第30話


 さて、あれからずっと続いている研究会。

 今日は、研究会の日だ。朝からがっつり食べないと身体が持たない。、


夕べ仕込んだオクラとナスの焼き煮浸しにゴーヤと麩の炒め物とズッキーニのベーコン巻き。バターとニンニクで炒めたキノコ、卵焼き。味噌汁にはミョウガと油揚にした。もうオクラやゴーヤ、ズッキーニは終わりだなあ。なんて思いながら。


「おう、今日は研究会の日か」

祖父ちゃんは朝飯を見ただけで、理解したようだ。まあ、その日だけ、朝飯の量が半端でなく増えるからな。

「祖父ちゃんも今日は狩りに行くんだろ。お弁当は用意してあるよ」

俺はそういって、風呂敷包みを指さす。


「おう。ありがとよ」

祖父ちゃんの分は程々にご飯をよそい、俺は丼に山盛りによそう。そのご飯の量をみて、祖父ちゃんはふふっと笑っている。仕方ないだろ。


 

 祖父ちゃんを見送ってから気合いを入れて、集会所へ。

「おはようございます」

「あら、おはよう。今日も元気ね」

「あははは。元気じゃ無いと、持たないですよ」

「そうよね、今日も頑張って貰わないと」


 集会所へ行く途中に会った雅さんと世間話をしながら集会場につく。

「おはようございます」

「おはよう。今日もよろしくね」

どうやら、俺たち二人が最後だったみたい。皆さん、相変わらず気合いが入っているようで。


台の上にはすでに、今日作る材料が並べられている。さすが梛君、準備に余念が無い。

「では、始めましょうか」

更紗さんの号令で、今日の研究会が始まる。


「今日は栗のジャムね。旬で沢山採れたから。可能だったらショウガのジャムも」

栗のジャムは体力回復と体力増強、ショウガのジャムは氷結耐性がつくのだとか。


 研究会では、どちらかといえば俺はモルモットだ。一日中、指定されたモノを作り続ける。

そして、検証している中心は更紗さんと美貴代さんだ。


カラフルに書き直したレシピと、俺の作業を二人が見てまずは観察して検証する。検証結果に基づいてそれを再現させる。再現を試みているのは雅さんと百合子さんも加わって、四人が中心になっている。最後は出来上がった物を梛君が鑑定をかけるという流れになっている。


全体的な流れはそうだけれど、新しい物に取りかかった時は、1日中俺だけが作り続けて、それを検証して終わる事の方が多い。


「迅君、こちらで先に茹でてあるのを使って作業をお願いね。それから平行して、あなたも栗、ゆでといてもらえるかしら」

「はい。じゃあ、まずは茹でるとこからしますね」


レシピの中に反映していない魔力の流れをみるのに、他人が茹でた栗と俺が茹でた栗の比較をするのだという。茹でるのって、時間をみるくらいなんだが違いがあるのかどうかを検討するんだそうだ。

茹で上がった栗は、まだ熱いぐらいだ。更紗さん達が早く来ていたのは、多分栗を前以て茹でるためだったんだろう。


「はい、こっちの栗は私達が中身出しといたわ」

どうやら中身を誰が出したかでの違いもあるか、検討対象らしい。どの段階で変化があるのかについては、梛君がチェックしている。


更紗さんは割と無茶振りしてくることもあるし、同じ作業を何度も繰り返したりもするので、朝から気合いを入れないとやってられない。


1回の分量はそれほど大量に作るわけじゃ無いが、何度も作るんでなかなか体力がいる。加えて多分魔力も使ってるからか、終わった後の疲労感が半端ない。


あれ、手分けしているのって、俺に大量生産させるためでもあるのか、あれ。

これ、月一だからできるんだよなぁと思わなくも無い。


「あら、鈴花さんのレシピだと裏ごしするのね。ああ、こうすることでより力を纏わせるとか」


人の手の加わった箇所が違う状態で、どれだけ効能に差が出るのかも検証するが、少なくとも今日の栗ジャムについては裏ごしと煮詰めるのは俺だけが作業する事になるだろう。


 あの時プリンを作ったことから、こうなることは仕方が無いのか。


 第一回目にオハギを選んだ事については、あの後物凄く後悔した。何故なら、あれから4回続けてオハギを作り続ける羽目になった。そして、当然夕飯にまで及ぶこととなった。オハギには、……慣れた。でも、オハギは短い方だ。だから思う。最初に別なのを選んでいたら、絶対にオハギは無かった。


 だが、そのお陰で現在は、自家製のオハギが村に溢れている。レシピは広めて貰ったのだ。オハギの注文が減ったのは苦労した甲斐があったというものだ。


だが、どうしてもオハギには誰が作っても身体強化しかつかないらしい。それが、どうしても不満だったらしく研究会で四回も続けることになったのだけれども。最終的には、他のモノもあるからと諦めてくれた。


俺だけ何故か素早さや力が上がるのかは不明のままだ。でも、それがあるせいで未だに注文が来たりする。


 だけれども、悪いことばかりでも無い。個人的な収穫もあったから。オハギの解析でどう言う手順で作っているのかと言うことが頭で理解して作れるようになったことは、俺自身について言えば進展があったのだ。


祖母ちゃんのレシピには無かったんだが、米を米粉としてつかう大福だとか羽二重とかをオハギのレシピの理解の上で作ると、身体強化がつくことが判ったのだ。善哉でも出来たんだよ。残念ながら、俺にはレシピを起こすことはできないし、感覚的にしか説明できないので他の人達には難しいようだ。大福なら幾らでも作るぞ。


 それで現在は、オハギ以外の簡単なレシピに取りかかっている。成果は、ぼちぼちといったところだろうか。どうにも、込める魔力にはタイプがあるようなのだ。


オハギは魔力であれば何でも良いから込めればいいらしい。だから、品質の違いはあるものの、多くの人が再現できたようだ。ところが、他のレシピの単色は魔力のタイプの傾向が決まっているらしい。皆さんが仰るには、レシピの色は魔力のタイプを表していて同じタイプの魔力ならば効能付きを作れるという事だ。だから、どんなに頑張っても全く別のタイプの人では出来ないのだそうだ。


 今、単純なレシピでチャレンジしているのはジャムだ。どうも、果物と魔力タイプに相性があるんじゃないかと考えているそうで。作ってみると人によってイチゴジャムはOKでも、マーマレードは×、もしくはその逆みたいに人によって効能がつく果物が違うのだとか。ジャム製作で自分の魔力の傾向を見定められるかも、なんて話もしてる。


 だから月一の研究会とは別に、魔力のタイプをどうにかして調べられないかという事も検討されているみたいだ。だけど、こちらについては俺は顔を出していない。

まあ、ガンバッテクダサイ。


 今のところ、残念ながら売れるほど効能が付くものを誰もが作れる状態にはなっていない。徐々に成果はでているみたいだし、あの人達ならばいつかは成功させるんじゃなかろうか。


 中途半端な作りになった材料は、全部最後まで完成品まで持って行く。だから、更紗さん達が色々と検証している間も、俺はずっと作業を作り続けているのだ。


で、から全て効能持ちになる。出来上がったモノは全て梛君が鑑定して、確認してから『コリ』へとお持ち帰りになるわけです。

作業工程を人に任せた場合は、効能がつかない場合や、能力が低くて売り物にならない場合もある。これは皆でお持ち帰りとなる。廃棄扱いかな。


そんな関係もあって、梛君と更紗さん達が相談した上で検証するレシピが決まっているようでもある。


うん、判ってる。俺の役割は実働部隊で考える事はお任せします。だって、俺は見えないから。作業だけに専念するさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る