第38話 打ち合わせ


 翌朝。

 朝食を食べ、逸郎さんの家へ連絡をしてから薬草畑に向かう。祖父ちゃんが軽トラを運転し、助手席は御門、荷台では俺が荷物している。天気が良くて良かった。暖かめの格好をしているけど、ポカポカな日差しで荷物しやすい。


 車の中では、祖父ちゃんと御門が会話しているようだが余り聞こえない。

「そう言えば、うちに君の車とか無かったけど、どうやって来たんだ」

運転をしながら祖父ちゃんが聞く。


「道の駅までは車で。車は道の駅に止めてあります。迅君宅までは、散歩がてら歩いていきました」

あっけらかんと御門が答える。


「お前さん、田舎に住んだことがないのか。道の駅からウチまでじゃあ、かなり遠かったろう」

呆れたように祖父ちゃん。


「えっと、徒歩で旅をしたことがあるので割と歩くのは平気なんです。

風景を眺めたり、人に道聞いたり、話したりしながら歩いていて楽しかったですよ」

にこにこしながら御門が言う。本当に楽しかったのだろう。


「面白い兄ちゃんだな。帰りは良かったら道の駅まで俺が送っていってやるよ。まあ、仕事の段取りが付くまで、ウチに泊まってても良いからな」

車の中でそんな会話がされていた。


 逸郎さん宅へ着くと、祖父ちゃんは雑貨屋に買い物に行くと言うので、迅と御門の二人で逸郎さんの薬草畑へと向かう。御門が実際に植わっている薬草を見たいと要望したためでもある。


「地域ネットワークから来ました御門 明といいます」

御門は逸郎さんに名刺を差し出す。逸郎さんに色々と話を聞きながら、薬草畑を見ていく。逸郎さんは、新たに出荷した傷薬やシップ薬の話だと思っていたそうで、最初にそれらで使われている薬草を案内してくれるつもりだったらしい。


 実は昨日、『コリ』経由で連絡が入っていたそうだ。地域ネットワークから人が来ていて、薬草の件で話があるだろうと。新薬の薬草は、逸郎さんトコの薬草を扱っている事になっているので、前もっての連絡だったのだろう。『コリ』内でも俺の事まで把握している人は本当に極一部だ。


「お手数をおかけしてすみません。今回は、別の薬草の取り扱いについてお願いにきました。実は迅さんから、他の薬草も取り扱っていると聞いたものですから」


水質浄化のための薬生成のために必要な薬草を探している話を切り出した。

「だがな、サンジワニ、カルパヴリクシャ、ロートスの三種類は、今の時期に出荷は難しいな。早くても来年の夏ぐらいまで待って貰わないと」


 薬草畑に案内しながら、逸郎さんが説明をする。温室の一角でこの三種類は育てられていた。露地でも育ててみたらしいのだが、今ひとつ成長が芳しくなく、温室で育てているものの方が良いらしい。両方の状況を見せてくれた。


逸郎さんは迅の方をみやる。

「箱庭については、御門は知っています。まあ、ちょっと腐れ縁でね。だから、この薬草畑の在庫ってことで、最初の方は箱庭の物を渡します。乾燥して保管しているのがそれなりにありますから。それを今までの在庫として、出荷してください。この3種類は、具合が良いことに乾燥させた物を使いますから、在庫分で問題はないはずです。逸郎さんが育てたのともしかしたら多少の差はでるかもしれませんが、本来は寝かしておいた方がよいから差が出たとかいっておいてもらえれば」

「まあ、迅君がいいならいいが。その、大丈夫なのか」

心配する逸郎さんに迅は一つ頷く。


「ただ、前にも言いましたが、全面的に逸郎さんに前に出て貰ってもいいですか。今回は特に、俺が関与している事は一切だしたくないんです。

それから、もし、こいつのいう薬が上手くいったら、色んな所から話が来るかもしれません。俺は一切薬草に関しては表に出ません。箱庭についての公表は全く考えていませんので。勿論、今までと同じくお手伝いはしますし、薬草についての必要な知識はきちんとお伝えします」


「それは構わない。そういう約束ではあったからな。しかし、ここの薬の可能性を知っている人間が外にいるとは思わなかった……」


 逸郎さんが言いよどむ。そうだよな。俺もそんなことは考えてもいなかった。だから、のんびりここで薬草を育てて少しずつ手がけていけばいいと思っていたんだ。考えてみれば、アレが来なかったとしても昔の記録とかが残っている可能性だってあったんだな。全然考えてもみなかった。


「大丈夫ですよ。箱庭と俺についてコイツは他では話しませんから。供給できないようなら、断っても良いと思います。なかなか増やせる物でもないですし。無理したら全滅するとかいっておけばいいですよ。今回のは、あのダム絡みだっていうので、何とかしたいかなと思いますけど」

 俺は、できるだけ明るく笑ってみせる。


「それに、妖物絡みでしょう。外に漏れたわけじゃ無いんですし。新しい儲け口だと思えばいいんじゃないですか。あちらさんは現物を持っているわけではないんですから」


 逸郎さんも俺の意を汲んでくれたのか、いつものようにニカッと笑う。

「そうだな、精々ふっかけてやろうか」


 それを脇で聞いていた御門は、苦笑いを浮かべる。

「いや~、そんなこと言わないで、関係者割引とかお試し価格とかにしてくれると嬉しいな。予算内で済ませられると有り難いんだけどな」

 とぼやいてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る