第68話

 すみません。今回は短いです。


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 わらしは、酒呑に促されてその時の事を話し始めた。


 今から20年程前の事。この社に見知らぬ男の子が入ってきた。

 その子は神社に入って、あっちこっちを見て回っていた。一体何が面白いのだろうか、童は少し興味を引かれてその子のことを観察していたのだそうだ。


「近づくと良い匂いがしてな。どうもここに来る前に草の葉で指を切ったようだったのだ」

 色々と見て、触って歩いていたのだろう。ほんの小さな切り傷だったのだが血が滲んでいたようだ。


 童は真後ろに立っていて、子供の声を掛けた。その声に驚いた子供は、ざっと裏手に逃げようとし、転んで膝頭を擦りむいた。

逃げようとして裏の祠にぶつかり、中にあった珠が転がり落ちた。


 その言葉に酒吞の眉が上がる。

「祠は封じてなかったのか」

童はその問いかけに首を横に振る。

「いや、ちゃんと封じられてはいた。だが-」


 酒呑と童にジロリと見られてしまった。言葉はなく、酒呑が一つ息をはく。

「こやつの血か……」

「判らんが、多分な」

二人だけで納得しないで欲しい。

「俺は全く話が見えないんだが」

二人に突っ込んで聞いてみる。


「ああ。お前には、ここに狐を封印した者の血が入っておったんだろうという事よ。それで、お前の血で封印が緩んだのだと考えられるんだ」

やれやれ、というような風に酒呑が答えてくれた。



 童は話を続けた。


 封印が綻び、転がり落ちた珠からは半身のみだが狐が現れた。その狐はその男の子、要するに俺を喰らおうとしたという。その血肉を喰らえば封印を完全に破ることが可能になるだろうからと。

 童が狐を抑えようとする前に、パニックになった男の子の力が暴走したとおもうと狐をズタボロにした。だが、力の奔流はそれに留まらず拡がろうとしていたのを察知し、童は封印の珠を使ってその男の子の力を封じだ。瀕死の狐はその封印に引き摺られて、封印の表層に残ったのだという。


「狐は瀕死状態。まあ死ぬ事はなかろうが、復活するのも難しかろう」

 一緒に再封印されたというよりも半端な封印で珠に繋がれたために回復もままならない状態だろうと考えられるのだと言う。生殺しのような感じなのだろうか、その狐に殺されかけたと聞いても記憶がないので、少々同情してしまう。


「まあ、それの反動で儂もすぐには対応できなかった。しばらくは社にて眠っていたのだが。久しぶりに、封印の珠と小僧の気配を感じたのでな、出てきた」

 童が深い溜息をついた。

「俺にかかっている封印て、その封印の珠のせいなのか ? 」

「おう、そうだ」

 俺も溜息が出た。なんてこった。


「それで、小僧、お主に狐とそれを封印していた珠を返して貰いたいのだが、狐はどこだ ? あれがないので、封印が少し欠けておる。どこに落としてきたのだ ? あれも共にないと封印の珠を返して貰うことはできぬ」


「ああ、女狐 !」

 突如、酒呑が声を上げたので、驚いてそちらをみる。

「迅、箱庭が言ってたではないか、『女狐』と」

「ええ、アレを女狐って言ったんじゃなくて、今の話の狐を女狐って言ってたのか ?」

 もしかして、俺のあっちの世界で受け取るはずの能力が狐に付いて、その狐がアレに移ったって事 ? そんな事、あるのか ? 確かにあっちの世界での能力は俺からアレに移ったみたいだけど、一緒に狐まで移動したとか、そんな話ってあるんだろうか。だが、それならば。


「封印を解くためにアレに会え、か……」

 御門の影の人の言葉を思い出す。

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