第3章

第59話 ただいま


 御門が戻ってきたのは、3ヶ月を少し過ぎた頃だった。


「じ~ん ! ただいま。カレーが食べたい ! 」

「カレーは予約制です」

 何故うちに帰ってきたのかは、よく分からないが。玄関開けた第一声がそれかよ、と突っ込みをいれたい。

そして、なぜウチに帰ってくるんだ。お前の実家はここではないだろう。


「お前一人か ? 」

そう問うとニカッと嬉しそうに笑って御門が親指を立てる。

「バッチリだ。あと一仕事あるけど、問題は無い」

と言うことで、こいつが今後ウチに来る時は13人前の飯を用意しておけということか、と聞いてみるとそうでもないらしい。


「私の影にいれば、一緒に食べることになるので量がそれほどなければ対応できるよ」

にこやかに言う台詞ではないと思う。なんだかなと思いつつ、昼はウチで食べていくという話になった。



 昼は、いつの間にか酒呑も増えていたので、箱庭の家で皆で食べることに。献立は味噌汁とサラダ、ステーキとタイカレーになった。酒呑は基本肉があれば文句はないので、お手軽にステーキとか串焼き、唐揚げなどになる。時々、ハンバーグだとかすき焼きだとかのリクエストが入る事もあるが。

あのカレーは手間暇が掛かるので、今回はタイカレーにした。タイカレーならばペーストを前以て購入してあるので、すぐに出来る。


 祖父ちゃんも酒呑も、前にタイカレーを作ったらそれはそれで喜んでくれたので、偶に作るために町に出たときには、タイカレーのペーストとかココナッツミルクの缶詰、フクロタケの缶詰、魚醤、ココナッツシュガーとか買い溜めしているのだ。コブミカンの葉やカーは、この頃売っているお店が増えたしネットでも買える。


タケノコは、山で採れたのを茹でて真空パックで保存してある。一年保つって言われてるけど、一年も経たずに食べちゃうけどな。

肉は山で酒呑が採ってきたトリをしめたのを使ってる。なんていう名前の鳥かは知らない。いや、うん、『コリ』で処理してもらった奴だから。あとは畑でとってきたナスとピーマンで今日はグリーンカレーに。


 何かここに来て、ずいぶん調味料とか香辛料とか色々と増えて言っている気がする。どこかに出掛けたときは、色々とお店を覗いて探している。ネットでも買えるけど、現物を見て買いたい主義なんだよ。現物が見当たらなければ、ネットで探すけどさ。なんか俺、食べ物の事に追われていないか、気のせいか、今更か。


「昼間だから、酒はださんからな」

そう言う俺に酒呑や御門の魔の物達は、ちょっと残念そうだったが文句はでなかった。祖父ちゃんも昼間からはさすがに飲みたいとは言わない。午後から出掛ける事になっているからかもしれない。

その代わりにはならないが、食後のお茶請けに庭木の柿を剥いて出した。


「それで、お前はこれからどうするんだ ? 」

「実家に帰って、やることがある。それが終わったら神来の所へ戻るよ。休みはその分もちゃんともらっているし」

満足そうな顔で柿を食べながら御門が答える。そう言えば、あと一仕事と言っていたがそれは実家関連なのだろうか。

「そうか。神来の周辺はきっとお前のことを首を長くしてまっているぞ」

俺は笑って、関連していそうな新聞記事をまとめたスクラップブックを御門に渡す。


 御門はそれをパラパラとめくりながら、プッと吹き出してかなり受けている。きっと、どういう事態が起きたのか、俺よりもよく判るのだろう。

「私がいなくても、なんとかなるって言ってたのにな」

そう言いながらも、クックッと笑う。多分、御門が地域ネットワークに残る様に言ったのは神来とアレが中心で、他の連中は辞めても困らないと思っていたのではなかろうか。そう言う事はよくある事だ。

「いや、よくこれらが神来絡みだってわかったね。さすが迅だ」

しばらくお腹を抱えて笑っていたが、笑いすぎだろう。


 良かったな神来、もうすぐ御門が戻るぞ。そんな事を考えながらいると、魔の物の一人が、こちらをじっと見ているのに気が付いた。穏やかな感じの男性だ。

「どうかしましたか」

尋ねてみると、静かに微笑むと告げられた。

「ご馳走になった。酒呑の主よ。貴殿がもしその封印を解きたいと思うならば、最も忌む者に会う事だ」


 それを聞いた御門は、振り返ってかの男性を見て頷くと俺の方に向いた。

「迅、今の言葉は託宣だ。もし、封印を解きたいならば連絡をくれないか。手配しよう」

ぐっと一瞬詰まったが、封印されたままの今でも何も問題は起きていない。というか、言われるまで忘れていた。

「いや、お前。アレに会うのが必要ならば、俺はこのままでいい。むしろ何も問題はないんだから」

そう俺が答えると、御門はちょっと残念そうだった。多分、彼にしてみれば神来と俺を会わせたかったのだろう。

そんなやり取りを、祖父ちゃんも酒呑も何も口出ししてこなかった。


 それにしても御門が手に入れた魔の物達は一体どういう代物なのだろうか。その託宣を告げられたせいか、少し怖いものを感じた。御門がこれからするという「一仕事」も、どのようなものなのか。だが、「手伝ってくれ」と言われない以上、関わるつもりは毛頭無い。


 そう、今は彼等とは道が分かれているのだから。それをこちらから勝手に首を突っ込んで、知ってもお互いに意味はないと思う。俺はこの村でのんびり暮らしていくのだ。のんびり、というのにいささか疑問符が付きそうな感じはあるが。


 結局、それ以降はその話はなかった。食事が終わって魔の物は御門の影に戻っていったためだ。

「御門君は、これから実家に帰るなら道の駅からバスに乗って駅へでるんだろう。今からでも帰れるだろうが、向こうに着くのは随分遅くになる。良かったら泊まっていけば良い。それならば明日の朝、儂が道の駅まで送っていって行くよ」


 そう言って、祖父ちゃんは出掛けていった。祖父ちゃんは相変わらず御門に甘い。いや、酒飲み仲間が欲しいだけか。まあ、道の駅から幾つかのバスが出ているし、東京行きの高速バスもあるけど、あまり本数はないしな。


ということで、御門の宿泊が決まりカレーはないけれど、唐揚げとトンカツを山ほど揚げることになった。リクエストが入りましたので。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る