第17話 変化していく日常
洞窟に戻っっていった酒呑だったが、結局はほぼ毎日会っている。箱庭を通じて出入りが自由なために寝るのに離れを使っているというし、腹が減ると、飯を食べに箱庭からやって来る。洞窟に通いで行っているらしい。
ただ、現れる時間はランダムだ。
真っ昼間に来たと思うと、夜になってから来ることもある。メシを食べて直ぐに帰ってしまう時もあるし、朝に来て朝飯を食べて昼寝をしていく事もある。気ままなものである。
だから作り置きが増えた。
後から出来た離れは、酒呑の為に用意されたものだと主張しているが、いかがなものだろうか。まあ、酒呑にとってはとても便利になっているらしい。酒呑だけ箱庭と話が出来るし、何か癪だ。
「ホント、箱庭ってスキルとかでも無かったんだ。いや、前から意思があるとは思っていたけど」
俺とは殆ど意思疎通ができないのに。酒呑とは仲が良さげな箱庭に、すくなからずショックは大きい。酒呑経由で、家が日本家屋になったのは、俺に気を利かせてくれたからだと聞いても。
対抗する訳では無いが、祖父にも伝えた事だしと、箱庭に入る時間が増えている。家畜の世話や掃除、酒吞の布団を天日干しなどをしている。
折角だからと、異世界の薬草も煎じて簡単な傷薬等も作り置きしている。箱庭は薬草園も前と比較すると拡がった気がする。
どうにもこの薬草達は、薬になってしまえば持ち出しても問題ない。それなのに、調薬するのを箱庭の外で行なうと、薬効が殆ど現れない。調合道具などは一式供えてあるので別に問題は無いんだが。
自分で使ってちゃんと薬として使えるのも確認したから、自宅の薬箱に俺のつくった薬を入れてある。祖父ちゃんは堂々と「狩りに行く」って言って出掛けていくようになったから、ちょっと心配というのもある。狩りに行く時には、必ず傷薬を持たせている。
変な話だけれども、傷薬なんかは自分で作った薬の方が信用できるというか、治りが良い。
で、少し気になって薬草の一部を家の畑でも育ててみてることにした。外で育てたものが、ちゃんと薬効成分があるのかどうか検証してみたくなったからだ。別に箱庭印の薬草に不便は感じては無いけれど。
薬草っていうけど、中には樹木もあって複数本あるのは1本を外に出してみている。これは畑じゃ無くて、庭に植えているけど。
別に、薬剤師の免許とか持ってないから薬を作ってどうのとか思っていないんだけどさ。自分トコで使うんなら問題ないだろう。
箱庭や祖父ちゃんが大っぴらに狩りに行くようになった事だけでなく、幾つか前とは違ってきた。
例えば食卓に並ぶ肉については、酒吞が獲ってくるもので占められるようになってきた。獲物についてはデカイのでこっちでは処理しきれない。それに妖物の場合は色々と前処理もあるというので、毎回、コリに依頼して解体等を請け負って貰っている。
「いや、さすが酒呑様。綺麗な状態ですので素材も非常によい状態です。上質な素材を納品してもらって有り難いです」
先日、顔を出した綿貫さんは嬉しそうにそう言ってくれた。いや、そのキラキラの目でこちらを見ないで欲しい。
酒呑の獲ってきた獲物について、あいつは肉にしか興味がない。それで、肉については戻してもらっているけど、素材として使えそうなモノは『コリ』に卸す形になっている。
最初はそれで解体手数料と相殺にしてもらおうとしたら、かえって素材の代金を受け取ることになってちょっと吃驚だ。
きちんと解体手数料は相殺してもらっているのに返金がある。それも良いお値段がついている。
「妖物の素材って高いんだ」
って思ったね。まあ、モノにも寄るんだが。ただ肉については、量が多いんだけれども殆どは酒吞が平らげるので、余ることはない。
祖父ちゃん曰く、酒吞は今迄狩ってきた妖物を持ってきてはいなかったそうだ。祖母ちゃんと共に狩ってきた時に、祖母ちゃんが獲った分だけ持ってきたとか。
祖母ちゃんが言っていたらしいけど、酒呑は自分が獲った獲物は狩ったその場で血を飲んでたんだそうだ。んで、そうなると妖物は崩れ落ちて残らないとか。そんな話を聞いたら、聞いてみたくなるではないか。
「で、お前は肉を食うので良いのか ? 」
酒呑の好みっていうか、食生活というのがいまいち判らないんで、聞いてみた方が早いだろうと思ったんだよ。
「ああ。持ってきているのは、調理して美味そうな奴だ。他は精を吸ったりしてるがな」
血ではなく、精を吸ってたらしい。
食事をしなくてもそれで問題ないらしいが、俺の作ったものは美味いからいいのだという。
「酒吞が獲物を獲ってくるのは、もしかして俺に妖物を見せるためってことがあるのかな」
最初の獅子には大いに吃驚したけれども、この頃は酒呑が何を狩ってきても慣れた気がする。いや、あっちの世界で魔獣とか跋扈してたしね。俺自身は積極的に戦ってないけど、色々と見慣れてはいたんだ。
ただ、せっかくこっちの世界に帰ってきたって言うのにさ、妖物だのなんだのはお近づきになりたくない。そんな俺の気持ちを知っていてそうしてるんじゃないかと。
「いや、やっぱり食い気の方だと思うけどな。お前の料理は美味いからな」
祖父はあっけらかんとそう言って笑っていながら俺の背中をバシバシ叩く。
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