第34話 使命をご存知 ?
お茶を一口飲んで、御門が言う。
「ところで、君は使命を受けていないのか ? 」
「しめいってなんだ。誰かに名指しで呼ばれるのか ? 」
何を言われているのか、判らない。
俺の答えを聞いた御門はちょっと驚いたような顔を一瞬見せて、それから考え込んだ。少し間があく。考えた末の問に、
「君は神の声を聞いたことがないのかな」
なんてとんでもないことを言い出した。
「神の声って、何か聞こえるのか。戻ってきてから、そんな声を聞いたことはないぞ」
ちょっと訝しむ声になったのは仕方ないだろう。で、身を引いてしまう。
ふむ、とまた少し考え込んで御門がこちらを見たが、すこし羨ましそうな顔をしている。
「私達があの世界から、こちらの世界へ帰って来る際に、声が聞こえた。それを聖女は神の声だと言っている」
御門は真面目にそう言うので、俺はちょっと、いやかなり身を引いた。
「大丈夫か、お前達」
「そう露骨に嫌がるな。傷つくぞ。あちらから戻ってきた時にその声に言われたんだ。異世界召喚といっても、こちらの世界にも利があるものだったんだそうだ」
こちらの様子に仕方がないかという表情で話を続ける。
「俺だって、自分が異世界召喚されて戻ってくるなんて立場じゃ無ければ信じないだろうけどな」
あちらとこちら、世界としては別だがどうやら影響し合っている繋がりのある世界同士なのだそうだ。
あちらで魔王が出現するとその影響でこちらの世界では、魔の物や妖物が出現しやすくなるという。
いつ頃からそんな風になったのかは不明だが、あちらの世界の魔王はこちらの世界の者でないと討伐できない対象であり、そのためにこちらの世界から討伐者が派遣される。それが勇者召喚である。
界を渡る事で力を得、魔王を倒した勇者はこの世界に戻り、この世界の活発化した妖物達の沈静化を行なうことが使命なのだというのだ。
あちらの世界の魔王とこちらの世界の妖物の活発化は対応しており、その解決手段としての勇者達なのだそうだ。
「君に話す機会が無かったが、神来も私も、洞窟のある里の出身だ。互いに違う町だったのでこちらに戻ってからお互いに知った。だから、勇者召喚で新たな力を得ることは、願ってもないことだった」
彼等は帰ってきた時に、ある組織に勧誘されたのだそうだ。日本政府も一枚噛んでいるらしいが、公式的には非営利団体だ。
この国の洞窟から発生する妖物対策のための組織だそうだ。結成は何代か前の勇者だといわれ、数百年前から形式を変えながら連綿と続いているものだと聞く。
よっぽど話を聞く俺の顔は胡乱げな表情でもしてたんだろう。
「そんな顔をするな。私達が帰ってきた場所に迎えに来られてたんだ。
何らかの力を持っていることは間違いない。それに私達がこの2年間でしてきたことは、全て妖物対策のための仕事だ」
湯飲みを口に付けたが、すでに空になってた。それに気が付いたので新たにお湯を急須に入れ、御門の湯飲みにも注いでやる。
「ちょっと、待っていろ」
奥に入って、祖父ちゃん用にと作っておいたクッキーを持ってきて、ずずっと御門の前に置く。
「食え」
「おいしそうだね。戴こう」
御門は嬉しそうにクッキーを手に取った。
「その組織って、本当に大丈夫なのか?」
「多分、な。先々代の勇者が作ったという話もどうやら本当の事のようだ。かつての勇者の手記なども残されていた」
クッキーをひと齧りすると、顔がほころぶ。気に入ったのだろう。沢山喰えとばかりに、クッキーをいれた
「それに、お前だって間接的には関係しているんだぞ。日本のあちらこちらにある洞窟のある里の取りまとめというか、情報や物資のやり取りの要をしている組織でもある。ここの『コリ』の出資者の一つでもある」
「うわぁ」
俺の就職先の出資者なんて、そんなのあるなんて知らなかった。頭を抱えた俺を見て、御門がふふっと柔らかく笑う。
「ここは、君にとって住み心地が良いのだね。良かったよ。あちらの世界では君はとても居心地が悪そうだった」
「ああ。アレがいたからな。それに、魔王討伐には殆ど役に立たなかっただろう」
横を向いて、ボソボソと申し訳無さそうに言う。
「あれだけ活躍しておいて、役に立っていないわけもなかろうに」
目を細めて迅を見つめる。
「そう評価してくれるのは、お前と神来ぐらいだよ」
「そんなことはないぞ。君は大した事ないと言っていた物資の供給は、その地域の人達にとっては死活問題だった」
クッキーを食べ、茶を飲む。傍目からみれば、縁側での茶飲み話だ。
内容は、茶飲み話の範疇とは言い難いが。
「それに、お前の作った薬は別格だった。他の薬師のものよりも効きが良い。あの世界の薬といえど、中々欠損部までは再生しない。私の腕が今もこうして動いているのは、君のおかげだ」
「え、お師匠のはそうだったから、当たり前だと思っていたが」
驚く俺をみて、呆れたような表情を浮かべる。いや、実際に呆れていたのかも。
「君はそういう奴だよな。あそこまでの薬を作れるのは、滅多にいないんだ。薬師の婆さんはお前の腕に惚れ込んでたよ」
ハハハと笑う。
それから、じっと俺の手を見つめる。
「君は、封印されてたんだな」
そう呟いた。
その言葉で、つられて自分の両掌を見つめる。見慣れた手だ。
「そう、村の物見の巫女に言われた。今は僅かに封印が解けて、両手から力が少し漏れてるそうだ。だが、原因も俺の力が何なのかも判らんそうだ」
ふむ、と一言うなずく御門。
「なるほどな、もしかしたら」
そう一言呟くと、俺の方を真っ直ぐ見る。
「君が異世界で貰った力は、あちらの世界では君に定着できなかったのではなかろうか」
「どういう事だ」
「私と神来は、本来の力に加えて、異世界で得た力がある。それぞれ賢者、勇者としてのものだ。両方とも鑑定には反映されていた」
淡々と御門が語る。それに俺は頷く。
「そうなんだ」
「君のスキルはクラフトと箱庭だったよね。それがもしかしたら、君の素からのものだとしたら」
実際に俺の能力はクラフトだけだと最初は言われたのだ。
だが、俺自身が箱庭の能力に気が付き、使えるようになった。だから、クラフトによって創られたものだと判断されていた。
だが、俺はクラフトと箱庭は別物だと考えていて、御門にはそう話したことがある。その時には、
「君がそう思うなら、きっとそうなんだろう」
と言ってくれていた。
「箱庭は、憑き物だそうだ」
御門は納得した表情で、どこか懐かしそうに言う。
「ああ、憑き物だったのか」
うん、と一つ頷く。
「それでね。君が異世界で授かった力は、君に上手く馴染めなかったんじゃないかと思うんだ」
言っている意味が、判らず思わず首を傾げた。そして思い当たり、
「ああ、封印のせいか」
思わず声が出た。それに御門は肯定の意を示して頷く。
「そう、封印によって君の力として同化することが上手くいっていなかったんだと思う。それで君の周囲を覆う聖者の力は、同系統の聖女に伝播して彼女の力として発現したんじゃないかと、そう思えてきた。君の話を聞いて」
「何だよ、それ」
「本来、聖魔法しか所有していなかった聖女は、君と出会ってから全魔法属性を発現させた。その力は本来君が受けるはずだった物じゃないかと思うんだよ」
俺は、絶句した。
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