第46話
年末。実は俺はとても忙しい。何がって仕事が。葉山お菓子工房は年末年始のお土産、お年賀に大活躍です。
何かよく分からんが、村の人が村外に居る子供や孫に俺のお菓子を送るのだとか。こちらの方は、注文が入った効果入りの物も多い。だから、浄化作用のあるクッキーとか、体力回復だとか怪我の回復補助とかがあるマドレーヌ系統のお菓子が人気です。
帰省帰りの人々には、プリンが人気だそうで今年は注文が多い。まあ、ダムの件が皆心配なんだろうと思う。俺は注文品に集中することになって、道の駅に並ぶものについては、全部、更紗さん達に任せている。こう言う時は本当に心強い。
心強いといえば、研究会の成果が実を結んだ。ジャムに関しては、作り手によっては売り物になる物が出てきたのだ。大変喜ばしいことだ。それで、ジャムの詰め合わせなんていうのも注文を受けられるようになった。
だがこの年末が忙しくなった原因、一番の失敗は、クリスマス用に小さめのケーキを出来心で作った事だ。これが受けてしまいました。受けて欲しくなかったです。マジパンのサンタクロースやトナカイ、もみの木が人気です。止めてください。
いや、如意樹がすくすくと成長して嬉しくてやらかした気がしないでもない。それで調子に乗って作った俺が一番悪いのだけれど。
世の中、今はネットで作り方を調べると色々と出てくるだろ。クリスマスが近かったんで自分用に作っちゃったんだよ、デコレーションされたケーキを。
やっぱり時期的に上にサンタとか載せたくなるじゃん。それを梛君に見つかってしまったのが運の尽き……。
期間数量限定販売で、20日から24日まで作ったのだけれど、完売しました。ごめんなさい、もうしません。と思ったけれど。
「お年賀用のケーキ、作りましょう」
とか梛君が言い出す始末で、これはなんとか諦めて貰いました。でもおひな様のケーキとか狙っていそうで、今から戦々恐々としています。
「マジパンでひな壇飾りなんて可愛いと思いませんか」
そんなことを更紗さんと話をしていたのを耳にしたから。恐ろしいことを言わんで欲しい。いや、皆さんで作るのでしたらお止めしません。
正月用の餅は、自分達でつく。酒呑は餅つきが好きなのか、彼が手伝ってくれたおかげで随分とはかどる。自分も沢山食べるぞと言っていたので、その分気合いが入っているのだろう。
酒吞も正月は酒を飲みに来ると云うので、おせちだなんだと用意することにした。そうは言ってもローストビーフとかハンバーグ、トンカツだとか角煮だとかの肉類多めのリクエストだ。
ハンバーグは御門が来たときに作り、その時にパテを多めに作ったので残ったのを後から酒呑に食わせたところ、チーズ入りがいたく気に入った様だ。噛み応えがないのがちょっと残念そうではある。だからだろうか、「ハンバーグは飲み物」だそうだ。
ついた餅の一部は例年のように、実家にも送る。これもいつものことだが、両親も兄も田舎には来ない。母達にはそう言う暗示が掛かっているので仕方が無い。俺たちが小さい時には年末年始も来ていたのだが、二人の子供に能力がないと判った時点で、それも終わった。それが、母達のためだからと。
家には忙しくて帰れないとも伝えてある。母はこちらでの就職が決まって、ちょっとホッとしているようだけど、今度は彼女はいるのかとうるさくなった。余計なお世話だ。
さて、如意樹については酒呑が経過を写真を撮ってきてくれている。初雪が降った時に、酒呑から言い出した事がある。
「雪の中、山への行軍はできぬわけではないだろうが、様子をみるだけじゃろう。それならば儂が写真とやらを撮ってくるだけでも良かろう」
俺も忙しいので、頼むことにした。
酒呑は裏山の洞窟にいるだけでなく、
先日、連絡を取れるようにと酒呑にスマホを渡し、使い方を教えたら、えらく気に入っていたのだ。
連絡ツールとしては全く活動していない。使い方のあれこれとして写真や動画なども撮れると教えたら、何が気に入ったのか色々な場所で写真を撮りまくっている。しかもマメにラインで送ってくる。
ノリノリの酒呑に、ちょっと祖父ちゃん共々引き気味だ。ヘタすると俺よりも使いこなしていないか。だから、自分が写真を撮ってきて俺達にお披露目できる機会を作ろうという気なのだろう
スマホをテレビに接続させて色々と見せるという事をこの前覚えて、酒呑の中ではそれがマイブームになっているのだ。それをするようになったら、ラインはピタリとやめた。
因みに、如意樹の写真だけでなく、色々な場所の写真を一緒に見せてくれる。
写真の中の如意樹は積雪の中、美しい薄紅色の花を付けていた。咲き始めたものや、まだ蕾のものもある。
「そのうち、実を付けるだろうて」
とは酒呑談だ。如意樹はどうやら自家受粉するようだ。言われてみれば箱庭にある如意樹も一本だが、実が成ったものな。
「実は回収しといた方がいいのかな」
箱庭の如意樹にはまだ次の実は成っていない。洞窟の如意樹の方が実をつけるのは早いかもしれない。
そういえば、如意樹の種子散布ってどうなっているのだろうか。酒呑に尋ねてみた。
「知らん。だが、瘴気の多い場所にいつの間にか如意樹が生えたという話を聞いたことがある。近くに如意樹がないにも関わらず、な。じゃから、どうにかして飛ばしておるのではないか」
別に酒呑は、何でも知っている訳ではないのだから仕方が無い。そうだよな、生き物の生態なんてずっと観察でもしていなけりゃ判らないよな。
でも、酒呑の話だと如意樹って随分前に絶滅したみたいだから、種子散布者がいたとしても上手く見つけてもらえるかは謎だ。
「じゃあ、時期を見て実が成ったら、半分ぐらいは採取しておくか。こちらが希望する場所にも色々蒔いてみたいものな」
祖父ちゃんがそう言い、実が熟したら如意樹の元に行こうという話がまとまった。
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