第4話
農家しようと意気込んで来たものの、農地が無くなっていた件。
そうはいっても、祖父ちゃん曰く「自分達が食べる分」ぐらいだけどそれなりの広さは残っているし、色々と作っている。
朝の早よからそれなりに仕事はあるので、手伝いする事は細々とあるのだ。ただ、田んぼは全部貸し出しているとか。それで、毎年作ったお米の何割かを使用量として支払って貰っているのだそうだ。実家に届けられているお米もそのうちの一部だそうだ。
子供の頃、祖父母に連れられて畑に何度か行った記憶がある。その当時は畑が広かった気がする。そういえば、その時にお手伝いの人というのに会った事も思い出した。大柄でちょっと迫力のある人だった。偉丈夫とでも言えばいいだろうか。すっごくデカい人、そういう印象だ。
おぼろげな記憶で、顔とかもあんまり覚えてないが、祖母と一緒にいたところを見た記憶をボンヤリと思い出す。
「あの人は誰 ? 」
と祖母に聞いたら、
「うちのお手伝いさんよ。色々と手伝って貰っているのよ」
と笑って答えてくれた。
今の今まで、あの時のことをすっかり忘れていた。畑を縮小したならば、あのお手伝いさんはどうしているのだろう。まだ、この村にいるんだろうか。
朝、畑の水やりを頼まれた。狭いと言ってもそれなりの広さはある。水は水道と言うよりも井戸が近くにあるのでそれを使えと言われたが。
祖父の見えないところでは魔法で水やりをやってみた。魔法で済ませれば面倒がないし、楽々できる。飲み水に使えるのだから、問題はあるまい。
あっちで色々と覚えたものがある。だから、“家”を保持するために必要な魔法は使える。俗に言う簡単な生活魔法だ。勇者と名の付く連中ほどのものは使えない、実に簡素なものにすぎないけれど。スキルのクラフトは、モノを作るために必要な事なら殆どできるようだが、これも攻撃性は無い。
だから戦闘にはとことん向かない。唯一できるのは、クラフトで結界を作る事だけだった。
それでも色々と訓練を受けさせられたなぁ。でもそのおかげで、訓練や実地で身体能力は格段に上がったし、気配察知もできるようになった。その気配察知は、魔法で水をやるのに周囲に人がいないかどうかに今、役立っている。
そうやってあげた水を受けて、ちょっと苗が元気になる気がするのは気のせいだろうか。鑑定持ちだったら、良いか悪いかとか調べられたんだろうけど。生憎と俺は持っていない。
村の有志で作ったという農業法人『コリ』は、手広く仕事をしているらしい。県道沿いにある道の駅での販売なんかも手がけているのだとか。ネットを通じて農産物などの通販もしているという話だ。
祖母ちゃんが健在な時には、色々と加工食品を作ってその道の駅に納品して売っていんだって。そのための婦人会とかがあると言っていた。家には小さな果樹園モドキもあり、そこで作った果物を使ってジャムなんかも作っていたらしい。祖母ちゃん、マメだな。
他にも味噌やお菓子なんかも色々と作っていたという。懐かしいな、祖母ちゃんの手作りのお菓子や料理は美味しかった。子供の頃は、夏休みとか冬休みとかによくここに家族で来てた。兄ちゃんと俺は、祖母が作ってくれたおやつを争って食べたものだ。
「割と人気商品だったんだ。そう言えば作り方も色々と調べて、ノートに纏めていたな」
祖父ちゃんが懐かしそうにそう言う。言われてみれば台所の棚の一つに何冊かノートがあった。あれだろうかと、一冊手に取ってみた。
そこには道の駅に納めていたであろうお菓子やジャム、味噌などのレシピが細かく書かれている。
調味料や食材を入れる順番など、色々と細かな手順が詳しく書かれているのは祖母ちゃんのマメさかね。
何となく、惹かれる。祖母ちゃん、お茶目にもイラストまで描かれている。それだけではなく、材料や作業工程に様々な色分けがされていてカラフルだ。場所によっては蛍光ペンが引いてある。
何かコツとかそういうものなのだろうか。意味は全然判らんけど。
「じいちゃん、これ見てちょっと作ってみていいか ? 」
懐かしくなってその気になったのだ。
作ろうと思ったのは、プリン。今日採れた卵を使ってレシピ通り作業を進める。祖父ちゃんも俺も酒がいける口なのだが、甘い物も好きだ。
ウイスキーに大福でいける。大学の友人にそう話したら、げんなりされた思い出がある。祖父ちゃんなら同意してくれるんだけどな。
プリンを作ったのは、祖父ちゃんも好きだったのを思い出したからだ。先日、寄り合いから帰ってきてからどうも祖父ちゃんの体調がよくなさそうな気がするから。
どこか調子が悪いのか聞いてみても問題ないという。
「ああ、ちょっと色々と立て込んでて。大した事はないんだ」
そう言うばかりだけど、歳も歳なんで心配になっていたので、何が出来るわけでもないけど、せめて好きなモノを食べさせようと思ったのだ。気分転換ぐらいにしかならんけど。晩ご飯のデザートにと4つ。
「お前の作ったのは、ばあさんと同じ味がする」
祖父ちゃんは、ちょっと驚いた様子だったけどプリンに舌鼓をうって2つともペロリと平らげた。
で、食べ終わった時点でちょっと難しい顔をする。2つは食べ過ぎだとでも思ったんだろうか。今更だろ。
翌朝、祖父ちゃんは夕べと比較すれば顔色も良く体調も良さげに見える。気のせいで無いといいんだが。
「お前、道の駅にこれを売らんか。ばあさんのプリンや菓子は人気だったんだ。これだけの再現性をこのままにしておくのは惜しい」
なにか祖父ちゃんが熱心に勧めてきた。
「いや、祖父ちゃん。食べたければ言ってくれれば作るぞ」
「そういう話じゃ無くてな。まあ、また作ってくれると嬉しいが。そうだな。どうだ、このプリン、売ってみないか」
何か意気込んだ様子の祖父ちゃんにちょっと引く。俺のクラフトが何かやらかしたんだろうか。でも、熱心に勧められたので、話だけは聞いてみようという事になった。
「ばあさんのファンが内外にいてな。血は争えないって奴なのかね。同じ様なモンが出れば喜ぶ者も多かろう。お前もここでやって行けそうだ」
祖父ちゃんが嬉しそうにそう言うけどさ、どうだろう。でも、内外ってなんだろう。村の外からも祖母ちゃんのお菓子目当てのお客さんが居たって事かな。
なんか祖父ちゃん、急に元気そうに見えるのは気のせい ?
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