第67話


「なぁ、祖父ちゃん」

 箱庭から戻ってきて、祖父ちゃんに声をかけて南の神社について何か知らないかを聞いてみた。


「なんじゃい藪から棒に」

 箱庭に聞いた話、正確には酒呑が通訳してくれた話なのだが、を祖父ちゃんに説明する。


「おう、そう言えば、お前幼稚園の頃か、南の神社で昼寝していた事があったわ」

「なんだ、それは」


「そうそう、思い出した。夏に家族で遊びに来た時に、お前がどっかに一人で遊びに行ってしまってな。皆で大慌てで探したんだ。あの時は肝を冷やしたぞ。一応、お守りは持たせていたんだがな」


 ちょっと子供が一人ででかけたぐらいでと一瞬思ったが、ここの場所を考えれば、確かに祖父母は肝が冷えただろう。


「それで、南の神社のお社でな、昼寝をしていたのを見つけたんだ。起こしたら寝ぼけ眼で『お腹すいた』なんて言ってな。あの頃は、お前も可愛かったなぁ。今ではこんなにデカくなって、可愛げもすっかりなくなって。すっかり忘れていた」


 祖父ちゃんが残念なものを見る目をするが、子供は成長するものだ。二十代半ばの男が可愛かったら、それはそれで問題だろう。まあ、いい。


「南の神社に、何かを封印したっていう祠があったという話はあるのか」

「封印ねぇ。力ある者を捉えた時には結界強化のための各神社で封じているっていう言い伝えを聞いたことはあるがな。それの事か。それならば、神社の裏手に小さな祠があって、その中に珠として封じて祀ってあるはずだ」

 なんだそれはというような俺の表情を見て、祖父は苦笑いをする。


「妖物といってもピンからキリまである。魔の物といっても村と敵対するものもある。そういう奴を確保したら使うんだそうだ。だが、俺が知っている限りはそういう話は聞かないな」


「じゃあ、昔に封印されたものってことか」

 まあ、取りあえず南の神社に行ってみるか。



 ということで、翌日。南の神社に酒呑と一緒にやって来た。この村にある神社は皆同じような感じだなと、鳥居をくぐって奥の社殿前まできた。お賽銭を上げて柏手を打って挨拶をして。


「箱庭が言っていた祠ってどの辺なんだろうな。まあ、裏手に行ってみようか」

酒呑を促し、二人して本殿の後ろに回ってみると、小さな祠はすぐに見つかった。近寄れるし扉も開けられたが、中には何も入っていなかった。


「何もないね」

ボソッと口にして、表の本殿の前に戻った。

「う〜ん。どうしよう。誰かこの辺の集落の人にでも聞いてみようか」

俺が後ろの方にいた酒呑の方を向いてそう言うと、呆れたような顔をされた。


「封印をかけたのは、この神社の眷属とかだろう。その者に聞けば良いではないか」

「お前、その者って気軽に言うけどさ、どうやって会うんだ」


 俺が酒呑の方を向いて、言いつのると酒呑は社殿の方を指さす。振り向くと社殿の階段の所にいつの間にか小さな女の子がちょこんと座っている。紅色も鮮やかな着物を着たおかっぱ頭の女の子がにこにこしながらこちらを見ている。


 さっきまで、人の気配はなかったと思うのだが。驚いて固まっていた俺ではなく、その子は酒呑の方を見ている。

「おうおう、酒呑殿。久方ぶりだのう」


「おう、童殿。随分と長い間姿を見せなんだが、どこぞに出掛けておったのか」

 童殿といわれた少女はくふっと笑みを見せる。


「色々とあってな。つい最近まで寝ておった」

「そうか。で、お主がわざわざそちらからココに来たのは何か用があるのか」


「おう。そこにいる小僧に用事じゃ。我の寝る原因になった小僧に、返してもらおうと思うたのだ」

「返すって、何を ? 俺、あなたの会ったのは初めてだと思うが」


「覚えておらぬか。お主は、せっかく封じ込めておいた狐を逃がしそうになった。それで取り憑かれそうになったので、我がちょいとお主にあれを閉じ込めた。それを返して貰おうかとおもったのだが……」


 彼女が小首を傾げて、じっと俺を見ている。

「お主に閉じ込めた狐、どこにやった ? 」


 彼女が何を言っているのか、全く判らない。戸惑っている俺の後ろに近づいてきた酒呑は、俺の肩にポンっと手を置く。


「童殿。申し訳ないがこやつは当時の事を全く覚えておらん。少し、教えてもらえぬか。さすれば狐の行方も判るかもしれん」


 俺は、酒呑が何を企んでいるのか訝しんだ。なんかいつもの酒呑とは違ってこの少女に対して丁寧だ。話の流れから言って彼女がこの神社の眷属なのだろうとは思うのだが、酒呑が丁寧な対応をするせいで、童と呼ばれた少女は上機嫌になったようでその舌は滑らかになったようだ。



 随分と昔、この神社の奥にある祠に力の強い狐を封じたのだという。その番人を請け負ったのが童だったのだという。


「何、こちらの者に少々世話になったのでな。100年という期限付きで請け負った」

 その狐は、悪さをして捕まったという。それの力が強かったので、南の結界を司るここに封印して、その力を結界に利用していたらしいのだ。


 で、あの日。結界石の中に閉じ込められていたキツネが解き放たれてしまった。

「何があったんだ」

「そこな小僧が、祠の中にあった封印石を取り出したのよ。そやつの血が封印石にかかって封印が破れたのだ」


 全く記憶にございません。

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