第22話 


 獅子は多くは単独行動か対で行動していることが多いという。

俺は後ろの方で自分に結界を張り、酒呑と一緒に眺める係だ。

ほぼ肉弾戦だったのが菰野さんと穴原さん。人ってあんなに素早く動けるんだってびっくり。菰野さんは時々見えなかった。菰野さんの武器が判らない。なんかね、シュパッと首が落ちるんだよ。なんなんだあれ。

猫本さんは刀、柳原さんはクナイで攻撃しているけど、基本は足止め役なのかトドメは刺していない。トドメを刺しに行くのは菰野さんか祖父ちゃん。祖父ちゃんは全く近寄らない。後ろで立っていて、風を起こして獅子の頭がコロン。祖父ちゃん、物理じゃなかったんだ。酒呑を殴っても大丈夫だったんで、てっきり物理だと思っていたよ。

アレは何だと俺と同じ後方待機組の酒吞に問う。

「ああ、カマイタチだ」

面白くもなさそうに答えが返ってきた。


ケリが付いてから、疑問が口から出た。

「猟銃とかは使わないんだ」

それを耳にした祖父が教えてくれた。

「妖物は火薬の匂いに敏感でな。銃を持っていると近づいて来ない奴がいる」


「銃は、相手によっては撃てなくなるんですよ。暴発することもありますからねえ」

と菰野さんがそれに続いて補足してくれる。火薬と相性が悪いのだろうか。そう口にすると頷かれる。

「銃が有効な妖物も居ないわけではないのですが。そいつらだけが大量にでるのでも無い限り、リスクの方が大きいですね」


 最初に倒された獅子を見たときに、どうやって持って帰るのだろうかと思った。血抜きとかするのかな、とか。まあ酒呑なら三匹ぐらい軽く担ぎそうだが、時間が経つと良くないよな、なんて考えていたのだが。


 まず獅子は祖父が氷漬けにする。祖父ちゃん、そんな事も出来るのかと驚いていると、菰野さんが大きな風呂敷を広げてその上に軽々と氷漬けの獅子を持ち上げて乗せる。

風呂敷で包むとスルンと風呂敷がぺちゃんこになる。で、再び開くと獅子はいない。それを倒す度に繰り返す。

「6匹でいっぱいですからね。もう少し大きな風呂敷が欲しいですね」

不思議な風呂敷を畳みながら、菰野さんが言う。


俺は、口をあんぐりと上げたまま目の前で起きたことにリアクションができない。

「お前、風呂敷を見るのは初めてだったか」

祖父ちゃんはそんな俺を眺めながら面白がっているようだ。判って言ってるな、ジジイ。

「いや、普通の風呂敷は見たことあるけど。何これ」

四次元ポケットでもついているのか ? と突っ込みたい。

「この村の風呂敷だ。お前が知らない道具がいっぱいあるぞ、きっと」

ニヤリと祖父ちゃんが笑う。


 そんなこんなあってちょっとゲッソリしたが、午前中に三匹を仕留めた。食事が出来そうな場所を見つけてお弁当を広げる。


 祖父以外はそれなりに汚れたため、俺があちらで覚えた生活魔法の清浄できれいにしたところ、大変喜ばれた。清浄魔法はないらしい。後で皆に教えてくれと言われた。

後衛だから祖父は狩りに行っても汚れることが少ないらしい。だから狩りに言っても気が付かなかった、という事か ? そういう問題ではない気がするんだが。


 お弁当10人前というのは、1人2人前という意味だったようだ。皆、オハギを美味しそうに食べている。おかずは唐揚げと卵焼き、ピンチョスには、ズッキーニとベーコン、ウズラの卵の燻製とミニトマト。オハギに合うようなモノなんて判らん。


 俺と酒吞の分は別だ。酒吞は肉々言うので肉巻きおにぎりでおかずは同じ。俺も肉巻きおにぎりを頬張っている。

何もしていないが、お腹は減る。あんなやり取りのあとでも、問題なくおにぎりをパクつく。まあ、魔物狩りには行っていたし、今更か。


 なんだろう、こののんびり加減は……。俺は段々染まっている気がするが、気のせいだと思いたい。


 そして、この後オハギの注文の受付についての攻防がこの後行われることになる。


 お昼の後に二匹を狩った。猫山さんにはセンサーでもついているのだろうか。あの人が先頭ですっすって行くと、先にいるんだよなあ。


「今日はここまでにして、温泉にでも入って帰るか。迅はまだ行ったことがなかっただろ」

「それは、勿体ない。是非、寄っていきましょう」

猫山さんが爽やかな笑顔を向けてくる。


祖父ちゃんの提案に皆が賛同する。温泉、近くにそんなものがあったんだ。どこにあるんだろう。ちょっとウキウキしながら山を下りて軽トラに乗り込む。


付いた場所は道の駅。そういえば、道の駅には来たことが無かった。思っていたような小ぢんまりとしたものではなく、かなり確りした広い施設だ。高速道路のサービスエリア並みじゃないか。場所としては、県の主要道に隣接しているところで、結構自動車が止まっている。


「この辺じゃ、それなりに有名な所だ。周辺の人間が高速に乗るにはここを通るルートがいいらしいとか言っとった」

とは、軽トラで案内としてくれた祖父の言。


食事もできて、お土産に地元産の農作物や加工品等の買い物ができる場所であり、子供が遊べる場所、足湯や温泉、簡易な宿泊施設(仮眠用みたいな感じだって聞いた)も併設されている。一部、裏手になっていて分かり難いが、村人専用の集会所もあるという。で、すぐ近くに『コリ』の事務所兼、買取窓口もあるという。

要するに、今日の獲物を売りに行くついでに温泉だったわけだ。

「手続きは俺たちがしてくるんで、迅さんと幾太郎さんは先に温泉に入っていてください」

三人の好意で、俺たちは先に道の駅に向かった。


 元々村では温泉が出ていたそうで、村内での利用に留まっていたのだそうだ。温泉権は村が持っていて、道の駅を作るという話が出たときに温泉施設も併設したんだと。地元の人も訪れ、トラックの運ちゃんにも人気らしい。


「この村に温泉があるなんて、そんな話は聞いてない」

祖父ちゃん達と一緒に温泉に入りながら文句を言うと、

「お前の母さんは知っているぞ。小さいときに温泉に行こうといったら嫌がってたからそれっきりだったんだろ。お前が覚えてないだけだ」

涼しい顔で言われた。記憶に無い。

二人のやり取りなど気にせずに、酒呑も寛いだ様子で湯船につかっている。


風呂上がりの休憩場には、そんなに人は居なかった。平日の夕方より早い時刻だからだろうか。なんかすごくのんびりした気分だ。

風呂上がりは牛乳だ。そう言って地元の牧場から提供されている牛乳を勧められて飲む。市販されている牛乳とは一味違う。


「じいちゃんの事をさ、母さんが心配してたけど」

ふと、口にする。老人の一人暮らしだからと俺はココに送られてきたわけだけど。のんびりした山村だと思って来たわけだ。

ところが、ここはよくわからん化け物が跋扈するところで、祖父ちゃん自身も妖物を嬉々として狩るような戦闘民族で、蓋を開けたらびっくり箱だったわけで。


「想像してたんと違う」

道の駅の施設を眺めながら、そう小声でこぼした言葉を拾い上げて、祖父は愉快そうに笑う。


「ここはいいところだぞ。儂にはここ以外に住む事なんて考えられないさ。まあ、暮らしていくには色々あるけれどな。それはどこに行っても同じだろうさ」

そう朗らかに応えた。

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