第15話 物見の巫女


 集会場では、若い人の姿が多い気がする。村は幾つかの地区に分かれていて、この地区は山に面した鬼洗地区と言われている。


「この山の洞窟から、妖物が出てくる。んで、最初に出くわすトコだからな。で、妖物が洗礼を受ける場所だから、鬼洗」

昨日、地区の名前の由来はなにかあるのかってきいたら、そんな由来が帰ってきた。なんだよそれ、る気満々な地名じゃん。


 今回の寄合は、村の状況報告や討伐報告等だった。積極的に村を襲うような妖物はいないのだが、周囲の山などには定着しているものや、紛れ込んでいるものが増えているらしい。


「村の結界は問題ないとよ。こないだ酒吞が見回ってくれた。ただ、洞窟の新しい吹き出し口が見つかったと言っていた。見つけたのは、新しかったんですぐに潰せたと言ってたが、他にもあるかもしれん」

「おう、山を回るときは気をつけてみよう」


そんな話をしていく。俺は隅の方でそうしたやり取りを眺めている。一見、普通のやり取りに見えるんだが、その内容には化け物の話が淡々と混ざっている。


田んぼや水利関係の話、この地区における『コリ』の収益と分配の話などといった、俺からすればこれこそが日常的といった話の中に。

コリの収益の幾つかも妖物関係も混在している。



 話し合いが終わり、今日はこれで解散となった。この後に飲み会などはない。

「おう、幾太郎さん、迅君」

近所の小父さんに声を掛けられた。確か山野辺さんだったろうかと考えていると、


「うちの祖母さんは、明後日の午後なら良いそうだ。そっちはどうだ」

「そうかい。うちも大丈夫だ。それじゃ、明後日の昼を食ったら伺うよ。よろしく頼むな」

祖父ちゃんは、そう返して別れた。


何だったのだろうと思っていると

「迅、物見の婆さんトコに明後日行くことになったぞ。お前も確か、明後日は何も用事が無かったよな」

祖父に告げられた。

「ああ、前にジイさんが言ってた人か」


「そうだ。この頃はすっかり弱くなってなあ。というより、内のばあさんと仲が良かったんだ。ばあさんがいなくなってガックリ来ているんだと思う。

それでも前もってお伺いを立てて体調の良さげな時に見てくれるんだわ。

そうだ、できるならば、身体に良さそうな差し入れを作ってくれないか。この前家に訪ねた時も、少ししんどそうだった。確か、ばあさんはよく蒸しパンとかカステラとか持って遊びに行ってた」


「わかった。んじゃ、祖母ちゃんのレシピを見て作れそうなのを見繕っとく」

俺は自分の菓子の効能はあまり信じてないが、薬師の師匠から教わった薬ならばそれなりのものは作れると思う。ちょっとその辺りも考えてみようと思って、そう返事をした。


 手土産にしたのはまずは体力回復に効果がある飲み薬。味はミント水みたいな感じだ。これは俺自身が帰ってきてからも何度か作って飲んでいるので、問題は無いと思う。そんなに効能は高くは無いが口当たりも良くすっきりする。


あとはお菓子としては蒸しパンが好きだというのでそれとカステラプリン。祖母ちゃんのレシピにはカステラプリンはなかったのだが、レシピを参考にしながらネットなどをみて作ってみたのだ。


ただ、プリン液やカステラの元は、レシピの要領で作ってある。加えて卵と牛乳は、箱庭産を使った特別製にした。何となく、そう何となくそれが良いような気がしたのだ。


案内されたのは奥まった場所にある部屋だった。祖父ちゃんと一緒に山野辺さんの家に来たのだが、部屋に通されたのは俺一人だ。

「よろしくお願いします」

布団から上半身起こした状態の「物見の巫女」と相対した。


 祖父ちゃんに説明されたのは、昨日のことだ。この村には、現在「物見の巫女」、「癒やしの巫女」、「見鬼の巫女」がいると言う。眼の前にいるのは、山野辺さんトコのお婆さんだけれど、巫女として相対しているのは不思議な気分だ。


子供の頃、祖母と共にこの家へ遊びに来た時には、よくお菓子を貰った記憶がある。その時の人の良さげなおばあちゃんという印象は残って入るが、別人のような雰囲気だった。

凛とした佇まいで、これが役割をもって相対しているということなのだろう。

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