第13話 酒呑が来たりてシシを喰う


「まあ、ばあさんのレシピの件はちょっと置いておこう」

祖父ちゃん、ちょっと考え込んではいるようだ。

「お前、クラフトと箱庭以外になにかできるのか ? 」


「ああ。えっと、簡単な魔法だよ。攻撃力は無いな。簡単な火を出したり、水撒きしたり。あとは身体強化かな。それと防御壁みたいなのもできる。これはクラフトで結界を作るってやつなんだけどね」


「そうか」

祖父ちゃんは腕を組んで思案顔だ。やはり、なにか攻撃できるようなものが求められているんだろうか。俺はちょっと考えてしまった。


「やっぱり、戦えないのは要らないかな」

ボソッと言ったら、祖父は片眉を上げて不思議そうな顔をする。


「いや。戦闘は酒吞に任せっきりで問題はないぞ。お前ができるって言うなら、そうしてもいいがな。別に狩りに出たくなきゃ、それでもいい。

この村の中だってまるっきり戦えないのも居る。要は役割を果たせるかどうかだけだ。村は全体的に簡単な結界を張っている。力があれば結界維持のために力を注ぐという役割とかもある。

因みにばあさんは万能型だったがな。アレは中々えげつなかった」


祖父がちょっと遠い目をしたのは、見なかったことにした方が良いのか ?

なんだろう、えげつないって具体例が挙がらないとちょっと、恐いんですが。


「あっちの世界での戦闘とかどうしてたんだ。そんなんでよく無事だったなと思ったんだよ」

祖父は心配してくれたようだ。


「戦いには参加していない。戦えないから。防御壁を展開して、その中で身を守っていた。そこから、負傷した仲間に、回復薬等を投げて与えたりかな。

薬については、向こうの薬師に教えてもらって調合を覚えたんだ」


すこし驚いたような祖父ちゃんが尋ねる。

「お前、薬の調合もできるのか」

「向こうの薬だけどね。傷薬とか胃薬とかかな。向こうでは誰でもできる調合だけだよ」


特別な薬の調合なんて教わっていないと思う。でも、ここであの薬を作ったりしたら薬剤師の免許とか持ってないから犯罪者かな。いや、売らなければセーフ ? どっちだろう。自家消費はセーフだよな。


祖父ちゃんは色々と考え込んだ俺を見て、ふふっと笑った。

「迅。お前は、きっと自分が思っている以上に有能な男だぞ。そうだな。今度、機会があれば自分の事を知るために物見のバアさんのトコにでも行ってみるか。他人から見たお前の能力を知れば、もう少し自分に自信が持てるだろう」


 その日は、結局それで終わった。物見のバアさんは誰で、何をする人なのか聞くのを忘れていた。




 さて、山から酒吞が降りてきた。洞窟前では、やばい雰囲気をビシバシ感じたが、降りてきた酒吞は穏やかだ。

「下にいる時には、こんなものだ。あのまんまだと村に入れぬのでな」

酒呑はちょっとムッとした感じでそう宣う。

「村には入れないって」

俺の言葉に片眉を上げ、不機嫌そうにこちらを見下ろす。


「なんじゃ、知らんのか。この村の集落一帯には結界が張られておるんじゃ」

なんでも、その結界は力の強い妖物などが侵入できないようなものだという。


「そういえば、祖父ちゃんが言っていたような」

村には俺の知らないモノが沢山ありそうだが、徐々に覚えていけばいいと言われている。


「暫く、下に居る」

酒呑のその台詞を聞いてか祖父は、嬉しそうに酒を買いに出かけていった。飲み友達が遊びに来たかのようだ。


 酒吞は、祖父ちゃんに頼まれてプリンを作っている俺の姿を眺めている。何かやりにくい。純粋に祖父ちゃん、甘いものが好きなんだよな。


「何だよ、なにか面白いものでもあるのか」

何となく気になって問うてみた。

「面白いのう。お前、力が外に出ない性質だったんだな」


うんうん頷きながら、酒吞が応える。

「へ ? 」

「お前が無能に見えたのは、完全に体内にとどまっていて、隠蔽されていたからだったんだな」


 酒吞は一人で納得しているように続ける。

「何故そのような形になっているのか知らんが、今は掌や指先からは力を出せるんだな。先日、魔窟で会った時は気がつかなんだ。制御が上手いな」


酒吞はそれ以上、力について説明する気はないようだ。ウンウンと、己だけで何かを納得したのかふいっと縁側で横になり、昼寝の体制になって寝てしまった。言いたいことだけ放り投げて、全くもって傍若無人な奴だ。


