第47話 来ちゃった
年が明けた。31日からお休みを貰って俺は家でゴロゴロしている。
1月も4日になるとあちらこちらで仕事が始まりだす。まあ、俺の『コリ』での仕事始めは、6日からになっているのでゴロゴロしている。年末、沢山作りました、働きました。お雑煮が美味しいです。お、呼び鈴が。
「来ちゃった♡」
玄関を閉めた。
「この寒空に外にいろだなんて。迅君、ひどいわ」
外では相変わらずの調子で、御門が騒ぐ。
「迅、誰か来たのか」
祖父が奥から顔を出してきた。
「ノリがアキラと殆ど変わらない」
うんざりしてそう言った俺は、御門と祖父に茶を入れながらぼやく。
巫山戯てニヤニヤしながら御門が言う。
「いやー、聖女様達には私の人格の話ってしていないもん。だからずっとアキラバージョンだもん」
「もんじゃないだろう、もんじゃ。少なくともアキラのフリはここでは止めろ。お前アキラの行動に恥ずかしがってなかったか」
お茶菓子はプリン、それからなんちゃってスフォリアテッラだ。かなり手抜きで作ってみたが中々いける。そうは言っても納品するつもりは無い。無いったら無い。だから、梛君にも研究会にも出さん。
この頃、気になった料理は調べてなんとなく作ってしまうようになっている気がする、いかん。祖父ちゃんも酒呑も面白いモノが食べられるからと喜んでいるけどさ。
「へえー、面白いお菓子だね ? 」
パリパリしているのが美味しいと気に入ったらしい。
「そう、面白いだろ。この前読んだ小説ん中に登場したお菓子で、ネットで作り方もすぐに判った。で、ちょっと作ってみたんだ」
「おお、迅が作ったのか。美味しいはずだ。神来もよく零しているよ。お前の作った料理がまた食べたいってな。あいつは、料理目当てでお前を探している節もある」
思い出し笑いをしながら、御門が話す。
「なんだよそりゃ」
俺は少し不貞腐れたように言いながら、パリパリ食べる。神来は本当に豪快に嬉しそうに、美味しそうに俺の飯を食っていた。「これが俺の活力だ」なんて言いながら。少し懐かしくなったが、それだけだ。
「じゃあ、お土産に持って帰ってもいいかな」
目を輝かせて御門がねだってきた。こういう部分はさすがアキラを含有しているだけのことはある。
「駄目だ」
一切妥協する気はない。これを持って帰って神来が食べれば、奴が気が付かないわけがない。そうなればここに来たいと言い出して、アレが来ることにもなるじゃないか、御免被る !
「エーッ、私一人で食べるから」
「駄目だ。食うならここで食っていけ」
とりつく島があってたまるか。
祖父ちゃんは俺たちを笑ってみているだけで、どちらの味方もしない。
「まあ、お遊びは此処までで。ちゃんと御礼を言わないと」
ピタッと御門の態度が改まった。
「人格が無事に一つに戻ったので、家族には大変喜ばれた。だから、問題なく実家に入れるようになったよ。今年の年末年始は3日間だけだけど、家族とともに実家で過ごせたよ。ありがとう。本当に君のお陰だ」
とっても嬉しそうに御門が言って頭を下げる。そんな彼の様子に実家に入れない状態って、どんななんだとは突っ込めなかった。御門の家はどうも色々とありそうだし、藪から蛇は出したくない。
「で、これは実家から。是非貰ってくれ」
御門はもってきた四角い紫色の風呂敷に包まれた長方形の物を差し出す。
「これは、なんだ ? 」
持ってみるとそれほど重い物では無い。
「さあ ? 僕からはなんとも。父が用意した。君に渡してくれと。きっと役に立つからと言っていた」
「そうか。では有り難く戴く。よろしくお伝え下さい」
ポカンとする俺をよそに、隣にいた祖父が恭しくその風呂敷包みを俺の手中から受け取った。
「はい。お役立て下さい」
御門はにっこりと笑う。祖父は貰った風呂敷包みを奥へと持って行った。
「で、何かあったんのか」
俺が問うと、御門は顔を引き締めたまま続ける。
「君には経過報告を直接きちんとした方が良いと思ってね」
ダムの水を浄化するための薬は、逸郎さん経由の薬草で無事に完成したという。俺が言った実験も行ない、きちんと水中での検証をした上で実行されるという。それで水が浄化できる目処が立ち、妖物化した人達も軽い症状の人達は回復しているという。
だが、当たり前だが薬は一時しのぎにしか過ぎない。
大元の洞窟が水没している限り、そこから瘴気は常に供給されているのだから。
今後とも薬草の供給を願いたいとコリの方へ連絡をしてあるそうだ。多分、この後で逸郎さんの方へ連絡があるだろうとも。
根本的な対策は現在色々と検討中ではあるものの、そうそういいアイデアは浮かばない。
「瘴気の排出を止められる方法があればいいのだが」
洞窟は水の中だ。空気と違って水は瘴気が溶け込みやすく拡がりやすいようだ。瘴気を含んだ水が洞窟から徐々に広がっていき、その水が人々の生活するための水として利用されていく。
「相手が水だというのが
何もその水を生活用水としている人達だけの問題ではすまない」
「あの薬を供給できる間に、何か方策を練らなければならない。一番簡単なのはダムを取り壊す事だがな」
「出来そうな奴がいるから、恐いな」
「そうなんだよ。でもダムなんて壊れたら下流の被害がとんでもないことになる」
「でも、あいつならそれもなんとかしそうじゃねえ」
「だから、困るんだよ」
はぁと御門は小さく溜息をついた。
「それから、薬草についてなのだが昔の勇者がかつて向こうの世界から持ってきて、それが連綿と受け継がれたものだと納得させた。
駒場家で代々続いていた物を、今代の逸郎氏がそれの量産化に成功したと。それもあって、新薬を発表したともね。
だから『迅』はここには居なかったということになっている。今のところ聖女がここへ特攻してくることは無いと思う。今のところは」
「なんだよ、今のところはって。繰り返すのはなんだ」
嫌な部分の繰り返しに俺は嫌な予感がして、御門に迫る。
「だって、聖女は時々だけど突飛なことをするんだ。私は彼女の全てを読めるわけでは無いから。それに、彼女がするとなったら、神来は賛同するから、私には止められないよ。ま、その時は連絡はするから姿をくらませてくれ」
両手を頭ぐらいまで軽く上げて、降参のポーズをとる。
「ダムの件が何とかなれば、多分、ここには来る口実はなくなると思うので、何か良い案があったら連絡してくれ」
そう加えた。
「ま、当分は大丈夫だと思う。彼女、今、ダムの件で忙しいから」
今度は俺が溜息をつく番だった。
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