第9話 装飾品

 私自身、アクセサリーというものとは無縁だ。

 誇張抜きで、自分の身に着けるものなど一つも持っていない。そんな人間がアクセサリーなどを作って売って生業にしてゐるといふのだから、笑わせる。


 中東やアフリカなどで、子どもたちが生活の足しにするためにアクセサリーを売っているのを映像で見たことがある。


 お世辞にも裕福ではない人たちの日々の営みなのだろう。そう言った人たちにとって第一に考えるのは食べ物なのではないかと思ったりもするのだが、意外なことにそういう社会でも装飾品のたぐいはよく売れるという。

 そういえば南米のペルーやボリビアなどでも、市場では野菜や果物に混じって美しい服や装飾品の類が数多く売られている。


 身を飾るという行為、行動は、貧富や文明水準に関係なく重要視されるものなのかもしれない。そういえば、アフリカの乾燥地帯に済む原住民でさえも、粗末な食べ物を食べていたとしても身を飾ることは忘れない。


 合理的に考えれば、服装や身の装飾に気を使うというのは自身の身分や職業、立場などをわかりやすく周囲に提示することで、いわば自己提示でもあり自己防衛でもあるのだろう。 

 人が文化文明を持ったときから、その事実は変わらないということなのだろう。


 そういう意味では、身を飾ることの一切を捨てたあたしは、世界でも稀に見る最貧民、いや……未開の野蛮人なのかもしれないな。


 



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