第21話 お弁当をもって
力仕事などは酒呑にお願いすると楽だ。兎に角あいつは力持ちである。資材運びや薪割りなんか軽々とやってくれる。そういえば、魔術を使ったのを見たことが無い。
「なあ、酒呑、お前は魔法とか魔術とかいうの使ったりしないのか」
ふと、気になって聞いてみた。
「魔法、魔術。今はそんな言い方なのか。幾太郎は術と言っておったが」
おう、そうなんだと思いながらも続ける。
「え、ここにも魔力があるんだろう。その魔力を使った術だから魔術かな」
そういや、魔法と魔術の違いなんか俺にもよく分からん。まあ、使えればいいからそれはどうでも良い、そう思っちゃうんだよな。そういうのを検証するのが好きな奴はいるけれど。そして、どうにも酒呑は俺と同じタイプの様だ。
「ま、いいか。我も使えんことはないが、動く方が良いからな。それに細かなことはできんぞ。例えば火を使えば周囲を焼け野原にはできるが、焚き火に火を付けるなんてのはできん」
なぜかドヤ顔でそう答えられても。
「そうなんだ。祖父ちゃんは風を使って細かな事をやってるけどなあ。威力とかどうなんだろう。祖父ちゃん、狩りとか大丈夫なのかな」
そう言うと、何を言うんだお前はというようななんとも言えない顔をする。なぜだ。
「幾太郎は、アレは中々のやり手だからな。幾太郎といい、鈴花といい、お前の祖父母は
何を思いだしたのか、もの凄く嫌そうな顔をする。
「やはり、お前は小童だのう。祖父母二人の力を認識しておらんな。まあ、幾太郎、老いたりと云えどまだまだ恐ろしい男だぞ」
俺はキョトンとした。記憶にある祖母ちゃんは悪いことをすると確かにおっかなかったが、悪いことさえしなければ、優しかった。祖父ちゃんは、今でも力仕事はこなしているが。だから、力というか武術というか技術というかそういうので戦っているのでは無いのか ? 酒呑を叩いていたぐらいだ。
ああ、でも妖物と魔物って違うのかな、どうなのだろう。段々心配になってきた。
そんな二人が、酒呑の口にするように恐れるような存在だとは到底思えない。だから、ちょっと心配になって傷薬とか沢山保たせているのに。そんな俺をみた酒吞がニタァと笑う。
「よし、今度の狩りに同行しようぞ。何、お主は高みの見物をしておれば良い。護衛の任は我に任せておけ」
何か楽しむような目でそう宣った。
酒呑に半ば強引に決められて、菰野さん達と祖父ちゃんが行く獅子狩りに同行することになってしまった。それを聞いた祖父ちゃんは大変良い笑顔で言う。
「よし。じゃあ、迅には弁当を頼もうか。オハギが喜ばれるだろう。10人前をお願いして良いか。お前の分は別のモノにすりゃいい。
なに、お前は後ろに下がって見てりゃいいさ。酒呑が一緒なら何も問題はない」
とご機嫌だ。オハギの大量注文が入ってしまった。
この頃、俺の物を作る速さと量が格段に上がっている。手早くなったというのも、まああるのだろうが、その理由の大半は、箱庭で作っているからだっていうのもある。
薬の調薬をしていて気がついたのだが、最初は全部自分で段取りを組んでする。二度目からは、ちょっと目を離した隙に、下準備や片付けが終わっているのだ。
どうにも箱庭が手伝ってくれているようだ。それで、試しに調理も箱庭でしてみたら、二度目の作業からはやっぱり手伝ってくれる。
「手伝えるのが嬉しいらしいぞ」
酒吞にそう言われて、作業は全部箱庭ですることにした。
「箱庭、いつも手伝ってくれて、ありがとうな」
だから、作ったものは一種類につき一つを箱庭におすそ分けしてる。薬を調合したときは、お菓子を用意して。
何となくやっていたことなんだが、次に来る時は器はキレイに洗われて置いてあるので、喜んでくれているんだなと思っている。
酒吞に確認するのはなんとなくシャクなのでしていない。そんな迅を見て酒吞はにやにやしているが。
そうした事もあって、先の祖父ちゃんのセリフになるのかもしれない。
「仕方ないな。わかったよ」
そして、当日。
祖父は頻繁に魔物狩りに参加しているようだ。もともと祖父母が田畑を『コリ』に委託したのは、二人の仕事のメインは魔物狩りが主だったからだと言われた。
『コリ』は、どうも村の中で役割分担を円滑にするためのシステムとしての役割も担っている様だ。
村の人々は戦闘特化の者ばかりではない。製造や回復、様々なタイプの巫女等、能力は多岐にわたるのだ。皆が協力しあい、それぞれの役割を果たして村を支えている。だからこそ、俺の母親の様に能力が無かった場合は村を出て行く事になるのだろう。生きていくのは大変だから。
俺が今回の魔物狩りの参加が認められたのは、酒呑が一緒だからだろう。そうは言っても、実際に戦わない。薬を持って医療要員かな。それとも食糧班か ?
祖父ちゃんは弁当を10人前と言っていたが、やって来たのは4人。皆さんそんなに食べるのか ? 菰野さんは知っているが、他の3人は知らない人達だった。だから簡単な自己紹介をし合った。宍原、猫本、柳原と名乗られた。
皆似たような防具をつけている。鉢金、手の甲まで覆う手甲、胸当というか胸甲みたいなもの、名前はよくわからないが足にもプロテクターのようなものも着けている。どれもそれほど頑丈には見えないが、強度は大丈夫なのだろうか。
人数が揃って、今更ながらそんな事が気になってくる。異世界では、なんかこう聞いたことない鉱物でできた、嫌にガッチリした鎧みたいなのを皆が身につけていた。
(ああ、でも、あいつらはそうでもなかったか。防具は重いから嫌だと言って鎧じゃなかったな)
「大丈夫ですよ、この防具頑丈ですよ」
俺が考えていることが何故わかったのだろう。菰野さんがニコニコしながら言ってくる。そういえば彼はいつもニコニコしている。なんとなく胡散臭いなと思うのは失礼なので口にはしていない。
「あなたのお祖父さんはこの村でもトップクラスですから」
そう言ってこちらの心配を和らげようとしているのだろうか。
「それに、今日はオハギもある事ですし」
大変楽しみにしているようだ。だが、相変わらずの胡散臭さ全開に感じるのは、何故だろう。この人、悪い人ではないはずなんだが。
全員が揃うと
「酒吞、気配消してくれ」
祖父ちゃんが酒吞に声を掛ける。
「獅子共は臆病じゃからな」
ニヤけた酒吞がそう返す。
そうして、皆は重箱を開けてオハギを一つ食べてから、山の奥へと入っていく。
オハギは、エナジードリンクか?
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