無理やりタイトルを回収してしまったw
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