 祖父が帰って来たことで、酒呑も起き出して宴会が始まった。まだ夕方と言うにも早い時間だというのに。

勝手に二人で飲み始めたが、酒だけでは良くないので簡単に酒の肴を作って食卓に追加していく。祖父ちゃんは確信犯かも知れないが、仕方が無い。


祖父ちゃんは俺と同じで甘味で酒でも問題は無い。プリンが食いたいと言っていたので、そちらをまずは出す。日本酒だけでなく、ウイスキーやビールもあるので、問題はない、だろ。今日のプリンの卵と牛乳は、箱庭産のモノも使った。


 酒呑は甘い物はそれほど好きじゃないって聞いたし、祖父ちゃんもプリンだけでは物足りないだろう。ということで、作り置きの煮卵やチーズやササミの燻製を出す。オムレツと茶碗蒸しも作って食卓に並べる。あれ、卵づくしかな。よし、晩ご飯は小田巻蒸しだ。


酒呑は卵づくし料理は気に入ってくれたみたいだ。煮玉子や燻製がどんどん減っていくし、オムレツはお代わりだってさ。


「酒吞。お前、今回はどのくらいいられるんだ」

「そうさのう、ここんとこ少々現れるのは大型が増えた。出てくる数も多いからな。まあ、6日かそこらかな。影をおいてきたので、デカいのが来れば直ぐに戻るが」


酒吞の返事に、祖父は眉を顰めた。

「妖物が増えとるのか」

「ややな。まあ、退屈せんで良い」

上機嫌で飲んでいる二人だった。


さて、しばらく飲んでから、夕飯の提供だ。俺の腹が空いたので、二人の気分は関係ない。小田巻蒸しを作ってならべ、追加の酒の肴に先日祖父ちゃんが貰ってきたというシシ肉で作ったチャーシューなども盛り付けた。


「これはなんの肉だ ? 美味いな」

「ああ。この前俺らが狩った獅子の肉だ。なかなか旨いだろう」

「美味いな。がこんなに美味くなるとはな。獅子は外に出てきてるのか ? 」

「北の森で繁殖してたらしい。結構増えていたそうだ」

「そうか。では北の森には抜け口があるのかもしれんな」


俺は二人の会話には参加せず飲んで食べてをしていたんだが、その会話が引っ掛かる。ちょっと待て、祖父ちゃん「俺らが狩ってきた」って。


「祖父ちゃん、なんだよ、釣りに行ってるんじゃ無いのか。狩猟に行っているなんて聞いてないぞ。それにイノシシには確か猟期があるだろう。これ、冷凍物じゃなかったのか」


思わずその点に突っ込むと、一瞬、キョトンとした祖父は自分の発言に気が付き、頭を掻き掻きニッコリ笑う。

「ああ、すまん。言ってなかったかな。俺は妖物狩りに出掛けることもあるんだよ。本当に釣りの時もあるんだがな」

笑って誤魔化そうとするな、ジジイ。そう言えば、「一緒に行くか」と誘われたことを思い出した。


「ちょっと待て、妖物狩りでシシ肉ってなんだ。シシ肉ってイノシシじゃ無かったのか」

なんか、頭が痛くなってきた。俺、食べたけど大丈夫なのか。妖物ってなんだよ。


「悪いな。これは妖物のの肉だ。ちゃんと下処理してあるから、なんの問題もないぞ」

確かに「シシ肉」とは言っていた、言っていたが、これは詐欺だろう。


小田巻蒸しを食べ終わると、後片付けをしその後酒の肴を追加して、二人を放っておいて早々に寝る事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る