第23話 お菓子の日々


 さて、季節は秋から冬に入る頃となった。この頃は涼しいというよりも寒くなってきた。旬のニンジンと里芋で煮っ転がし作ったり、ホウレンソウやカブを味噌汁に入れたり。


カブは餡かけも美味いよね。この前祖父ちゃんが銀杏を貰ってきたので、茶碗蒸しを作ったり。茶碗蒸しもブロッコリーとベーコンつかって洋風にしてみたり。俺のクラフト、この頃食べ物に特化している気がする今日この頃。まあ、馬肥ゆる秋だし、問題は無い。


 綿貫さんに押し切られてお土産用のお菓子も作ることになった。効能付きと無しが作り分けられることになったのが、ばれてしまったから仕方が無いと思わなくも無い。


 効能付きに関しては、現在は受注の上、作製という形になっているが、作る数はさほど変わらない。注文が定常的にくるからだ。『コリ』である程度数を保持しているのだという。

効能付きのお菓子の消費期限は長くなる。普通はプリンなんて1日か2日ぐらいだが、効能付きは1ヶ月ぐらい持つそうな。勿論、冷蔵状態でだが。そういう話を聞いていたので、付与魔法を添加しているのではないかと思った訳なんだけれど。


「1ヶ月もののプリン。俺だったら食べたくないな」

とふと口にしたら、

「大丈夫です。それほど余る事なんてまったくありませんから」

プリン、呪詛落としって言われているけど、それが恒常的に食べられているって大丈夫というのだろうか。


効能付きのお菓子、予約窓口は道の駅と『コリ』の事務所になる。製作者の公表しないことになっている。こうした技能を持っている人間がトラブルに巻き込まれる話は昔からあって、各地域で秘匿することに取り決めされているそうなのだ。だけれども門外不出にしたいわけではないので、別の地域から弟子をとる事もあるという。


だけど血についている技能っていうのもあって、村外に持ち出せないものもあるそうで。そうした場合は子供や親戚に伝える、もしくは村で共有されるとかね。近い条件を持っていれば、村外からの弟子も受け入れるとかかな。


 一番恐いのは、その技能を持つ者とその技能が失われてしまう事だ。だから滅多なことでは作り出している人物の情報は外へは出さない。

祖母ちゃんがレシピを残したのは、こうした流れがあったからだろうと祖父ちゃんは言っていた。娘には継げなかった。だれかに受け継いで貰うにも、なかなか難しかったのだそうだ。

「ばあさんは、どうにも感覚的な感じで教えるのがヘタだった」

とは祖父ちゃん談だ。


台所にある祖母ちゃんのレシピは原本で、写本が何冊か作られて、それは貸し出しされたりすることもあるそうだが、それを読んでも今まで誰も実現できなかったのだとか。

「見ればわかるんだけどねぇ」

とは祖母ちゃんが生前言っていたそうだ。確かに、見ればわかった。


 作れるようになった効能無しのお菓子。売れ行きは順調だと言われている。俺の分については、婦人会の人達と一緒にという形では無く、別の系列でという形になっている。系統が違うので別モノとして扱っているとか。何ソレってな感じがしている。疑問に思っていたら。


「いや、なにかファンが付いて居るんですよ。美味しいですからね」

と言われた。なんでも効能付きの方を食べた人が無いのを食べたんだそうだ。そうしたら、だ(当たり前だと思う)から、別物にして欲しいと言い出したのだそうだ。


効能付きははっきり言ってお高い。でも効能無しはお手頃というか普通のお菓子の価格で食べられる、お得だと喜んでいると言われた。それは、何か間違っているだろう。効能が無いから安いのに、お得って何だ。意味が判らない。村内消費が大きいのだろうか。常習したくなるような物質は入れてないぞ。

ちょっと恐くて、道の駅の物販には足を踏み入れていない。


 さて、またまた綿貫さんがやって来た。何か「ご相談があります」とのこと。今日はもう一人、青年と一緒に。どこかで見たような気もするけど、雰囲気はちょっと綿貫さんに似ているからだろうか、なんてことを思っていると。


ご挨拶の後に、軽いジャブから入ってくる。

「数がお願いできるのならば、もうちょっと販路を拡大できるんですけどねぇ」

と言われたが、これは聞かないふりをした。だって、それなりに作ってるんだよ、この周辺地域だけでも。種類だって増えただろう、オハギとか !

「押しに弱いのう、お主」

と酒呑に呆れられたのは、思い出したくも無い。


「それで、ご相談というはカステラプリンについてなのです」

 前にカステラプリンが流行っているという話を聞いたが、道の駅でもこれの売れ行きがなかな良いのだそうだ。言っておくが勿論、只のお菓子のほうだ。だが、直ぐに売り切れてしまうので、量産ができないかという事なのだが、それは難しいと答える。まあ、このあたりは予想の範囲だろう。


「でしたら、婦人会の人達に教えていただけないでしょうか」

もし、作り手を増やして量産できるようになるならば、道の駅のメインのお土産にしたいのだという。

「それで、今後お菓子の品質の保持や、効能についての解析のために助手を派遣いたします。前に言っていた鑑定持ちです」


ペコッと隣にいた青年が頭を下げる。

「綿貫 梛といいます。先日は、本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願いします」

そうして、梛君がやって来た。





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気が付いたら☆が120台になっていました。

ありがとうございます。

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