第40話
「先程は失礼しました」
そう言って、逸郎さんに深々と頭を下げた。
「お前さん、内に来るまで道の駅から歩いたって言ってたから、なにか良くない物にでも
「仕方が無いさ。でも、気をつけた方がいい」
「はい。気をつけます」
ちょっと御門が小さくなった気がする。
村の人は移動に車が中心で、田舎ってそういうものだと思っていた。だけどね、それだけでもないんだと。
稀に通りモノと呼ばれる気配 ? 瘴気の破片 ? が村の結界を越えて紛れ込む事があるんだそうだ。それに障るとおかしくなる。車の中にいると過られる事は無いそうで。
「お前も気をつけろよ」
と言われました。はあ、そうですか。
色々ありましたが。
「それで、薬草の件なんですが」
カバンから書類を取り出し、色々と話を切り出した。今回、必要な薬草とその分量、今後の取引について等々。漸く仕事の話が進んでいく。
「あと、今回の調合に関わる薬師についてですが。駒場様の扱っている薬草を基にして多分いろいろな薬を調合できるのです。ですから、今後もお取引いただけると大変助かります。
ただ、その薬師と迅を会わせないようにしたいんです。それで、駒場様の薬草畑にある取引可能な植物のリストをいただければと思います。できるだけ薬師がここに来る口実を減らしたいと思います」
「そうかい。では、リストを作って送ろう」
逸郎さんも快諾した。聖女は薬師で通すようだ。仕事の話に目処がつき、逸郎さんが帰っていった。プリンやクッキーなどをお土産に持っていってもらった。色々と迷惑というか、手数をかけてしまったので。
「さて。それでは教えてもらえるかな。君は誰なんだね」
どうやら祖父ちゃんも違和感を持ったらしく、御門に尋ねる。だが、その声は柔らかで決して問い詰めているという風では無い。
俺は思わず祖父ちゃんを見る。先程はメイかと思ったが、メイの雰囲気とも違う事に気が付いた。だが、祖父ちゃんが気が付くとは思わなかった。
「まあ、取りあえずお茶の支度をするよ」
玄関先で三人がぬぼーっと立って話をするのもなんだ、二人の背中を押して取りあえず居間へ向かう。
「はい。どうお話ししましょうか。迅君も含めてはじめまして、と言った方が良いでしょうね。僕が御門明です。先程までのアキラとメイは僕自身の人格が二つに分裂した姿です。人格が二つに分離したのは、異世界に召喚された時でした」
突然、異世界の話を御門がしたので驚いたが、実は帰りの軽トラで御門は異世界の話をベラベラ話していたのだそうだ。箱庭や薬草については、異界絡みでなくても説明は可能だ。
だから、御門は祖父ちゃんが異世界について知っているかどうかは判らなかったと思うんだが、おかしくなっていたらしいアキラは色々と話をしたらしい。それを聞いて、漸く本当に御門がおかしくなっていたのを納得した。
御門は異世界に召喚された時点で人格が二つに分かれた。記憶は共通しているものの、その能力は二つの人格でそれぞれ分かれてしまい、統合して何かを示すことがし難かったという。能力を授かっただけではなかったというのだ。
「いや~、この村のプリン、噂には聞いていましたが凄いですね。割れた人格が一つに再統合されました。ありがとうございます」
にこやかに礼を言われて頭を下げられるのは、ちょっと戸惑う。
なんだろう、この爽やかな人間は。俺の知っている御門とは雰囲気がまるで違う。アキラは子供っぽくて、メイはどこかさめていた。こんな好青年風ではない。でも、全くの別人とも言い難い雰囲気でもある。
「こちらの世界に戻ってきても人格が分離したままなので、最初は家に帰っても本人だと認めてもらえなかったのですよ」
家族は両親と兄が二人いるのだそうだが、戻っても家に入れてもらえなかったのだという。幸い一番上の兄には特殊な目があり、人格が割れただけで弟本人だと認識してもらえたらしい。
だが、それまでは天邪鬼が化けているのではないかと追い立てられたりとか、色々あったという。未だに家には入れてもらえていないらしい。
「メイとアキラはどうなったんだ ? 」
気になって聞いてみると。
「どうなったと言われても。統合されて一つの独立した意識としては無くなりました。でも、二人とも私ですし、記憶も感情も継続しています。
まあ、アキラみたいにこの年になって駄々をこねたりしませんが。先程はお恥ずかしい限りです」
頭をポリポリと掻きながら、ちょっと耳の先が赤くなっている。自分で自分をコントロール出来ていなかったとはいえ、仕出かした張本人だからな。
アキラ、あっちで仕出かしているからなぁ、俺を巻き込んで色々やっているからなぁ、大変だろうなぁ、とどこか他人事のように思う。
メイは記憶を共有しているとは言え、アキラとは別人という認識で客観視していたが、彼はそうではないようだ。こういうのも黒歴史になるんだろうか。
「迅君にも、今まで色々とご迷惑をおかけしました」
深々と頭を下げられた。
「私の力は情報収集と解析が中心なのです。単純に言うとメイが情報収集、アキラが解析と実行役でした。ただ記憶が共通しているとは言え、お互いの意思疎通が上手くいっている訳ではなかったのです」
なんとも言えない表情で御門は言った。本人も自分が情けなかったのかもしれない。
だが、その言葉を聞いてなんか得心がいく。アキラは自分が判断したことについて、その根拠を上手く示すことが出来なかったから。上手く伝わらずに、癇癪を起こしたりすることもあったのは、その辺の齟齬だったんだろう。
「それで、上手く伝えられなかった分の余波に当たってしまったのが、迅だったように思います。今更ながらですが、大変に申し訳なかったです」
申し訳なさそうに御門はこちらを見たが、言われた俺は絶句していた。
「異世界に行った事でそんな事になったんだろう」
俺がいいたかった台詞を、片眉を上げて祖父が言う。
「それが、統合されたというのに今ははっきりとは判らないのです。ただ信じて欲しいのは害意があってという事ではありません。そうですね。それが聖者の役割だと判断していたのかもしれません」
困ったように眉間にしわを寄せて御門が続ける。
「まあ、今更だ。詫びは受け入れるから。でも、俺はあんまり気にしてないから」
俺は頭を掻きながらそっぽを向いて答えた。本当に今更だ。それに、ババを引いたと思うことはあったが、そこに悪意があるとは端から思ってはいなかったし。
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