第43話 再び、狩りですか


 サツマイモの試し掘りや何やと畑での作業を終えて、昼飯だとて家に戻る。家の縁側でゴロリと酒吞が昼寝をしている。そんな酒吞に丁度祖父ちゃんが毛布を掛けているところだった。


「おう、戻ったか迅。すまんな、ちょっと道の駅で菰野と会ってな。次の狩りの話になったんだ」


祖父ちゃんは先程戻ったばかりなのだという。

祖父ちゃんが戻ってきた時には、酒吞はすでに昼寝していたらしい。風邪を引くような玉でもないが、毛布を持ってきたのだそうだ。


 昼の献立は酒呑が食べていたものとさして変わらない。追加で取ってきた青梗菜を冷蔵庫にあった厚揚げと一緒に煮浸しにしたのを追加して、ステーキがないぐらいだ。


二人が昼飯を食べていると、のそっと酒呑が起きてきて一緒に食べる事に。


今日は、いや今日も良く食べる。ちょっと席を外して、俺は肉を追加で焼くことになった。


食後にお茶を飲みながら、先程の話の続きとなった。

「狩りに行くのか」

酒吞が祖父ちゃんに聞く。


「おう。なんでも南の方にこの辺じゃ珍しいモンが出現したとか。どうも新しい洞窟ができたんじゃないかっていう話でな」


お茶で口を潤して祖父ちゃんが苦く言う。

この頃、どうも洞窟が彼方此方で増えているという噂だ。

ここら辺も酒吞が洞窟を見つけ、潰したばかりだ。


「ほう、それは面白そうだ。目新しいのでも出たか」

嬉しそうに酒呑は宣う。

「お前は。いやお前はそうだよな」


呆れたように祖父ちゃんが返すが、酒呑は手ぐすね引いてという表現が合っているかのようにニヤニヤしている。


「いやー、何が出るのか楽しみだ」

何も言われていないが、酒呑はもう祖父らの狩りに一緒に行くつもりのようだ。


「おう、迅も行くのだろう」

当たり前のように声を掛けてきた。いつもならば、俺はそんな酒呑をのらりくらりと躱すのだが、今回は違う。


「祖父ちゃん、その新しい洞窟っていう所まで行くのか」


「まだ場所ははっきりとしてないが、探すことにはなっている。今回見つかるとは限らんがな」

祖父ちゃんはそう答えたのだが。


「大丈夫だ。洞窟なんて儂が見つけてやるさ。なんだったら中に潜ってみるか」


俺の言葉の中に前向きな雰囲気があるのを聞き逃さなかったのだろう。酒呑が身を乗り出してくる。癪になるぐらい嬉しそうだ。


「そうか。じゃあ、俺も一緒に行って良いか。試したいことがあるんだ。あ、洞窟の中に入るのは却下で」


俺の「試したい事」という言葉に、祖父ちゃんと酒呑は顔を見合わせた。洞窟に入らないという俺の言葉に酒呑はちょっと残念そうだったが。



さて、狩りの日。

待ち合わせた場所は南地区の氏神様の前だ。そう言えば、この場所に来たのは初めてかもしれない。


そういえば、子供の頃は、祖父母の家に夏休みなどで遊びに来ると、近所の子供達と一緒になって彼方此方に走り回って遊んだりもしていて、あっちこっちに行っていた。


あれ、そういえば今は仕事で家を離れるにしても、積極的に出歩いていないな。


 祖父ちゃんの家は村の北側、北のはずれと行っても良い場所だ。


村の北東には山が連なり、その一角に酒呑のいた洞窟がある。道の駅は村の東側に位置している。隣の町との境界にあたる場所でもある。それから村の集会所は村の中央付近だ。


だいたいこの三点が行動範囲だもんな。う~ん、俺こんなに行動範囲小さかったんだな。


でも、なんとなくこの氏神様に親しみを感じるんだよな。それがなんだかよく分からないかったが。まあ、氏神様だからな。


「お久しぶりです」

菰野さんが声を掛けてきた。この頃、納品係も含めて梛君に替わったからあまり菰野さんとは会う機会がめっきり減っていた。そうだな、この前村の集会で会ったぐらいかな。

今回の狩りの面子は、前回と同じメンバーのようだ。


彼等の中には、どうにも俺=オハギという法則が勝手に成り立っているのか、何も言ってないのに皆は俺の顔を見て、嬉しそうにしている。きっと俺の顔がオハギに見えているに違いない。


(祖父ちゃんに言われたから、弁当はオハギだけどさぁ)

何故そんなに嬉しそうにしているのか、いや、皆様奥様方がオハギを作られているんじゃないんですかねぇ。奥さんのオハギの方が美味しくないのか。


俺には理解できそうもない。あ、菰野さんは独身か。

今回も酒呑の分も含めて自分の分は肉巻きおにぎりを持ってきたけどさ。


前回、2人分というか酒吞が食い尽くしたから、皆に分けることはできなかった。あの時の様子だと多分、皆も食べたがるだろう、と今回は余分に作ってきている。


 今日は、試したいことがあったから来たのだ。

 狩りには相変わらず参加しないで後ろを付いていくだけと前以て断っておく。


まあ、俺は自分の戦闘能力はないと自覚があるから、余計な手出しをするつもりはない。いざとなれば結界が張れるのでなんとでもなるだろうし。


 どうにも皆さんも俺に同じように狩りに参加することを強制する気はないようだ。やはり、オハギ、オハギなのか。まあ、いいけど。でも。


「いや、迅君の結界いいよね。お弁当とか警戒せずに安心して食べられるもの」


なんて言われたのから、少しは役に立っているのかもしれない。いや、俺の結界が大丈夫そうなのを確認したので、今回は酒呑が狩りやる気満々だから、まあ、そういうことかも。

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