第25話 研究会、始動
研究会は月一で行われることになった。しかもほぼ一日。10時開始。
「皆さん、前のめり過ぎでしょう」
そう言ったら、ギンッと強く見つめられました。すみません。効能付きが作れる可能性が提示された皆様方は心構えが違うようだ。
「取らぬ狸の皮算用になるかもしれないのは判っています。でも、もし、もっと多くの人が作れるようになるならば、もしくは、次代に確実に作製方法が伝えられるならば、この村の新たな産業になるかもしれません」
ワクワク顔の梛君に奥様方は賛同している。作り手が増えれば、お菓子の受注量も増やせるということか。
まあ、皆さんが非常にやる気に溢れていることは理解しました。ハイ。
魔力の流れが見える人が2人、見えない人が2人。魔力が見えなくても作れるかどうかの検証もできると皆さん、ホント積極的。
「でも、見えない俺が作れるんだから見えなくてもいいんじゃないですか」
そう問いかけてみた。
「あら、迅君はレシピが見えるでしょう。条件が違うわ」
だそうだ。
一番簡単なレシピから始めましょうということで、第一回目の食べ物はオハギだ。レシピはお菓子だけでは無いのだよ。
選択理由は、使われている色は一色、文字に使われているだけで、マーカーもアンダーラインも無しだったからだ。
オハギの効能は身体強化で素早さや力も上がるという話だ(梛君調べ)。
あれから、俺は簡単なレシピから少しずつ書き写している。オハギみたいに簡単そうなものは幾つかあったのだが、真っ先にオハギにした。特に美貴代さんと百合子さんには頑張って貰いたい。旦那さんに美味しいオハギを作って下さい。ついでに菰野さんとうちの祖父ちゃんにも。期待しています。
作業としては、まず俺が書き直したレシピを配る。次に、皆の前で俺が作ってみせる。魔力の流れが見える更紗さんと美貴代さんがチェックし、メモをする。それを全員で確認し各自で作ってみる。完成品は梛君が鑑定でチェックする。その結果で、また修正をしていくというものだ。
俺は力の流れなんて全く見えない。ただ、祖母ちゃんのレシピを読んで作業をしていくと、何となくどうすれば良いのかというのを感覚的に理解しているという感じだろうか。だから、上手に言葉を使って説明をしようがないのだ。
だけれども、更紗さんも美貴代さんもその辺がかなり上手に説明してくれるので、自分でやっていることなのに「なるほど」と思ったりすることが多い。
かき混ぜ方ひとつでも、何となくやっているからこう言う意味があると判ると無駄が無くなる気がするんだ。
材料の準備や配分、手伝いを手際よく梛君が熟していく。材料費については、実費払いになっているがその算段まで彼はきちんとつけている。
この研究会でできたお菓子については、効能が無事に付与されたものは、『コリ』で販売してもらえることになっている。普通のお菓子になった分については、失敗作で無ければ道の駅に納品することも可能になっている。この辺の段取りは全部梛君が熟していて、その手際は見事としか言うほかない。
仕事を押しつけられているのは俺なんだが、なんか梛君に申し訳ないような気がしてきている。あとで綿貫さんに聞いて、梛君の好物をしらべて差し入れようかなあ。
そして第1回目の題材オハギについては、午前中は俺の作業やなんだかんだ話をして終わった。
「それじゃ、一旦解散で午後改めてということで。梛君、納品お願いしますね」
午前中に作ったオハギは全部、道の駅行きとなっている。梛君が綺麗にパッキングしてお昼に届けて、そのまま昼食を食べて戻ってくることに。皆は一旦家に戻り、お昼ご飯だ。午後からは、奥様方の実践となる。
「それじゃ、午後は私と百合子さん、美貴代さんと雅さんが組んで作りましょうか。魔力の流れなんかを意識して作ってみましょう」
四人とも魔力持ちのようだ。というか、この村の人達は皆魔力持ちで、無い人間が村の外へと出されるのだろう。
結果は、簡単に皆が作れるようになった。魔力が見えないといっていた百合子さんも雅さんも問題なく効能があるものが作れた。また、全員が作れたことで、もう一つ判ったことがある。人によって効能の強弱があることだ。でも驚いたことがある。
「魔力込めると聞いて、直ぐに出来るんだ。凄いですね」
俺は感心してそう口にした。
「あら、村の結界を張るのに20歳以上になれば皆、順番で魔力を結界石に込めるのよ。だから、魔力を込めるのは大人なら皆できるはずよ」
とのことです。そうですか。1~2年に1度廻ってくるとか。知らんかった。
出来上がったオハギを検分していく梛君。
「身体強化に素早さ、力が効能につくのは迅さんのだけですね。皆さんのは身体強化はついてます。ただ、身体強化の能力にばらつきがみられますね。う~ん。ちょっと、付与される能力としては低いかな」
出来上がったオハギを鑑定しながら梛君が言う。最初に作ったものは商品としてはばらつきが大きいし付与される能力も低いという判断が下された。お持ち帰りが決定した。
それでも、皆のテンションは高い。例え俺の10分の1の能力だったとしても、ちょっとでも付与されたものを作れたのだ。
「低いならば、ブラッシュアップして高めていけばいいのよ」
四人で色々と議論になりだしたのだが、時間はもう夕方になる。そろそろお開きの時間ですと声を掛けた。
解散ということで、皆で片付けをする。
「では、今日は皆さんお疲れ様でした。オハギは皆さんご家庭でお召し上がり下さい」
梛君がそう声を掛ける。各々がオハギを包んでいたが、更紗さんがふと気が付いたかのように、声を掛けてきた。
「迅くん。そう言えば、貴方のオハギって全て納品しちゃったのよね」
「ええ、そうですが」
訝しげに俺が言うと、続けて言われた。
「あら、それなら私達のオハギを分けてあげるわよ。持って行きなさいよ。その分夕飯の手間が省けるでしょう。うちもこれを夕飯にしようと思ってるけど、多いから」
善意で、そう更紗さんが言ってくれたんだと思う。俺の顔、引き攣っていたかもしれない。
「いえいえ、皆さんでどうぞ。大丈夫です。皆さんでお召し上がり下さい」
本心から、本当にそう望んでいます。
「まあ、迅君。遠慮なんてしなくて良いわ。皆で一つ二つを分ければ良いぐらいでしょう」
雅さんもニコニコしながら、手際よくオハギをうち用に取り分けてくれている。そう言われて祖父と二人分のオハギを持たされてしまった。勿論、梛君にもオハギは渡された。どうにも皆さんはオハギが好きな方ばかりのようで、梛君はとても喜んでいる。
夕飯がオハギになったのは言うまでもない。
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