第69話 どうにも会わないといけないらしい……

 さて、状況を整理しよう。


 俺を封印しているのは、色々あって本来は力ある者を封じるための封印珠だという。で、俺に対する封印が完璧で漏れが無かったのだろう。


 だが、異世界に召喚された事で、封印の表層に閉じ込められていた ? 狐が外れたことで、綻びができた。


そのお陰で箱庭が顕在し、物を作るという本来の能力も開花したと。多分、お菓子のレシピの件で考えると、祖母の力の系統が俺の中にあったんだろう。


 問題はここからだ。俺が本来異世界に召喚された事で受け取るはずの力は、あの世界の聖女の方へ行ったようだ。何故そうなったのかは判らない。


それと共に、俺の表面に閉じ込められていた狐は、アレに憑いたのだろうか。


 もしかして、俺のあっちの世界で受け取るはずの能力が狐に付いて、その狐がアレに移ったって事 ?


 そんな事、あるのか ? もしかして、あの頭痛というか具合が悪くなったのって、狐が剥がれようとしていた為に起きていたとか。狐経由で繋がっていたから、当初のアレに対して箱庭は見分けが付かなかったのか。


 じゃあ、アレ呼びになったアレは……。駄目だ。何があったとしてもこの感情をナントカできるとは全く思わない。


「それで、こやつの封印はどうすれば解けるのだ」

 俺の状況を搔い摘まんで説明した後、酒吞がそう問うた。


「ふむ。狐とともにどうにも封印の珠の一部が欠けておるようだ。欠片が揃えばこちらの方で封印の珠を取り除けよう。さすればお主の封印を解くことはできるだろう。狐も放っておく訳にもいかぬので、捕まえて再封印せねばならぬしな」


 俺の話を聞きながら、ずっと考えている様子だった童さんはそう答えた。それから俺の方をじっと見て、


「その狐が憑いたと考えられる者をこの村に連れてこよ。こちらで状態を判断しよう。本当に狐が憑いているならば、そこに欠片もあるだろう。それを以て対処しよう」



 電話をかける。


「ああ、御門か。うん、そうだ、アレに会う機会を手配してくれ。

ああ、神来も来ても良いが、くれぐれも何も壊すなと言い含めておいてくれよ。説明しておいてくれ」

『神来に俺も責められそうだなぁ。神来を宥めるために準備しておいてくれ』

「判ったよ。事が済んだらな」


 次の休みに、御門達がこの村に来ることになった。御門には状況について説明をした。酒呑を介して御門の所の魔の物と連絡を取ってもらったのだ。


 本当ならば、アレに俺の住んでいる場所を知られたくないので違う場所にしたかったのだが、今回は仕方が無い。あの童さんがいない事には手の打ちようが無いからだ。


 待ち合わせ場所は、中央の神社。俺の家は絶対に嫌だと主張した結果、そうなった。箱庭に童さんにいてもらいどこか別の場所に出張って、という話も一旦は考えたのだが、箱庭に断固拒否された。『女狐』に自分の中を跋扈されたのが、余程お気に召さなかったようだ。


 アレの主導権を握っているのが狐ならば、この村には入りたがらないかもしれない。もし、そうならば神来に引き摺って連れてきて貰えばいい。その方が気が楽かもしれない。


だって、それならば俺に執着する意味が判る。いや、理解したいとは思わないが、理由としては判断ができる。俺の血にしろ、自分を封印していた物に対してにしろ、狐としては興味をもつのは判る。


まあ、仮に主導権は狐に無かったとしても、何らかの影響は受けているだろうという話だ。だから、俺へのあの態度は多分、そういう事なのだと、理解はしたくないが、理屈としては判断できる。俺も狐がいる時には影響を受けてたって事だろうか。


 何にせよ、アレに会う、その一点でげんなりしている。会わないですむ方法がないかとも考え御門にアレの状況を聞いてみたのだが。


「お前を餌にしなければ聖女は動かない」

と御門に言われた。現在、彼女はダムの件だけでなく、様々な浄化薬やプリンの解析などをしているそうだ。


特にプリンの効能である呪詛落としについては、他の物にその効能を付けたいと考えていて、なんとか製法を再現しようとしているようだ。村で製法を秘匿している訳では無い。


美貴代さん達も頑張っているが、プリンの作り方は中々複雑らしく俺以外が再現するのは難しいままだ。


もし製造方法を再現してもらえるならば、それでも構わないのだが、別にプリンのままでも良いじゃないかと御門に言ったら、


「お前、状況によってはプリンを携帯して持って行くっていうのは、難しいだろう。例えば戦闘時に口にするのは難しい。それに身体が弱っている時や憑かれている状態で食べるとか。だから、水のようにして外部から掛けても効能が得られるようにしたいんだそうだ」


「え、流動食みたいにパックにして食べればいいじゃん。それに塗りつけたらもしかしたら効くかも。やったことないけど」


そう言い返したら、御門はえらい剣幕で怒った。

「あんなに美味しいのに、流動食として食べるなんて、塗りつけるなんて発想があるか ! あのプリンへの冒涜だ。作り手に謝れ ! 」


 いや、作り手の俺が言ってるなら良いじゃないかと思ったが口にはしなかった。

 

 話が逸れた。


 そんな話をしたのでプリンで釣れないかとも思ったが、プリンの作り手が俺だと教えるつもりがないのでやめた。それから、前以て聞いておいたのだがアレはプリンを食べてはいないという。


万が一、食べていたら狐が落ちている可能性も考えられなくはなかったので、まあ、一安心ではあった。


 そして、今、中央の神社にて俺は彼等が到着するのを待っている。嫌な事は早々に終わらせたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る